ディベートオフシーズンということもあり、また修習が充実しているということもあって、なかなか新しいことを書くことがないのですが、このHPの掲示板に久々に書き込みがあり、その中で第二反駁のやり方について質問がありましたので、このテーマを取り上げることにします。
もっとも、第二反駁というのは難しいパートで、僕自身もなかなか上手く実践できません。というわけで、以下で紹介できるのは一般論としての内容の域を出ない部分が大きいし、言うは易し行うは難し…といった性質の内容です。そういうものであるということを承知の上で、お読みいただけましたら幸いです。
1.第二反駁というステージの意義
最初にぶっちゃけてしまうと、少なくない試合において、第二反駁の前に勝負が決まってしまっていて、第二反駁は勝敗上意味をもつことはないということがあります。特に、力の差がある程度開いていて、立論や第一反駁の時点で議論の質・量に違いがあると、その後で頑張ってもしょうがない…という場面はよくあります。
リアルな話が続いて申し訳ないのですが、ディベート甲子園で見る試合にもこういうのは結構あります。多分誰がスピーチしても、1時間制限時間があったとしても、勝負は決まってしまっているということもあります。その意味で、チーム編成の際に強い選手が1人しかいないのであれば、僕は迷わず、その選手に第一反駁を担当させるようにアドバイスします。
こんなことを書いたのは、一部の人が思っているらしい「第二反駁が全てを決める」といったイメージを改めてもらうためです。第二反駁が出来ることには限りがあります。具体的に言うなら、第一反駁までで積み上げてきたもの以上のことを、第二反駁がすることはできません。それは、新出議論を規制するルールからも明らかです。
しかし、これは第二反駁が無意味なパートであるということを意味しません。むしろ、ある程度力の拮抗したチーム同士の試合、とりわけレベルの高い対戦においては、第二反駁が試合の勝敗を左右します。高レベルのチーム同士の試合では、第二反駁の力の差がそのまま勝敗に現れますし、第二反駁が上手く機能した試合というのは、内容面でも非常に充実していて、見ごたえのあるものになります。
第二反駁の役割を一言で言うと、それは「ジャッジに勝ち筋をイメージさせる」ということです。複雑な試合においては、ジャッジはどのように議論を評価するのか、どのような過程で議論を整理していくのか、大いに迷います。たくさんのありうるストーリーからどれをとるのが説得的かというのは、ジャッジがどこに力点を置くかという「好み」などの要素によって異なってきます。ですから、第一反駁までの内容では、投票がどちらに行くかは分かりません。
このような場面で、第二反駁が有効に機能し、ジャッジに対して議論の道筋を上手く示すことができれば、ジャッジはそれに従って投票することになります。時には、ジャッジが当初考えてもみなかった観点を「発見」させ、それによって試合をひっくり返すことも可能です。しかし、言うまでもなく、そのような成功を得ることは、簡単なことではありません。
以下では、第二反駁として成功を収めるために有益と考えられる事項について、いくつかのポイントを紹介します。これらのポイントは第二反駁へのアドバイスとしてよく言われているものがほとんどで、その意味で「基本」に属します。しかし、実際の試合で相手に合わせて実践することは大変難しいものです。これはディベートに限ったことではありませんが、基本をきちんと実践し続けることが実は一番難しかったりするので、そういうものだと思って、毎試合意識しながら自分なりに工夫していくと、少しずつ理想のスピーチに近づいていくのではないでしょうか。そういう気持ちでお読みいただければ幸いです。
2.第二反駁スピーチの構成
第二反駁スピーチの構成には、こうしなければならないという決まりはありません。第二反駁の目的との関係で言及しなければならないポイントをどのように並べていくかについての答えは、その試合で出ている議論ごとに異なってくると言っても過言ではありません。しかし、多くの試合では、一定の型に沿ってスピーチすることで分かりやすい第二反駁になるはずですし、そのような型をマスターしないことには、応用することもできません。以下は、そのような「型」について説明するものです。
2.1 全体の流れ
第二反駁では、最初にスピーチの概要、すなわち「どうして自分たちが勝っているのか」をまとめておくことがよいと言われています。この冒頭のまとめには、30秒くらい費やしてもよいでしょう。もっとも、僕はあまりやらない(やれない)のですが…。
冒頭のまとめでは、この試合で展開された主な議論、特に重要と考える争点を挙げた上で、重要な点で自分たちが有利であり、自分たちに投票すべきであるという大まかな流れを説明します。ここでは、相手にとって有利な点もあえて認めた上で、それでも自分たちが勝っている部分を理由に投票できるのだという形でまとめができると、説得力も出ますし、何より格好いいスピーチになります。「全部勝ってます」ということはそうそうないし、本当にそうだとしたら第二反駁なんていらないわけで(最初に書いたように、そういう試合もないでもない)。
例えば、冒頭のまとめは、次のようになるでしょう。去年の高校論題である安楽死論題の否定側をイメージしています。
この試合で最も重要な点は、末期患者が自分の意思を貫いた最期を迎えることができる選択とは何か、ということです。
この試合で肯定側は、少なくない末期患者が激しい苦痛と戦っていること、それを全て取り除くことはできないことを示しました。しかしながら、それに対する答えとして「安楽死」を認めることは、患者の意思を尊重しない選択です。
その理由は3点。第一に、激しい苦痛から本当に死にたいと思っている患者はほとんどいません。第二に、苦痛の除去は少しずつ進んでいくし、それが医療の目指すべき道です。第三に、安楽死で不本意に死を選ばされる患者が出てきます。これらの点について、今から説明します。
こうやって書くと何となく分かっていただけるでしょうが、事前に議論をしっかり準備しておくと、このようなまとめをすること自体は難しくありません。もちろん、実際に出た議論から修正を迫られる場合もある(二回立論形式の試合など議論の出入りが多い場合はなおさら…)のですが、それでも事前にしっかり戦略を練っておけば、クリアな勝ち筋を示すことは可能です。この冒頭のまとめを上手く作れるような議論を作れるかどうかが、試合の勝敗を左右するのです。第二反駁の仕事は、そうやって準備された内容を最後にまとめあげ、形にするということです。
冒頭のまとめが終わったら、それに沿って各論をまとめていきます。ここでは、細かな議論をいちいち挙げるのではなく、ある程度大きな単位(メリット・デメリットの単位や、「患者の意思」など同じことを言っている内容同士でまとめる)を取り上げて、その中で重要だった議論について必要な限度で取り上げて再反論し、まとめるという感じです。
慣れないうちは、メリット、デメリット…という順番で各フローシートの上から議論を見ていくという構成で喋るのが混乱しなくてよいでしょう。試合の要点やシナリオなどに十分注意できるような力がついてきたと感じてきたら、順番を工夫したり、議論を横断的に見ていくような構成を取ることも考えてみてよいでしょうが、それでも特に必要性がなければ、ジャッジがフローシートをあまり入れ替えなくて済むように、メリット・デメリットの単位でスピーチしていく流れにするのがよいです。
各論のまとめは、最初に自分たちにとってどうしても片付けておくべき議論に反論するなどして、邪魔な議論を排除した上で、自分たちに有利な結論を導くという順番になります。必要であれば新しい資料を読むこともありますが、これまでに出た議論だけで結論を出せるようにするのが理想的です。その際には、どちらの議論が優れているかという優位性を出すために、特定の観点から個々の議論を比較検討するスピーチをするのがよいでしょう。
例えば、各論については、以下のようなまとめになるでしょう。前の例の続きです。
最初に、現在死にたいと思っている患者がいるのかどうか見ていきます。メリットの部分を見てください。
肯定側は、末期ガン患者が痛みに苦しんでいること、そのうち1割はどうやっても技術的にとれず、病院側の都合もあって実際にはもっと多くの取れない痛みが存在しているということを述べています。後で述べるようにこれは今後改善されていくのですが、たとえそうでないとしても、これは安楽死を肯定する理由になっていません。なぜなら、彼らは「末期患者が死ぬほど苦しんでいる」ことを示しただけで、「末期患者が死にたがっている」ことを示したものではないからです。
おそらく彼らは、末期患者が死にたいと答えたという○○のエビデンスや、実際に自殺した○○の例を伸ばすでしょうが、我々が第一反駁で読んだ○○のエビデンスを見れば分かるように、これらは末期患者特有のうつ状態に起因するものにすぎません。彼らは単純にアンケートの答えを見て「患者は死にたがっている」と考えていますが、それよりも、末期患者の精神病理に着目して、答えの真意について考察した我々のエビデンスの方が説得的です。すなわち、デメリットの○番目のエビデンスで言うように、患者の生きたいという声に耳を傾けることこそが、求められているのです。
各論のまとめが終わったら、最後に議論を総括します。ここでは、いわゆる比較と呼ばれる、残った議論の比べっこをしたり、どういう思考過程で自分たちに投票すべきかという道筋を再度強調したりします。形式的に「○○という観点で勝っている」というのではなく、どんな議論が両チームに残っているのかをきちんと認識した上で、この試合で重視すべき観点及びその理由、そしてその観点に照らして自分たちが勝っているということを、論理立てて述べなければなりません。例えば以下のようになります。
以上見てきたように、この試合においては、現状において末期患者に耐え難い苦痛が生じていることが示された反面、医療技術の進歩が進んでいること、安楽死法制化で望まない死を迎える患者が出る可能性が証明されています。これらの事実を踏まえて安楽死の是非を考えるに当たり、私たちが最も重視すべきは「患者の意思」です。それは、肯定側も重要性において認めているし、デメリットの深刻性で読んだ○○のエビデンスに「…」とあることからも明らかです。
そして、先ほど示したとおり、肯定側は最後まで、苦痛を回避するために患者が死にたがっているという「患者の意思」について、立証しきれませんでした。少なくとも、医療技術が進んだ未来においても安楽死が求められるという証明には至っていません。この時点で、彼らは安楽死の必要性を示せておらず、我々に投票すべきです。
それでも、安楽死を望む患者はゼロではないと考えるジャッジもおられるかもしれません。しかし、私たちがデメリットで示したように、安楽死が患者の意思を制約するという側面があることを忘れてはなりません。肯定側は発生過程があいまいであるとか、仮定の話に過ぎないというでしょう。しかし、患者の意思というのは元々そういうものです。末期ガンの苦しみと同じくらい、安楽死という選択肢の重みは苦しいかもしれないし、それは実際にそういう選択に直面した人にしか分かりません。我々は、楽に死にたいという人の権利以上に、最後まで生きたい人の生きる権利を尊重したいと考えます。それこそが、病気と闘う患者の意思を尊重するということだと考えるからです。ジャッジの方々にもそのように思っていただけることを、私たちは確信しています。
実際にこんな整ったスピーチをすることはないでしょうし、時間的にも議論的にもそう簡単にはいかないわけですが(僕自身も全然できません…)、ポイントとしてはだいたいこんな感じです。
2.2 否定側の流れ、肯定側の流れ
否定側第二反駁と、肯定側第二反駁では、スピーチにおいて意識すべき点や、力を入れるべき点が微妙に異なってきます。
否定側第二反駁は、肯定側のスピーチが後に控えているということや、ネガティブブロック(立論と反駁が連続している部分)において厚く広く反論できている(はず)ということから、それらの反論の中から有望なものに絞って集中的に議論することと、肯定側の逃げ道を予想して塞ぎにいくことの2点がポイントとなります。
反論を有望なものに絞り込むというのは、限られた時間で最大の効果をあげるためです。否定側第二反駁の強みは、いろんな議論の中から強い議論を選んでいけることにある(肯定側は基本的にはメリット全体を守らないと勝てない)ので、その強みを最大限発揮すべきということです。ジャッジにとっても、議論が絞られた方が評価が楽になり、結果として判定が予想通りになりやすくなります。
肯定側の逃げ道を予測して塞ぎに行くというのは言葉そのままで、肯定側にとって特に有利な点、最後まで主張しそうな点について、潰せそうであれば時間をかけて再反論にいき、潰すのが難しそうであれば、それを前提にしても勝てないのだという理由を作り、逃げ切らせないということです。やみくもに反論するのではなく、目的意識を持って反論し、まとめをすることを心がけます。
肯定側第二反駁は、自分たちが最初に出した立論を守りきり、デメリットを上回れば勝ちです。最終のスピーチなので後で邪魔されることもありません。その意味では、ゴールはとても明確です。自分たちが何をいいたかったのかをはっきりさせた上で、否定側の議論がそれを妨げるものではないということを示すことが出来れば、そのまま勝つことができます。
このようなスピーチをするためには、否定側以上に、伸ばしの議論、すなわち「自分たちの議論の再説明」が重要になってきます。否定側と違って、相手の議論をゼロにすればよいのではなく、自分たちの議論(立論)を残さなければ勝てないということも考え合わせると、否定側から反論がなかった部分も含めて再説明し、メリットが成立していることを示すといった作業が要求されます。
3.第二反駁スピーチの心がけ
第二反駁でスピーチするにあたって意識するとよさそうなポイントについて、3つ紹介しておきます。
3.1 第二反駁はジャッジに語りかけるように
よく言われることですが、第二反駁ではジャッジの目を見て、語りかける姿勢で臨むようにしましょう。他のステージでもそうするのが望ましいのですが、第二反駁では特にそういう意識を持つべきです。
これは、コミュニケーションがどうとかいう理由ではなくて、第二反駁というステージの意義に照らして本質的に要求されるポイントだと考えています。すなわち、第二反駁というのは、基本的には判定材料は出尽くしていて、後はそれをどうやって見るかがポイントになるのであって、ジャッジにフローシートを取らせる必要性は薄くなっています。それよりも第二反駁では、ジャッジの反応を観察しながら、そこから「自分たちがどうして勝っているのか」というイメージをジャッジの中に形成することが目的になります。
また、スピーチする側からしても、フローや原稿をずっと見ながら喋るのではなく、ジャッジを見て話すことにより、自分の中でイメージしながら話すことにつながるので、ジャッジに対する訴求力が上がることにつながります。
語りかけるというのは「ゆっくり話そう」という単純なものではありません。この辺は選手によってやり方が違って然るべきで、ゆっくり理路整然と話すこともあれば、早口でまくし立てることもあるだろうし、流暢にまとめにいく綺麗なスピーチなんかもあります。本当は使い分けができればいいのでしょうが、別にどう喋ったからよいという話ではなく(経験の浅いジャッジを騙す(!)場合にはこの辺が重要ということもありそうですが…)、大切な部分について、ジャッジが理解しているかどうかを確認しつつ話すということが大切です。
3.2 無理なまとめをしない
これは第二反駁に限ったことではありませんが、まとめをするにあたって、無理やり不利な議論をなかったことにしたり、自分たちの議論を過剰に評価することは避けねばなりません。無理やりなまとめはジャッジの心証を著しく害し、その第二反駁全体の信用性を落とすことにつながります。
無理なまとめを避ける一番の方法は、当たり前のことですが、理由付けをきちんとするということです。単に「証明がない」というだけでなく、自分たちの議論の中から適切な反証を見つけてきたり、その部分に証明がないことがなぜ致命的なのかをしっかり説明したりすることをやっていれば、無理なまとめになるはずはありません。無理なまとめというのは、詰まるところ、論理と証拠に基づいた議論ができていない(そういう姿勢が足りない)ということなので、このあたりは第一反駁なんかも経験しつつ、必要なところにはきちんと反論するという習慣や、そのための能力を養いましょう。まぁ、第一反駁者なのにその辺の訓練が足りないという選手も少なくないわけですが…。
3.3 自分たちにとって重要な議論、強い議論を大切にする
第二反駁を考えるに当たっては、自分たちの議論の中で一番強いもの、一番効果的なものを中心にして、そこからスピーチを組み立てていくことがよいです。ついつい不利なところを頑張ってしまいがちなところであり、そこを落とすと負けてしまうという場合にはそれも必要なことではあるのですが、不利なところで戦っても勝てる見込みは小さいわけで、それよりも確実に勝てるところを取った上で、それが勝利につながるというスピーチをした方が勝率は上がります。
第二反駁前の準備時間では、相手が反論できなかったところや自分たちの議論が勝っているように思われるところにまず着目し、そこからどのような結論が導かれるかを考えてみてください。そこで示された内容を他に適用することで、不利な部分に対する反論になるかもしれませんし、不利な部分を上回るだけのストーリーを作れるかもしれません。そういう可能性を一生懸命探してください。
そのような可能性を見つけることが出来たら、あとはそれに向かってスピーチするだけです。構成については上述したとおりですが、メリット・デメリットの順番で無難にスピーチするとしても、重要な部分の前で「ここは一番重要な議論です」と注意するだけでジャッジへのアピールは違ってくるし、大切なところを最初に取り上げるだけでも印象が変わってきます。
4.あとがき
以上、少ないながら、第二反駁で気をつけるとよいことについて書いてみました。第二反駁について体系的に指導できるだけのノウハウを持っていないので(というか自身もまだまだ上手とはいえない)、断片的な感じになってしまったことは否めませんが、参考になれば幸いです。
最後にこんなことを書くとアレですが、第二反駁固有のコツというのは実はそんなに多くなくて、結局のところ第二反駁を上手くやるためには、立論などの議論を作るスキルや、議論を積極的に展開していく第一反駁などのパートで経験を積むことが大事ではないかと思うのです。
そもそも、一般のディベートでは選手のパートが固定されるわけではなく、試合ごとにいろんなパートをやることになります。中高生の皆さんはチーム編成上パートが固定になっているのでしょうが、シーズンオフに別のパートにチャレンジしてみたり、第二反駁の選手であっても上手な第一反駁者のスピーチに注目してみたり(あるいはその逆)、広い視野でディベートに取り組まれるとよろしいのではないでしょうか。