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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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第16回JDA秋季大会決勝の感想
あけましておめでとうございます。
それほど記事を書く時間が取れないのは相変わらずですが、若干ながらご覧になってくれている方もいらっしゃるようですので、機会があれば何かしら書こうとは思っておりますので、気の向いたときにご覧になっていただけますと幸いです。
なお、本ブログの内容がカオスすぎて何を読めばよいのかわからないという声が聞かれましたので、(読まなくてよいというのが正解かもしれませんが)カテゴリを若干整理しています。とりあえずディベート甲子園にかこつけて書いている記事はそっちにぶち込んだりと適当な分け方であり、また、一つの記事に複数のテーマがあったりするので、参考程度でしかないのですが、ディベート理論に関する記事を避けるという消極的な意味だけはあるかもしれません。

さて、今回の記事の本論は、通例より大幅に早く公開されたJDA秋季大会のトランスクリプトをもとに決勝戦を批評するというものです。結婚式に出席していた事情で大会を生で見ていないので、トランスクリプトの内容にのみ基づいた記事で、臨場感には欠けるところです(ディベートの試合の感想で臨場感ってなんなのかはよくわかりませんが)。なかなかレベルの高い試合ではあると思いましたが、プレパもせず傍から見ている無責任な立場だからこそ言える内容として、いろいろ好き勝手述べておりますので、そういうものだと思ってお読みいただけますと幸いです。
なお、トランスクリプトはこちらです。


1.全体の感想
論題が解雇規制の緩和という難しいものであったことを踏まえると、レベルの高い決勝戦であるように思われます。両チームとも力のあるディベーターであり、よくリサーチした内容を、よく戦わせている試合だということができます。
議論内容についても、Affは解雇規制が雇用を硬直化させているというストーリーを一貫させつつ実証研究によって議論を強固にサポートしており、NegはDAの色付けとして解雇される人間にとっての解雇の辛さを証明することで対抗しようとしており、工夫が見られます。

しかしながら、両チームともに、せっかくテーマ付けをしているのに議論がいまいちそれに乗っかっていないようで、深みを欠くように思われたことも事実です。またこの調子かよ…という声が聞こえてきそうですが、2014年も弊ブログはそういうテンションですので、以下、こういう議論もあり得たのではないか、という観点で見ていくことにします。

2.解雇規制論題であり得るストーリー
Affの場合
Affのケースでは、最初にディベート界ではおなじみの瀧本本最新刊を引き、産業の浮き沈みのサイクルがどんどん短くなっているという話を入れています。これは出だしとしては非常によいのではないかと思いました。しかし、その後この議論が活かされているかというと、あまり活かされていません。1ARが最後に内閣府のエビデンスと一緒にちょろっと述べており、これはよかったのですが、2ARではスルーされており、ケースの内容自体も単に失業減らそうぜと言ってるだけに聞こえて、よくありません。お前瀧本って言いたかっただけだろ、みたいな感じです。

まず、こういう「最近は~なので」という話を入れる際には、昔はどうだったのかという議論を入れることが有効です。今回の場合、昔は終身雇用が合理的だった(けど今はそうではない)ということでDAを叩き、「Negはたくさん失業するとか言っているが、放置しておくとみんなつぶれて失業になる」という議論をやらないといけません。これは、道州制論題のAffで「このままだと地方財政が成り立たない、福祉が死ぬ」みたいな話をする際と同様であり、「このままだとヤバい」系のシナリオの立て方としてレパートリーに入れておくことをお勧めします。
今回の試合でも、材料はいろいろと揃っていました。NEWSポストセブン(2枚とも)や生島の資料もそうですし、1NRの磯山の資料もよいです。こういった資料をベースに「今のままだとまずい。流動化させれば変わる」という、流れのある反論をぶち上げてほしかったところです。また、2ACで出ている「失業したとしても、再就職が容易になる」という話も、単に出すのではなく、そもそも長続きしない時代なので再チャレンジを簡単にするほうがよい、ということでテーマと結びつける必要があります。

また、今回の論題では、もう一つ「昔とは違う」という話が出せたように思います。現在雇用規制で「守られている」中高年の場合、今とは違って日本経済が上向きで、就職は容易だったのではないか、ということです。そういう環境では、将来首を切りにくいということで雇わないということはなかったものと思われます。それに比べて現在では若者が割を食っているという形で、DAの深刻性を相対的に落としていく議論ができそうです。

上記のような話をするためには、ケースでもう2枚ほど、現在の経済状況や産業形態に照らして長期雇用慣行が不合理になっているという話を入れておくことが望ましいでしょう(内閣府のエビを1ACに回してもよいかと思いました)。その代わりに、ケースで読んでいたアメリカやインドの分析は2ACに回すことが考えられそうです。DAへの攻撃もかねて「中長期的に上向くことは実証されている」という一つの攻撃を作っていくということになります(磯山のドイツの例もそこで読んだほうがわかりやすいでしょう)。
1ACと2ACでどういう議論分担をするかというのは難しいところがありますが、大きな絵は最初に描き、各論にあたる実証研究などの議論は後に回すという構成のほうがわかりやすいかなとは思います。また、良いストーリーが最初に出ていると、DAが出てきた際に「でもAffのストーリーからすると返っちゃうよな」という印象が出て、相手にとっても嫌だしジャッジの心証も違ってくるはずです。あと、この試合の2ACで出ていた奥平の国内の判例に関する議論は、後でもNegに叩かれているとおり、一見明白に怪しい分析で(法律家が気にするとすれば「その裁判所の判例かどうか」ではなく「どこが出した判例か」で、東京や大阪の地・高裁だと影響力は大きいかな、といったレベルです。経営者はなおのこと「どこの判例」なんて気にしないでしょう)、こんなのを読む時間があったら1ACの議論を回す余裕もあるだろうということもあります。

また、上記のようなストーリーを前提とする場合、2ARが言っている「そういう状況[注:失業]になる人が、現状とプラン後、どちらが多いのか」という単純な数の比べっこにしてNegの土俵に乗ってあげる必要もなく、これから先の産業状況に即した雇用法制はどっちだ、という一段上の話にまとめるべきだったところです(その上で、中長期的に見れば失業者数もAffのシナリオのほうが少ないとダメを押せばよい)。このあたり、個人的には2ARはもう一歩だったように思います。

Negの場合
NegはAffに比べてストーリーが作りにくく、たいへんな論題であったと推察されるところです。長期雇用慣行に不合理な点が出てきている…というのは、否定しがたい事実のように思われるからです。

一つの方策は、今回Negが出しているような、雇用を維持されることを前提に頑張ってきたという話で「いきなり長期雇用慣行を変えるべきではない」という論陣を張ることです。サービス残業などの議論も、長期雇用慣行を前提にしているので長くいないとどうしようもなくなった人がやられてしまうという文脈で位置づけなおせば、さらにストーリーを補強できたはずです。
ただ、「いきなり長期雇用慣行を変えるべきではない」という話だけでは、中長期の分析に対して劣位におかれてしまいます。2NRは「長期的には、中長期、っていうことは一緒なんですが、だったら私たちの方を重視すべきです」とかいう話で反論を試みていますが、全く説得力はなく、Negのストーリーの限界が露呈してしまっています。また、ジャッジの層を見ても、総じて若いor終身雇用で守られてる側の人間ではないと思われるわけで、この議論でジャッジのハートを掴むのはそもそも苦しいところです(僕なんて建前上は労働者ですらないですからね…。)。

そこで、「いきなり変えるな」という論陣で頑張るのであれば、漸進的に改革すべき/されている、という議論とセットで戦う必要があるということになります。例えば、派遣労働が増えているといった話は、限定的ではありますが長期雇用でない働き方の広がりを言う議論だといえます。派遣は地位が低いという話もありますが、プラン後の正社員は雇用保証もないわけで、派遣とどこまで違うのか、というところです。
また、Counterplanを出すということもあり得るところです。たとえば、現在は(契約の態様等によりますが)解雇権濫用法理が類推適用される有期雇用については一定の要件の下で期間満了後の解雇を認める、という法整備を行うことで、スポーツ選手よろしく毎年契約が見直されるような働き方で、プランと同様の効果が「今後」見込めるかもしれません。ここで重要なことは、これまでの長期雇用対象者は守りつつ、今後の雇用についてはAffの分析を容れて「必要な時に必要な人材を必要な分だけ雇い入れる」ことを認める、というストーリーを作れないかということです。もちろん、このような議論はエビデンスが少なかろうと思われますし、Non-Topicalityの問題もありそうですが、座して死を待つよりはチャレンジする価値があったのではないかと思います。

あとは、この試合では出ていませんが、長期雇用慣行によって競争力が生まれることもあるという視点も議論としてはあり得ると思いますが、これは立証上簡単ではないのと、そういう企業は言われなくても長期雇用を確保するのではないか、という反論がありそうなので(ただ、法律で守られているのと、企業が「うちは長く雇うよ」というのでは安心が全然違うので…ということはあるでしょうが)、出すとしても主力の柱にはなりにくいかもしれません。

3.決定的に有利な点をダメ押しする
議論の内容については以上で述べたとおりですが、ここではもう一つ、この試合で見ていて面白かった1ARを素材に、さらにインパクトのある議論展開ができないか、という視点で書いてみることにします。

今回の試合でベストディベータはおそらく2ARに与えられたのだと思いますが、個人的には1ARがベストディベーターだったと思います。重要な点を漏らさず返していることもさることながら、最後に(もっと早いステージで出すべきだったということはありますが)内閣府のエビを読みつつ瀧本エビデンスに回帰して締めるという2ARもやらなかったスピーチをしている点もimpressiveでした。
また、ディストーションというのは言い過ぎですが、Negのエビデンス引用が恣意的であることを指摘しつつ反論している点も非常に説得的でよかったです。

その上で、この試合でより完全にAffの勝利を決めるという観点からは、議論の盛り上げどころを絞って、そこでひとつ確実に勝負をつけるというスピーチがあってもよかったかもしれません。この試合でいえば、実証分析や海外の例がいずれもAffに有利であるという点を指摘することがあげられそうです。
すなわち、この試合では、海外の例として
①アメリカとインドで解雇規制緩和のほうが失業率が低い(1ACの奥平2枚)
②解雇規制の緩いデンマークと厳しいオランダでは後者のほうが失業率が低い(1NCの森永)
③ドイツでは解雇規制緩和で失業者が激増(2NCの磯山)、しかしその後失業率回復(1ARの磯山)
とあるのですが、このうち①はAff有利、②は解雇規制との関連性不明で弱い、③は長期的にはAff支持と、Affが有利に戦える公算が大きい論点となっています。ここで勝つことが試合の勝敗を左右することさえ説明できれば、Affの勝利は決定づけられます。

そこで、例えば、1ARを下記のようなスピーチではじめ、2分ほどをこの論点に注ぎ込むという手があったかもしれません。
「Negの主張は、解雇規制緩和で失業者が増えるというものでした。この主張が正しいかを判断するには、解雇規制が緩い海外の例を見るのが一番です。そして、この試合で出ている実例は、いずれもAffの主張、すなわち、解雇規制で中長期的に失業が減るということを示すものか、論題と無関係な例です。」

この後で①~③を各個撃破していくことになります。
①については、まず1NRの国際比較が無意味という批判は、国内比較であるアメリカとインドの例には当てはまらないことを指摘し、そのことは1AC2枚目の奥平ではっきり述べられている(なので追加引用は不要だった)からNegの批判は全く的外れであるとして一蹴したうえで、1NCの因果関係と相関関係云々の議論は推測にすぎないうえ、アメリカでは最終的に全州で解雇が自由になっており(奥平の1枚目やポストセブン2枚目はそのことを示唆)、失業率などで場当たり的に緩和されたものではないことが明らかであるといった反論が可能です。
②については、解雇規制に差がある2国を恣意的に取り出して並べただけで解雇規制との関連性が不明である上、まさに1NRも述べたような2国間の国際比較であるから、自ら理由にならないことを認めてしまっているといえば落ちるはずです(僕がジャッジなら指摘がなくても落としていると思います)。
③については、1ARがそうしたように結論を引用し、彼らは都合の良い途中経過のみ引用したが、結果は失業率が落ちるのであり、まさにNegのDAは途中経過を述べるに過ぎないことが実証されている、とひっくり返せます。
この程度反論しておけば、Negも再反論は難しいと思われます(実際の2NRの反論は「ドイツっていうのも、好況になったから、だから雇用を増やしただけであって…」など無根拠で、到底採用できないものでした)。

実際には1ARでここまで整理立ててスピーチすることは難しいことは承知の上ですが、このくらいリサーチしているのであれば、実証分析ではまずAffが勝てるという公算が立っているのではないかと思われますので、どこかの段階でそこに的を絞ったスピーチができるよう戦略を立てるということはあってよかったかもしれません。

なお、2ARの例ではありますが、自分たちの分析の有利な点を整理してアピールするという点では、たとえば第2回JDAのトランスクリプトの2ARなどが参考になります。こちらは、臓器移植合法化論題で、肝臓移植に的を絞った分析をしている点をアピールするなど、どこで勝っているかを明確にする非常にまとまったスピーチになっており、とても勉強になるものです。1NRや1ARでそういうスピーチをするとすれば、上記のように、もう少し細かく議論を見ていくことになるのだと思いますが、臓器移植論題の1ARは残念ながらその点での参考にはなりません。

4.最後に
以上、解雇規制論題のJDA決勝戦の感想です。いろいろ好き勝手書いてしまいましたが、総じてレベルの高い試合であり、決勝で戦われた皆様の努力には頭が下がる思いです。

解雇規制の問題は非常に考えさせられるもので、本来は労働法の体系も含めていろいろと見直しが必要なところだと思います。実務的には、そもそも労働者をひとくくりにして保護を与えてよいのかというところもあって、たとえば日本の労働法では、雇用契約に基づいて勤務していれば、年俸が億を超えていても労働者としての保護を受けることになります。Affも指摘していた通り、日本の労働法制は判例法理で形成されている面が多く、総じて労働者保護に傾いているのですが、そのことがかえって労働者の契約条件を引き下げる(例えば、解雇しにくい分だけ高い報酬を保障しにくい)ことになっている場面もあります。工場労働者が主たる保護対象だった時代と、外国人の雇用なども含めた新しい働き方が求められている時代で労働法がそのままであってよいのかというのは日本にとって切実な問題であり、多くの人にとって他人事ではない、重大な問題でもあります。そういう難しい問題に果敢にチャレンジされた今季論題の参加者に敬意を表して、今回の記事を終えることにします。

なお、今年の春季論題である遺伝子組み換え作物(食品?)の規制についても、高3のとき体験した経験からして難しいことは請け負いますので、こちらも果敢なチャレンジを期待しております。僕は選手はちょっと、というかかなり無理ですが、今度は大会を見に行きたいと思っております。

JDA決勝批評 | 01:50:33 | トラックバック(0) | コメント(0)