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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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JDA秋季大会の雑感
最近はやたら論争的な連載を書いて盛り上がっていたわけですが、普通の話題も書かなければということで、先日あったJDAの感想でも書いておくことにします。入院日記なのにロースクール関係のことを書かないのは仕様です。ブログの紹介文を書き換えるべきかもしれません。
某POPについては、その作成母体が今月いっぱいで解散するらしいので、その後に弔辞ということで総括を書いておしまいという予定です。

JDAにはジャッジとして伺ったのですが、結構な人手不足らしく、予選3試合を見ることになりました。決勝にも突撃させられる予定だったらしいのですが、どさくさにまぎれて実験室チームに参加した弟が決勝まで行ったので外れて助かりました。それにしても決勝が実験室B対実験室Aとは、何という内輪…(昨年のばるさみこすもITBとは言いながら実際は実験室関連団体だし。ばすさみこすが予選で当たったうち2チームも関連団体だったという)。まぁ、実験室のリサーチ量と練習試合の数は参加チームで抜けてるので、当然といえば当然です。

実際ご覧になっている方も少ないでしょうから、決勝戦を中心に「日本政府は核燃料の再処理を放棄すべきである。」という論題でどういう議論が展開されたのかということを簡単に触れつつ、何かしら参考になりそうなことを書ければという感じです。

1.否定側の戦略~何をどう議論するか~
今季の論題は否定側が非常に難しいという印象を受けました。核燃料の再処理をしないと原発の使用済み燃料の置き場がなくなって原発を稼動できなくなるという話があり、これを前提に原発停止DAなどを作っているチームが多かった気がします。その他、再処理技術が停滞してよくないとか、再処理せず直接埋めると危ないとか、再処理した方が核燃料を軍事転用しにくくなってよいとかいう議論があるようですが、どれも決め手に欠けるものばかりです。原発論題でおなじみ「止めても他の方法で代替可能」という議論があるし、そもそも再処理が上手くいく保証もなく(まだ六ヶ所村の再処理工場は稼動していない)、上手くいっても現在の計画では原発から出る使用済み核燃料の全量処理はできないという事情があります。

そんな中聞いていて面白いと思ったのは、予選で見た試合で見られたあるチームの議論展開です。そこは1NCで普通の原発停止DAを出していたのですが、2ACで火力水力を用いて代替するというシナリオを出してきたのに対応して、2NCで火力水力にシフトすると環境に悪かったりコストが高かったりするというDAを出してきました。1NCで基本的な考え方(エネルギー政策で考慮すべきポイント)を出していたところ、相手のプラン後のシナリオに合わせてそれらのポイントにAffのプランが合っていないということを論じるという、なかなか好印象の議論でした。
もっとも、細かいことを言うと、1NCのDAが長すぎる(相手の立場が不明なので、停電の話などは要らないのではないか、とか)とか、2NCでの展開方法はもっと練りこめるかもなどの問題はあるわけですが、方向性としてはよいと感じました。

あと、決勝戦でNeg(弟のチーム)が出していた「六ヶ所村と再処理して燃料を運び出すという約束をしているのに、再処理をやめるのは無責任でありよくない」という議論も、うまく展開すると面白いんじゃないかなぁという気がしました。説明不足で不評だったようですが、決勝のAffのプランは「今運び込まれている燃料はとりあえず中間貯蔵」という無責任そのものの立場だったし、プラン後の対応方法については結局不明確だったので、そのあたりを捉えつつ、六ヶ所村の人々にとって何が一番嫌なリスクなのか(使用済み核燃料がそのまま存在していることが嫌なんだという話は成り立ちそう)という観点で伸ばしていくと、Negの出す他のDAやケースアタックとの兼ね合いで相性のよい議論になる可能性を感じます。僕が大会出るとしたらこのDAを軸にやりたいところです。

2.マニアックな話に惑わされず議論を絞ろう
ここからは決勝戦のお話しです。
今回のAffのケースはかなり完成度が高く、ぱっと聞いているとAD1については隙のない感じでした。AD1の話は大要以下のようになっています。
・再処理工場は稼動中どこで事故が起こるかわからない
・おまけに核関連の人材はやる気がなく、耐震偽装などやばいことも起こっている
・地震が起こると再処理工場が大事故に
・再処理工場での事故は不可逆なので少しでも事故の可能性あればやめるべき
・再処理工場をやめれば稼動中の事故はなくなるし、使用済み燃料はプールに漬けておけば水が抜けてもちゃんと対応できて安全

どこが秀逸かというと、普通はケースアタックで読みそうな「使用済み燃料はプールに漬けておけば水が抜けてもちゃんと対応できて安全」というエビデンスを、再処理工場が使用済み燃料を切り刻んで加工するため危ないという話と対比させ、解決性に持っていっているところです。

このケースに対し、昔パートナーだったこともある某入院患者が猛烈にアタックをかけていたのですが、量が多すぎたきらいがあります。それに対する2ACも非常によかったのですが、燃焼度がどうとか(GWT?)いうやたらマニアックなエビデンスを読んでいたり(聞き取りましたが結局どういう風に反論になっているのかよく分からず)と、すさまじいカオスな状況になっていました。
思うに、上記のケースに対して攻撃するとすれば、稼動中の事故という点には「再処理工場での事故は原発と違って小さい」というものと「六ヶ所の工場は構造上全地下なので安全」という話だけで足りた気がします。あと、試合中では出てませんでしたが、やる気なし&偽装の問題についてはCPで対応できたのではないかと。正直、職員の士気とか偽装といった問題は、再処理という事業を評価する本質ではないと思います。やばいって分かっているなら、再検査して補修すればいいし、職員についてもきちんとした人を送り込めばいいじゃないかということです。
ちなみに、この試合では1NRがめちゃくちゃいい仕事をしていて、Affの「JCOの事故がやばかったじゃないか」といった反論などに「ほかはともかく六ヶ所村の再処理工場は全地下だからそんな事故は全然問題なし」と、めちゃくちゃ鮮やかな返しをしていました。それだけに、1NCで無駄に思える議論が多かったのが悔やまれます(まあ僕もよくやりますが)。

地震の話については、通常稼動の部分に時間を割きすぎて十分なケースアタックがなかったのですが、結局は「いくら基準を満たした施設でも偽装されてるし、地層がずれるような地震が起これば施設に関係なく事故になる」という感じでまとまってしまっていたように思います。
ただ、「地層がずれる事故」という話まで持っていってしまうと、それじゃあプールに漬けておいた核燃料もやばいんじゃないかということで、結局解決性を失ってしまうような気がします。そこで六ヶ所への責任DAを上手く絡め、「六ヶ所の人にとって一番危険なのは、再処理せずに運び込まれたままの使用済み燃料そのものである」という感じで締めれば、なかなかよい返しになるのではないでしょうか。

3.シナリオを語る
今回の大会講評で強調されていたのは、議論のシナリオをしっかり説明しようということです。決勝のNegがその点で弱かった(難しいので仕方なくはある)というもあっての提案でしょうが、これは非常に重要な指摘だと思います。
講評の中では「毎スピーチ30秒、最初に時間をとって概要を説明するというのはどうか」というなかなか踏み込んだ提言もあったのですが、展開したい議論の種類によっては、それだけの時間をかける価値はあるのかもしれません。

もっとも、これは形式的にオブザベーションとか言っとけばいいというものではなく、相手の議論を踏まえた上で、全体を見据えて説明されるべきものです。今回の決勝のNegにとっては、十分時間を割いて話すべき内容だったかもしれませんが、もっとシンプルな試合であれば、その重要性は下がるかもしれません(個々の議論の帰趨で決まってしまうところが大きいので)。
ただ、この提言の本当の意味は、それぞれのステージにおいて「どうしてこれからそういう議論を出すのか」ということをきちんと理解して喋らないといけない、ということでしょう。最初に30秒とって説明するにせよそうでないにせよ、そういった説明をコンパクトにできる力量・理解があれば、分かりやすいスピーチをすることができるでしょう。要するに、重要なことは「自分たちの議論についてしっかり理解し、それに合わせて試合全体の流れの中で相手の議論をきちんと理解し、位置づけよう」ということです。その一つの表れがスピーチ中でのまとめスピーチです。

試合後に振り返るといろいろ勝手なことを思いつきますが、試合の中ではなかなかそういった筋が見えてこないものです(僕のことです)。そういう未熟なディベーターにとって、今回の大会講評を踏まえ、試合の中で大枠を捉えられるような能力と、そういった作業を試合中にうまくこなせるような事前準備の方法の研究というのが、大きな課題になってきそうです。


そんなところです。今年も総じてレベルは高めで、よい大会だったと思います。ディベートに関心のある中高生の方々(中学生にはきついかもしれませんが)は、決勝戦くらいは見に来てもよいのではないかと思います。来年の春にもありますので、機会があれば是非ご観戦ください。

JDA決勝批評 | 04:00:05 | トラックバック(0) | コメント(4)