2007-05-29 Tue
入院生活については特に書くべきこともないので、ディベートのことでも書いておくことにします。実は先日某所で行われたディベート入門セミナーの運営などしてきたのですが、そこでとある強豪チームの人々に指導する機会がありました。そこで、高校生の皆さんが立論作成の方法論をきちんと教わっていないことを目の当たりにし、ちょっとかわいそうだなぁということを思わされました。百選を読んだことのない法学部生…というと言いすぎかもしれませんが、何にせよもったいないことです。
というわけでこれから紹介するのが、システムマップ(と僕は教わった)の考え方です。
まずは、以下の図を参照してください。

システムマップとは、プラン(正確には「論題」です。以下同じ)を採用しない現状のシステムが、プランの採択によってどのように変わるのかを考えるための道具です。
図にある2本の横線は、上が「プラン前の世界」で、下が「プラン後の世界」を表しています。プランの有無をスタートとして、左から右に因果関係が流れ、右端にその帰結が書かれます。
具体的に説明しましょう。
親しみやすく(?)するために、論題を「愚留米はダイエットすべきである」というものに設定し、「愚留米は週に1回御殿下のプールで泳ぐ」というプランにより発生する「スリムになってモテる」というメリットを例に考えてみます。逆に分かりにくくなっているという声も聞こえてきそうですが知りません。
とりあえず設例をまとめてみましょう。
論題「愚留米はダイエットすべきである」
プラン
・週1回御殿下のプールで3km泳ぐ
(*)ちなみに愚留米は予想に反して普通に泳げますのでその点は心配しないで下さい
メリット「スリムになってモテる」
このメリットの現状分析としては「太ってるのでモテない」という議論が思いつきます。これをプランと関連させて述べると、「プランを採択しない現状では、愚留米は運動しないので、消費カロリーが少ないため太ってしまっている。そのため、愚留米はモテていない」ということになります。
この因果関係を前掲のシステムマップの上側の線で表すと、以下のような感じになります。
(プランなし)
⇒(A:運動しない)
⇒(B:太る)
⇒(C:モテない)
⇒(X:入院生活不毛)
右端はいわゆる重要性の要件が入ります。というわけで、とりあえず「モテないと入院生活が不毛」ということにしておきます。個人的感想としては、棺桶から出てくる入院患者はみんな楽しそうな顔をしているので、みんなモテているのか、モテなくても幸せなのかどちらかなのでしょう。僕はどうかというと…皆さんの想像にお任せします。ただ、前者ということはありえませんが。
さて、これがプランを取るとどう変わるか。「スリムになってモテる」ということを言わねばならないのですが、これを因果関係に引きなおすと「プランを採択すると愚留米は運動するようになり、今より痩せる。するとモテるようになる」ということになります。
これを同様に前掲のシステムマップで表すと以下の通りです。
(プランあり)
⇒(A´:運動するようになる)
⇒(B´:太らない・痩せる)
⇒(C´:モテる)
⇒(Y:入院生活充実)
といったところで、メリットが完成しました。
いわゆる3要件で整理すると、内因性が「運動不足で太っていてモテない」、重要性が「入院生活がつまらない」、解決性が「運動で痩せてモテるようになる」といったところです。
これをシステムマップに書き込んだ状態が以下の図です。

このようにシステムマップを書くことの利点は、以下の3点です。
1.議論がきちんと成立していることが確認できます。
基本的に、ディベートで展開されるメリット・デメリットは、現状とプラン後の差によって表現されます。よって、内因性と解決性、固有性と発生過程は、それぞれ対照的な内容でなければなりません(それぞれが表と裏の関係にある、ということ)。
システムマップのポイントは、現状の世界に対応するプラン後の変化が、縦に並んでいるということです。例えば、「運動しない」という状況がプランによって「運動する」という逆の状況に変化し、それによって「太る」という状況が「痩せる」という逆の状況に変化します。
このような裏返しの関係が全てのリンクについて成立しないメリット・デメリットは、証明不十分ということになってしまいます。そこで、システムマップによって、きちんと因果関係の要素を挙げているか、それぞれについて現状とプラン後の違いを説明できているかをチェックすることが有益です。
2.因果関係を明示することで、立論の構成がきれいになります。
システムマップの上の横線は、メリットであれば内因性と重要性、デメリットであれば固有性を表しています。また、下の横線は、メリットであれば解決性、デメリットであれば発生過程と深刻性を表しています。
つまり、システムマップで挙げた内容を左上から右下まで線に沿って説明していけば、自然と立論が完成するのです。
いきなり立論を書きはじめる場合、因果関係や議論の対応がごちゃごちゃになり、意味不明の立論が仕上がってしまいます(中高生の立論の3分の1くらいは残念ながらこのレベルだと思います)。しかし、システムマップをきちんと書くか、これを頭の中で意識できるようになれば、そのような残念な立論を書くことはなくなるはずです。
3.反駁の検討に役立ちます。
ディベートで展開される反駁のほとんどは、システムマップの上で把握できます。具体的には、内因性・重要性や固有性に対して行われる反駁は「システムマップの上の横線から下の横線に線をつなげる」という行為であり、解決性や発生過程・深刻性に対して行われる反駁は「システムマップの下の横線から上の横線に線をつなげる」という行為です。
この点については、もう少し詳しく見ていきましょう。ダイエットの議論で説明します。ただし、文中の記号については最初に挙げた図のものと対応していますので、適宜補って読むようにしてください。
例1:
「愚留米は実は太っていないのでダイエットの必要はない」という反論は、Bの事実(内因性)を否定するものですが、これはA⇒Bではなく実はA⇒B´である(運動していないが太っていない)という反論であり、右斜め下に線をつなげてしまうことでメリットのリンクを切ってしまうものです。
同様の反論として、「愚留米は太っているがイケメンなのでモテている」というものがあった場合、これはB⇒C´という線をつなげる行為だということですね。
まあ、以上の例は残念ながら両方とも事実に反するので、採用することはできないわけですが。「愚留米はモテないが別の趣味で満足しているので入院生活は充実している」という反論(C⇒Y)はありうるかもしれませんが。
例2:
「水泳をしてもその分腹が減って食べ過ぎるので結局痩せない」という反論は、A´からB´へのリンク(解決性)を否定するものですが、これはA´⇒B´ではなく実はA´⇒Bである(運動しても太ってしまう/痩せない)という反論であり、右斜め上に線をつなげてしまうことでメリットのリンクを切ってしまうものです。
同様の反論として、「痩せても愚留米は他の要素がイケてないからモテない」というのは、いわゆる別の因果関係による解決性の欠如を論じる反論ですが、システムマップ上ではB´⇒Cという線をつなげる行為だということになります。
例3:
システムマップでの把握にとって少し例外的な議論として、「そもそも入院生活が充実していることなどどうでもいい。むしろ過酷である方が勉強に集中できて療養効果が上がる」というインパクトターンを考えてみます。この場合、システムマップのリンクは説明しません。
このような反駁の場合、Xの要素がX´(不毛という名の試練)、Yの要素がY´(充実という名の堕落)というものに変わる…と考えます。つまり、実は望ましいと思われていた右下の最終目標が間違っていた、ということです。システムマップの線が変わるのではなく、右端の帰結の評価が変わる、ということです。
以上のようにして、システムマップによって反駁の性質を説明することができます。システムマップを見ながら、A⇒B´のリンクは成立しないだろうか…といったことを考えることで、反論を思いつくということです。反駁というものは、現状とプラン後の差異を縮める行為ですから、システムマップにおいてそのように考えることは自然なことです。
反駁を考慮することで、立論でどこを中心的に論証すべきか、補強すべき点はどこか、ということが見えてきます。この議論の例で言えば、どうも解決性を重点的に証明する必要がありそうだなぁ、ということが見えてきますね。
もちろん、上記の内容はデメリットについても同様に妥当します。
というわけで、みなさんシステムマップを活用して議論を考えてみよう、ということでした。