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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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2010年JDA春季ディベート大会決勝戦の批評
また宣伝が出たので時効中断のために記事を書きます。

またあとで詳しく書きますが、11月にあるJDA秋季大会に出場することになりました。おそらく選手として出場する最後の大会になると思います。論題は「日本国政府は代理出産もしくは着床前診断を合法化すべきである」というもので、実は過去にほぼ同じ(文言が微妙に違う)論題で大会に出ていたりします。東京を離れたこともあって練習試合やリサーチなどで制約があることは否めませんが、よいパートナーにも恵まれましたので、見ごたえのある議論ができればと思っております。ブランクもあってかスピーチがしょぼくなっているのは相変わらずですが。

さて、今日の記事は、この春に実施された炭素税論題でのJDA大会決勝戦について、批評を加えようというものです。司法試験学習の息抜き(!)として、MLで流れていた速記録を元にして試合の批評を書いていたのですが、最近になってようやく速記録がJDAのHPに公開されたので、ここで批評を公開しようという趣向です。
JDAの決勝戦ということで見ごたえのある部分も少なくないのですが、一方で、速記録を見る限りでは、改善の余地も少なくない試合だったという気がします。そういった点も含めて、中高生や大学以降のディベーターにも、良い点悪い点含めて参考になるのではないかということで書いたものです。読者の皆さまも速記録を見ながら、各自の視点で批判的に議論をご覧になると、参考になる点が多いと思います。

それでは以下、批評です。

*******

第16回JDA春季ディベート大会決勝戦
論題:日本国政府は炭素税を導入すべきである。

肯定側(Aff):創価大学DebateNewtorkE(佐藤瞬・田中時光)
否定側(Neg):※ただしつけ麺に限る(竹久真也・玉置繁之)

速記録 (JDAサイト内。安藤温敏氏の編集による)

*各ステージ(質疑除く)について、速記録の内容を元に筆者の目から見た感想・批評を記しています。あくまで私見です
*元の文章が弁論部の後輩向けだったりするので、(一部直していますが)文体がいつもよりくだけています
*例によって辛口になっていますが、試合をするのと見るのでは違いますので、実際には選手の方々はよく健闘されたと感じております。上から目線なのは仕様であると理解していただければ幸いです


【1AC(肯定側第一立論)】
温暖化対策系のケース。エビデンスが割といいことを言っていて、過去論題から新たにプレパした成果が出ているところがよかったです。特に、炭素税でなければならない理由がしっかり出ているのがよいです。
ただ、DA(デメリット)を意識してか、ビジネス系の議論がちょっと強く、環境の話をしたいのかビジネス発展の話をしたいのか見えにくい感があります。素材はいいがスープが濁っている…といった感じで、構成が分かりにくくなっています。ケースを作る際にDAを意識すること自体はよいのですが、あくまでケースの本筋が第一です。2ACの議論でケースの議論を援用しつつDAにT/A(ターンアラウンド)をかけながら反論を構築していくという戦略の方が厚みがあってよいでしょう。すなわち、DAへの反論はあくまで2ACでやり、1ACではその起点――今回のケースで言えば、温暖化対策が経済にとっても有用であるということや、企業にはイノベーションの余地があること――だけを自然な範囲で織り込んでいくということです。
あと、地味にCO2と温室効果の因果関係を直接言っている資料が入っていないのが気になりました(関係あるに決まってるだろう常識的に考えて…ということなんでしょうが、有力な反論もありますので)。

思うに、1ACでは最初に重要性(問題の所在)として温暖化の話をちょっと強めにして世羅さんのエビデンスで締め、内因性では炭素税のような直接負担が必要不可欠だという話を中心にしたらよいんじゃないかなぁと。今のケースにある解決性と重要性はまとめて政策の効果として挙げればよかったでしょうか――個々のエビデンスレベルではいい議論が揃ってると思います。日本の成功が他国も動かす…というのは重要性で言うべきことではないでしょうね。これは解決性の議論です。

【1NC(否定側第一立論)】
最初に価値基準として応能負担の原則が出ていますが、後で見るDAと対応しているかはちょっと怪しいです。逆進性の問題はあると思いますが、企業への課税という観点からは、炭素の排出という経済活動に担税力(このワードも租税法学で出てくるが、実際のところ謎の概念ではある)を見出すことは可能でしょう。中小企業の負担は税負担ではなく経済縮小による収入減っぽいですし(DA1のエビより)、DA2をもっと言わないと厳しいのではないか。それに、汚染者負担という話もありますし。
もしかしたら、基準って言っといて最後に伸ばすと勝ち、みたいな発想なのかもしれませんが、(この試合がそうだったかは別として)そういう風潮があるように思われることを僕はすごく問題だと感じています。価値基準やプリザンプションとか言っとけば取られるという風潮があるとすれば問題があります。この議論に即しても、応能負担の考え方を極端に推し進めると、低所得者からはいかなる税金も取れなくなるということからも、炭素税に固有のロジックを用意しない限り、これだけでDAを支持することはできないはずです。原則を出すだけ出して、それだけで自分たちの主張が強くなるという粗い思考は斥けられるべきであって、ディベーターとしてもその辺について深い思考が必要となります。

DA1は産業の衰退。例によって鉄鋼の議論ですが、エビデンスが古い(2003)のと、何故か落ち着きどころが貸し剥がしというよく分からないことになっているのが気になりました。炭素リーゲージ(規制の緩い海外に移転してむしろCO2排出が増える)の話につながるから、国外移転の議論にするのが定跡だと思うのですが。あと、中小企業の話は、とってつけた感があります。まぁ1NCだしこんなものですか。
DA2は逆進性の問題。ちょっと弱いですね。命の危険までは言えてない感があるし、応能負担の基準を出すのなら、もっと理念的に攻めるべきです。

ケースアタックは、なかなかのプレッシャーでした。この攻めの姿勢は大いに参考にすべきです。
第一の反論は、企業のイノベーションは不可能という議論。いくつかの証明があり、よい反論ではあると思います。この辺は(残念ながら)ディベート甲子園では見られない、しっかりした証明がされてて見ごたえがあります。ただ、この点にアタックするなら、企業のエコ意識が既に高いことも指摘すべきでしょう。それで「ほっとけば勝手にやるのに税負担で足を引っ張られる」という形で投資T/Aが際立つのですから、これは必須の反論だと思われるのに、1NCで提示しないというのはちょっとよくないです。2NCでT/Aの再構築という形で展開するのもアリかもしれませんが、1NCで出すのが無難だと思います。
第二の主だった反論は、アナウンスメント効果の否定。これもまぁそこそこだとは思います。この辺については、Counterplanとしてエコポイントみたいな「優遇措置」を取ることでもキャプチャーできるといった議論を出しても面白いかもしれませんね。炭素削減技術に減税措置といったCounterplanも、直接言ってるエビはないかもしれませんが、有効かもしれません(少なくともこの試合のAffのロジックには当てはまると思います)。というかきちんとプレパしたらこれでNegが勝ちそうな気がします。
最後に、試合のキーになりそうな投資不可能T/Aが登場。これはプランで対策されているので、まずプランの攻撃をすべきだったと思います。プランでは補助金を出すとしか言っておらず、補助金の分配方法などは謎です。往々にして補助金というのは利権などを生んで腐るし、一旦集めて配るというのは効率を妨げると考えられるので、その辺を質疑でもっと聞いて、アタックすべきだったはずですし、多分アタックしたら切れます。

総じて、DAも含めた議論の一貫性が見えにくいのが残念でした。炭素税論題は一貫性を持った議論を作りやすいものだと思うので、そこに目を向けてほしかったです。
関連して、単にT/Aというのではなく、一個のDAとして議論を考えた方が厚みが出るでしょう。投資が鈍るという議論をやりたいのであれば、現状では投資ができているという固有性を示したほうが議論が伸びます。この試合で言えば、現状でも企業はやる気があるので問題ない、という内因性に対するアタックを打てばよかったということです。柔道でもそうですが、相手の姿勢を崩してからでないと、議論はひっくり返りません。
T/Aも一個のAD(メリット)・DAなのですから、T/Aというだけで3要件の証明が免除されるというのは不当というべきです(そういう傾向で評価するジャッジもいるように感じますが、僕は支持できません。もっとも、それだけで「質が低い」とかいうつもりはありません)。

いろいろ書きましたが、1NCは手数もそこそこあり、決勝に残るに足るプレパをしてきたことが伺えます。スピーチも読んだ限りではまずまず分かりやすいと思います。

【2AC(肯定側第二立論)】
DA1の返しについて。鉄鋼についての反論は良好だと思います。1NCの議論には返ってるでしょう。中小企業も一応返ってますが、1NCのエビが「中小企業の生産減」による打撃と言ってることを捉えて、ADが立ったらビジネス発達で全体の生産量も上がるので問題にならないという形でフォローできれば完璧だったとは思います。
DA2の返しについて。まぁDA自体しょぼいのでこんなものでしょう。プランの効力はよくわかりませんが、日本には生活保護というものもありますので、少なくとも制度の次元では問題は生じないような気はします。燃料費が出ずに死ぬ人はどっちにしろ死ぬんじゃないかということです。そういうことを考えると、むしろ逆進性の理念的なところに先回りして反論した方が意義があったのかもしれません。どうせ応能負担の話を(無理やり)絡めて伸ばそうとしてくることは明白なので。

ケースの再構築について。削減余地の点については、一通り返していると思います。その上で、スクリプトをゆっくり読んでるから言えることにすぎないということを自覚しつつコメントすると、1NCへのカードチェックをもう少しやってもよかったのではないかと。技術開発が難しいといってるのは増税反対の経団連の人で信用性が低いし、茅のエビデンスは「投資を伴わない省エネルギーは難しくなっている」と言ってるだけで、投資すればできると言ってるように読めます。これは補助金プランと絡めて指摘されていますが、企業の現在の意識が低いという議論を伸ばして、だから環境投資を合理的選択にするため課税するのだ、として解決性の天野のエビを引っ張るべきでした。
あとはアナウンスメント効果への再反論などですが、これはまぁこんなところだろうというところ。総じて無難に返せているという印象です。

【2NC(否定側第二立論)】
2NCはNegの戦略的に重要なので、少し詳しく検討します。

まずケース2枚目のエビ(温暖化のインパクト)へのダウト。温暖化での経済への被害が分からないとか言っていますが、沿岸部が浸水したら普通にやばいでしょう。Affが高村のエビで「少なくとも毎年国内総生産(GDP)の5%の経済損失が生じる」って言ってるのもスルーしてますし、かなり印象が悪いです。
確かに、日本だけのプランでどこまで解決するかというのは温暖化防止ADのキモで、この点についてAffは証明不足の感はあります(日本がやると世界も動く、といって逃げるのでしょうけど)。しかし、それを突くなら温暖化そのもののインパクトをどうこう言っても仕方ありません。CO2と温暖化は無関係であるという議論を、経済への不可逆な被害がありうるのに怪しい政策をやるべきでないという価値観とともに押し出して相手の価値基準にぶつけるという議論であれば面白かったと思います。

続いてプランへの攻撃。補助金で開発される分のADはExtra Topicalという議論をしています。炭素税を目的税として導入することは可能であり、炭素税の意義からすれば炭素削減技術の開発に予算を投入することは通常予想されるし、これをAffのオプションとして認めても公平性は特に害されないと考えられるので、理論的にはExtraとは言い難いように思われます。
もっとも、Affが質疑において社会保険料を引き合いに出した質問は、細かく言うと間違っています。なぜなら、社会保険料は保険給付の反対給付として徴収されるため、租税そのものではないからです(もっとも、判例によれば、保険料にも憲法84条の租税法律主義の趣旨は及ぶ)。ガソリン税についてでも質問すればよかったでしょう。
何にせよ、Negとしては補助金の有効性を具体的に叩くべきでした。 2NRで一部しか還流されないというもっともな指摘がありましたが、2NCで言わないと遅いです。国際調整(国境税)については指摘があったのですが、補助金の議論でも同じことをすべきだった、それもよりしつこく、ということです。

小池百合子のアナウンスメント効果の資料への攻撃は、ただのダウトで、判定上新たな意義があるものではありません。2ACで中央環境審議会の「長期にわたり政策として取り入れる税と、政府が環境税という形で長期にわたり取り入れて行くんだという価格への影響というのは、市場や投資家、企業へ与えるメッセージということでは大きなものがあって」というエビが読まれているので、この点は大きさはともかくAffが有利でしょう。
また、省エネ投資の不可能性について1NRで説明するとありましたが、2ACではプランの存在を伸ばしただけなので、これに1NRで説明を加えるとNewになりそうです。これは1NCでプランの中身を叩いたりしなかったのが悪いということでもありますが、プレパタイムはあったはずだから、2NCでフォローすべきです。
論点5(判断基準)へのアタックは、ちょっと的外れの感があります。この議論で言いたいのは、少しでも効果があるなら早くやろうということなので、完全に否定することは難しい。
上でも書きましたが、ここに反論するとすれば、経済的に失敗することも問題であるという対立する価値観の提示や、世界規模での対策であればそうかもしれないが日本だけがやっても意味があるのかという形で論題とのずれを指摘するダウトがありうるでしょうか。少なくともここでされたダウトだけでは判定上有意なものとはいい難いです。

DA1の鉄鋼への返し。最近の状況だと競争が厳しいという反論で、それなりによくはあります。ただ、クレームとエビデンスがずれていて、エビデンスが言いたいのは恐らく「日本だけ頑張っても海外の環境を気にしない企業が鉄を作るので無意味」という炭素リーケージ的な問題でしょう。「価格競争で日本の鉄鋼終了のお知らせ」というのは、エビデンスの後半の文面からしてもオーバークレームでしょう。2ACであった「質で勝負」の部分にも返っていません。だから貸し剥がしとかいう変なオチではなく(単に業績不振だけではダメなの?)海外移転にしとけばよかったのに…。
あと、鉄鋼ではイノベーションが進まないという話は、それなりには有効かもしれません。ただ、鉄鋼オンリーのため解決性は切れない(質疑で聞かれてますね)ので、鉄鋼はコストダウンで対策しにくいと言えているに過ぎません。
国境税が現実的でなく、上手く行くかよく分からないという指摘はごもっともです。Affもとりあえずプランに入れただけというところではあるのでしょうけど。
まぁDA1の鉄鋼の部分を完全にゼロにすることは難しいので、Affも最初からその辺はあきらめていると思われます。それを考えると、Voterにするだけのインパクト(鉄鋼終了のお知らせ)というところまで確実に言いきれない&T/Aも形成できていない時点で、鉄鋼DAのフォローは失敗しているというのが客観的に見て妥当な評価ではないでしょうか。

DA1の中小企業への返し。これは中小企業打撃のインパクトを強化しただけで、リンクについて十分に補強したとはいい難いです。Thresholdの議論にしては1NCから証明不足であり、落としどころは「中小企業がもっと困る」という話でしょうから、このくらいの返しが限界かもしれません。固有性に欠ける部分も大きく、やはり単独でVoterになるかというと難しそうな印象のDAです。

以上の通り、総じてあんまり機能していない2NCというのが正直な印象です。
1NCと合わせて、全体としてNegが出すべき論点が出し切れていない感があります。具体的には、①そもそもCO2削減が温暖化対策のために必要か、あるいは日本だけで削減しようとすることにどれだけ意味があるのかという部分の議論や、②日本だけでの炭素税が世界的に見るとかえってCO2を増加させてしまうという炭素リーケージT/Aのような、Negにとって鉄板と思われる部分の議論が欠けています。
投資T/Aについても、現在の日本の取り組みでも十分だという前置きがないので、炭素税でイノベーションに向かわせる必要があるという点(これは今回のケースで特によくできている議論です)でAffに水をあけられてしまっています。Counterplanでプレッシャーをかけるという議論もなく、プランの実効性も具体的に攻撃されていないので、総じてAffとしては対策しやすいセットの議論だったのではないでしょうか。

【1NR(否定側第一反駁)】
1NRは説明に終始している印象で、正直に言うと、毒にも薬にもならないスピーチでした。低所得者の逆進性の議論のフォローも、1NC段階でそこまでインパクトが出ていないように思われることから、そんなに評価できないように思います。
あと、「(Affが)税でなければならない点を証明していない」というのは、ケースをちゃんと聞いてたのか疑問に思われてしまうのではないでしょうか。完璧な証明かどうかは別として、この辺は割と配慮できていたケースですので、それをきちんと認識した上で2NCまでの間に対策しなければならなかったはずです(あるいは別の道で攻める)。

スピーチの形式面として、反論に○点目とか細かく番号をつけるあたりは、分かりやすくなることもあるかもしれませんが、このスピーチではあまり意味を感じません。細かくどうでもいいダウトに番号をつけても意味がないのであって、大きな観点ごとに番号をつけるとかしてはじめて「○点の投票理由があった」という形で意味をもってくるものではないでしょうか。
個人的な選手としての経験からしても、細かいナンバリングは多くの場合自己満足にしかなりません。後で伸ばすときに何点目の反論とかサインポスティングできるなら別ですが。

【1AR(肯定側第一反駁)】
1ARは、一応出た議論を伸ばしていて、それなりの仕事をしていると思います。内因性の伸ばしも、環境被害について2NCが無視したGDP5%の話を指摘していて、それと判断基準を関連付けた点でよいと思います。ただ、ここでもう少し「放置しておくと危ない」ということを強調してもよかったかもしれません。
その他の議論もまぁ無難ではありますが、鉄鋼に関しては、質を強調するだけでなく、質さえ良ければ何とかなることについてもう一言説明があればよかったかと思います。例えば「需要者は必要な『質』を満たしていることを前提にして安い鉄を求めるのであって、そもそも日本にしか作れない質の鉄がある以上、日本の鉄鋼業は負けない」みたいな感じです。Negの攻め口と違う観点を示すことは、判定上かなり有利に働きます。

【2NR(否定側第二反駁)】
前の記述とも関係しますが、応能負担の原則だけでDA2を投票理由にするのはきつい気がします。弱者から無理やり搾り取るのがおかしいというロジックだと、消費税は全く許されないことになります。もちろん消費税も含めて逆進性の問題はありますが、それだけで炭素税を否定するというのは乱暴であって、「価値基準と言っておけば何とかなるマジック」を狙っていると言われても仕方ありません。逆進性で勝ちたいなら、もっとしっかり議論を立てるべきです(感覚としては、月数千円程度の税率では無理があるのではないかと思います)。

プランについて、投資への還流などは税収の一部だという指摘はその通りです。なぜ2NCで言及しなかったのかは疑問です。遅いから指摘は考慮しないという評価もできそうですが、まぁ言われなくてもそのとおりだからプランの効果は割り引いて評価しようと考えることもできるでしょう。僕は後者の立場ですが、それにしても早い段階で争点を形成していれば、取り方も違ってくるでしょう。
その他の議論も、特筆すべき点はなく、各論を返しきっているとまではいえません。この辺はAffも100%クリアに返しているわけではなく、評価は割れるんだろうと思います。2NRは難しく、僕もJDA決勝で恥ずかしいスピーチをしたことがあるので、これ以上のコメントは控えます(笑)

【2AR(肯定側第二反駁)】
最初の環境インパクトの伸ばしはよいと思います。
鉄鋼の返しは、まぁAffの言い分はこれだよな、というところ。1ARで書いたのと同様、質の優位が持つ意味を具体的に説明できればなおよかったのだとは思います。それでも、DA1は倒産を結論としているところ、そこまでの心証を抱くのは難しくなったと考えられます。
中小企業や低所得者の話も、インパクトは小さいだろうということでまぁこんな感じなんじゃないでしょうか。ただ、応能負担の話について、そんなこと言ったら経済的弱者からは税金を取れないのか、という指摘はすべきでしょう。要するにNegの議論は生活保障の次元の問題と課税対象の公平性・適切性の問題を混同しており、炭素に課税すること自体の評価をせずに安易に結論を出している誤りがあるのです(Negとしては、炭素排出は誰も避けられないから…といった話をもっと強調すべきだったが、それとて消費税の存在もあるし、消費者個人にとってそれほどのボリュームがある税金とは思われないから、ちょっと弱いでしょう)。その指摘がなかったのは惜しいです。「原則の魔力」があるとすれば、これで何票かもっていかれる危険はあります。指摘できなかったのが悪いんだと言われればそれまでですし。

解決性の伸ばしもよいのですが、冒頭のストーリーからすると、税がない現状では企業に改善の余地があるという部分をもっと強調すべきでしょう。地球はやばいのに企業はやる気がないので活を入れないといけない、みたいな話でまとめれば、より鮮明にケースを支持できたと思います。その上で、それが結局経済的に日本・世界を救うから、たとえ短期的に困る企業が出ても仕方ない、という感じでしょうか。

【総評】
勝敗については、これは割れるかなぁという感はあります。実際にも2-3で割れた末にNegが勝利しました。

Affは対策プランの実効性がかなり怪しく、2ARの最後の指摘の有無にかかわらず、評価しがたいところがあります。総じてプランに多くを依存してしまったところに弱みがあるといったところです。Negはもっとここをしつこく攻めるべきでした。
一方、NegはDAのインパクトをきちんと出し切れていない気がします。T/Aも、少なくとも僕の感覚では、単独で試合を決めるレベルまで証明されていない感があります。炭素税のイノベーション刺激効果を考え合わせたときに、投資が鈍ることがどこまで言えているのだろうかということです。あと、全体として投票理由が少ないのが問題です。

個人的には、DAはどれもありうるが致命的とまでは考えられない一方、温暖化はこのままだと世界経済に大きな影響を与えるものだから解決の必要性があり、その中で日本はその対策にまだ余地があり、税によってその対策を進めることが可能になると(プランの怪しさや投資T/Aを加味しても)いえそうなので、じゃあ炭素税やってもいいのかなということでAffに投票したいところです。
これに対して、プランの怪しさから投資T/Aを強く取ればNegになるのでしょう。Affとしては、税がない現状だとインセンティブが欠如していることを強調してT/Aを斥けることができたかもしれませんが、そこが十分引っ張られたともいえません。判定が2-3で割れたのは納得です。

風の噂によれば、「これが疑いなく5-0でNeg」としてジャッジに憤っている人もいたらしいのですが、そのような感覚は理解し難いものであり、独善的というほかありません。誤解を恐れずに言えば、議論が見えていないというべきです。これは僕のジャッジ生命を賭けてもよいですが(!)、このトランスクリプトを読む限り、この試合でAffに投票する理由がないなんてことは言えません。
そういった意味で、この試合を元にして「どうして判定が割れたのか」「どうすれば確実に勝ちに持っていけたのか」を考えることは、ジャッジにとっても選手にとってもよいトレーニングになると思います。

上ではいろいろと批判的なことも書きましたが、試合全体としては白熱しており、結果的に僅差となるようなよい試合でした。かかる試合を展開された4名の選手の方々に改めて敬意を表させていただきます。

JDA決勝批評 | 01:44:10 | トラックバック(0) | コメント(0)