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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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2007年JDA秋季大会参戦記(2:実験室との練習試合)
今回は前の日曜日にやってきた練習試合の話を取り上げます。大会前ということもあって細かな議論を紹介することは少し控えておきますが、どういうことを考えながら議論を組んだのか、議論の改善点としてどういう要素を考えたか、という点について言及し、多少なりとも参考になるような内容にできればとは思っています。

練習試合の内容は、いちいち1ACから追っていくということはしません。JDA本番ではそういう書き方をしてもいいかなぁとは思っているのですが、僕のフローシートは非常に読みにくく、試合終了後には判別不能になっている可能性もあるので、再現不可能になってしまうかもしれません。

○ ブリーフの作り直し
弁論部での練習試合があまりに終わっていたこともあり、これではいけないとブリーフの手直しを行なうことにしました。エビデンスを精査してより使えそうなものに差し替えるのと、論点ごとにきちんと反論形式になるように主張などを付け直すことです。

練習試合が日曜日に迫っているということで、土曜日は一日中作業をしていました(といっても息抜きなど含めてですが)。結果的に、次のような種類のブリーフを作りました。

肯定側
・ケース(拘禁ノイローゼの解消、誤判救済、囚人の更生可能性確保と3点のメリットが入っている。前の試合と変化無し)
・ケースのサポート(各論点の再反論用資料集)
・犯罪増加デメリットへのアタック
・再犯デメリットへのアタック(無期刑を代替刑にしていたので)
・被害者感情デメリットへのアタック
・世論反発デメリットへのアタック
・現場処刑デメリットへのアタック
・応報の必要性があるというデメリットへのアタック
・地震デメリット(地震で死刑囚が出てくる)へのアタック
否定側
・犯罪増加デメリット(2NCの原稿も含む。以下デメリットにつき同じ)
・終身刑が残虐だというデメリット
・現場処刑デメリット
・再犯デメリット
・冤罪ケースへのアタック
・人権ケースへのアタック
・刑務官ケースへのアタック
・犯罪増加ケース(残虐化、拡大自殺など)へのアタック
・犯罪者社会復帰ケースへのアタック
・国際世論ケースへのアタック


このように列挙すると結構作ったように思えますが、このくらいは用意しておかないと何が起るかわかりません。
あと、デメリットが複数あるのは、2回立論形式では相手の出方によって複数のデメリットを出す戦略がより有効に機能しうるのと、1つ1つのデメリットを比較的短めに作れる(2NCで再構築するため)という事情によります。実際に使うのはそのうちの一部ですが。

議論の構想としては、肯定側ではとりあえず試験的にいろんな議論を出そうということを考えていました。
特にやりたかったのは、犯罪者の更生可能性を保障しようという論点でして、絶対出てくる再犯のデメリットを返す中で「現在の無期囚が再犯をしているわけだが、現在は再犯可能な地位(釈放)に置かれるかどうかが裁判時に決まっており、その後の更生状況などが考慮されない。社会復帰の可能性は最大限尊重すべきであり、現在でも完全な犯罪者隔離ができていない以上、死刑を廃止して全ての囚人に復帰可能性を認めよう」といった議論です。
要するに、反省したかどうかが良く分からない判決時に出られるかどうかを決めてしまうのはフェアではないから、死刑はやめて一旦閉じ込めた上でその後に大丈夫そうな人は出してあげよう、それで再犯が多少出たとしても、復帰可能性のある人間を殺してしまうよりはずっといいし、復帰可能性を判決時の不十分な情報で遮断するより公正だ、という立場です。

否定側としては、なかなか戦略を立てるのは難しいので、犯罪防止を国家の義務として位置づけた上でこれを守り、後は肯定側のメリットを各個撃破する…といったところです。あと、よく出てくる終身刑代替プランに対し、終身刑のほうが犯罪者の更生を妨げ、残虐であるというデメリットをぶつけるという予定で、犯罪者にとっても社会の一般人にとってもよくない、という戦い方を考えていました。

○ 練習試合1試合目
いよいよ日曜日、代々木のオリセンでディベート実験室なるディベート愛好家集団の主催する練習会に参戦しました。僕のチームのほかに高校生&大学生混成チーム(ディベート甲子園OB、全国大会決勝出場者などがいる)や大学生チーム、社会人チームなど計5チームが来ています。

1試合目は実験室の代表である日本最高レベルのディベーターのいる社会人チームと肯定側で試合することに。前の練習試合では否定側だけやっていたので、肯定側では初試合です。
とりあえずケースを提出し、1NCを待ったのですが、たくさん論点を出した分いろんなところにレスポンスが返ってきて(まぁ分かってはいたのですが)、割と苦しい状態で弟の2ACに。エビデンスを十分刈り込んでいない(いらないところまで読んでしまう)などの準備不足もあり、微妙に返しが甘くなってしまい、その後のネガティブブロックを経ての僕の1ARも微妙(実は大学以降で1ARをやった経験はほとんどない)で、多分負けたっぽい感じで終わりました。相手もまだ本調子ではなさそうな感じだったのですが、その下を行ってしまいました。

ただ、肯定側は割と実験的なところがあったので、結果自体はしょうがないかな、という感じです。
更生可能性の議論から再犯への再反論を通じて議論を構築していく…という作戦については、どうも時間が足りなさすぎて難しいということが分かりました。それ一本にケースを絞るという手はあるのですが、それはそれで勝ち筋を減らしすぎてしまい、なかなか微妙なところがあります。ディベートを離れて死刑論題を考える上では結構いいところを突いている論点だと思うのですが(あまり論文で言及してるものもないし。弁論の原稿になりそうな感じです)、ディベート的には議論経済上あまりよくないってことですか。

拘禁ノイローゼや冤罪の議論については、カウンタープランで攻めてくる可能性もあるということを再認識させられました。死刑囚はいつ死刑が執行されるか分からないのでその恐怖から拘禁ノイローゼになる…というお話なのですが、これについて「6ヵ月後に必ず死刑執行する。しかし再審請求していればその間は執行停止」というカウンタープランを出され、一応レスポンスしたのと相手が伸ばさなかったので勝敗には影響しなかったのですが、本気で立ててきたら一応対策の必要があるなぁと。
もっとも、6ヶ月後に殺されると分かっていれば平気だというものでもないでしょうし(っていうか怖いですよね)、再審請求は証拠の捏造や新証拠の発見など再審事由がないと受理されない(再審は再審開始決定の確定後に始まります。名張毒ぶどう酒事件の再審はまだ開始されていないのです)ので、準備すれば余裕で返るわけですが。

最大の反省点は、スピーチが全然ダメだったということです。久しぶりなのでしょうがないといえばそうですが、時間配分やスピーチの滑らかさが全然なっていないわけで、そのせいできめ細かい反論が全然できていませんでした。元々スピーチが上手いわけではないのですが。

ここで、スピーチの上手さというと「上手に聞こえる」とか「聞きやすい」ということを想像されるかもしれませんが、実際はそれだけにはとどまらず、的確に論点を指摘したり、資料の内容を上手く表現したり、構成を工夫して議論の全体像が分かるように展開したり…といった、より議論の内容と関連した部分での「上手さ」というものが問題となってきます。
早口であるかどうかはスピーチの上手さにとって全く本質的ではなく、スピーカーが理解し、展開できるレベルのスピードを超えているかが上手さの本質だというべきです。議論を完全に理解し、適切に展開している人の高速スピーチは問題なく理解できる(むしろ心地よく聞こえる)のですが、議論を理解しておらず、どうでもいいところばかり反論しているような人がどれだけ分かりやすいスピーチを心がけたところで、ジャッジの頭は混乱し、イライラするだけです。で、今の僕は早くて下手くそという最悪の状況にある、ということです。

前回もスピーチの早さをどう考えるか、ということについて言及したのですが、ディベーターの中にはこのあたりを結構単純にとらえている人が多いんじゃないかという気がするので書いている次第です。早口であれば即「非教育的」とかいうのはあまりに短絡的で、「お前が理解できないからそうやって非難してるんじゃないか」というように思わされるわけです。
もちろん、ディベート甲子園のような大会では一般向けにスピーチすべき義務があるということも分かりますし、僕も連盟関係者として仕事をするときにはそうやって言っているのですが、ディベートの楽しさはスピードとパワーを兼ね備えた議論がぶつかっているところであり、分かりやすいスピーチに聞きほれる…というのは(ありうるとしても)アカデミックディベートの醍醐味とはちょっとずれている(ついでにいうなら教育目的の中心でもない)のではないでしょうか。

○ 否定側での第二試合
話がわき道にそれましたが、続いて否定側を担当した第二試合の話です。相手は、一昨年に関東JDAや九州JDAなどで一緒にチームを組んでいた大学生(今は別の大学のローで入院中)とそのパートナー。プレパもしっかりやっている実力者です。

相手のケースは生命権の尊重という観点から、死刑の残虐性と残虐化効果(死刑が犯罪誘発のメッセージ効果を持つという議論)、そして冤罪と盛りだくさんの論点を出すという感じです。我々とは違って一つのメリットの中に入れており、若干分かりにくいような気もしましたが。
こちらは犯罪抑止力低下のデメリットと終身刑の残虐性のデメリットを出し、ケースの各論点に返していくという流れ。ターンアラウンドなどをもう少し読みたかったのですが、訓練不足でそこまで手が回りませんでした。

結局、犯罪抑止力の部分にいろんな反論があり、終身刑のほうが抑止力があるんじゃないか…という有名な議論なども含めて甲乙つけがたく、よく分からない感じになってしまいました。
こうなると否定側は非常に勝ちにくく、冤罪はほぼつぶしたと思われるものの、残りの争点をどう判断して投票するかはジャッジ任せだなぁという結果になりました。否定側で勝ち筋を安定させるためには、犯罪抑止力の議論を守りきるか、そのほかのインパクトある議論を立てる必要があるのですが、追加リサーチの結果も含めて考えると、否定側が犯罪抑止力を守りきるのは至難の業(理論面でも統計面でも実証面でもターンアラウンドでも肯定側が有利な議論がある!)で、どうも新しい世界を開拓する必要がありそうな感じです。

○ 試合後の反省と弾薬の入手
スピーチについてはまだまだであるということが分かったのですが、議論については反省点が多々あるものの、このまま問題点をつぶしていけば試合になる程度の準備はできそうだという印象を持った練習会でした。しかし、否定側の議論はなかなか難しいところがあります。

議論の内容と離れたところの反省点としては、原稿の議論をもっと絞込み、資料の質を高めて必要なものだけを残す、という形にしたほうが使い勝手がよいなぁということです。僕は原稿を作る際にできるだけ多くの議論を用意しておくのですが、試合で使用する可能性がほとんどない反論まで載せておくのは混乱を招くだけ…ということを弟に言われ、それもそうだなと思い直したわけです。
というわけで、次の試合までにはもう少し議論を精査し、強そうなものだけを載せていくように心がけることにします。

あと、今日の試合で聞いたことのなかった良エビデンスがあり、それらを融通してもらうことができました。相互にエビデンスを交換しあうことで議論の質が向上するということはよいことです。JDAで当たるかもしれないわけですが、お互いに最善の議論をした上で勝敗がつくことが最も大切なことで、勝敗はその結果にすぎないわけですからね。
その他、英語ソースで使えそうな資料をいくつか発見し、英語が得意な後輩にお願いして訳してもらったりしました。英語ソースのほうが主張が攻撃的で使いやすかったりするのです。


といった練習会でした。1週間後(次の日曜)にも練習会があるということで、現在議論を作り直しています。次の練習会が終わってからまた記事を書ければというところです。

2007年JDA秋季大会参戦記 | 22:04:33 | トラックバック(0) | コメント(0)
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