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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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今季高校論題の解釈を考える~期間の定めのない雇用契約の強制プランを題材に~
どうもご無沙汰しております。相変わらず仕事でままならず久しぶりの更新です。
JDAの感想も時期外れ感があり、今季中学論題のクジラは一度も試合を見る機会がなく「新論題はクジラですか?」状態ですので、高校論題について少し書くことにします。
なお、今回の記事は、某選手から頂戴した質問をベースに、そこで回答した内容を少し掘り下げて展開しております。

今季高校論題は以下のとおりです。

「日本は外国人労働者の受け入れを拡大すべきである。是か非か」
• 日本国内に事業所を置く機関との雇用契約の締結のみを条件とした日本国内での労働を認める在留資格を新設する。
• 雇用契約の締結先機関及び国籍による受け入れ者の制限、受け入れ人数の制限を行わない。



このような論題の下、外国人受け入れのための雇用契約に条件を設けられるか、というのが、今回のテーマです。

説例として、「期限の定めのない雇用契約の締結に限って在留資格を得られるようにする」といったプランを入れることができるか、ということを考えます。このようなプランが有用かどうかは謎で、僕だったら使わないと思いますが、とりあえず例ということでご理解ください。まだありそうなプランとして、逆に「3年以下の有期雇用契約のみ」みたいなものを考えてもらっても結構です。
なお、上記のような期限の定めのない雇用契約を強制するプランは、いわゆる終身雇用制度の強制に近いものを指します。終身雇用ないし定年制は法律でそういう制度があるわけではなく、期間の定めのない契約は日本の労働法上解雇が厳しく制限されているので実質的に雇用年限(就業規則で定める)まで雇われ続けるという状況を指すものです。

さて、上記プランについて論題充当性上考えられる問題点として、これが付帯文の1点目にある「雇用契約の締結のみを条件とした」という点に抵触するかということが考えられます。
これについてそれらしい議論を考えてみる、というのは、論題充当性を議論するトレーニングとして面白いと思いますので、一度考えてみてほしいのですが(僕のお仕事もそんなことをやっていたりします。)、長文になるとよくないのでここではさくっと解答例を書いていきます。

論題充当性にひっかからない、すなわちTopicalだと考える場合の論拠は、付帯文2が「雇用契約の締結先機関及び国籍による受け入れ者の制限、受け入れ人数の制限」だけを禁止しているということに求めることができます。なぜなんだろう…と論題解説を読んでも特に何も書いてないため(適切な雇用契約ってなんだよ…)全然役に立たないことから、自分で考える必要がありますが、想像するに、こういう制限を設けることを認めるとデメリット制限のためにPlanspikeが濫用されるということを懸念したのでしょう。
ともかく、付帯文2が制限対象を限定的に列挙しているのだと解する場合、それ以外の制限はしないという趣旨だということで、これに該当しない「労働契約の期間」については規制されない、ということを、一応付帯文の文言から主張することが可能です。そのように考えないと付帯文で規制される対象が明確でないため困る、といった理由もつけるとさらに説得的でしょう。

しかし、上記のように付帯文2を限定列挙と解する議論には、実質的な理由づけが乏しいようにも思われます。そもそも、禁止される制限が列挙されていることは、制限の対象をそれだけに限るということにはなりません。例えば、日本国憲法のうち法の下の平等について定めている14条1項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めていますが、判例・通説はここで挙げられている「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」という差別禁止事由を例示として解し、これに限定されないものと解釈しています。
上記の付帯文2も、限定的に制限事由を設けようとしたと考えるべき実質的理由は特に思いつかないので、そこに挙げられたのは例示であって、その趣旨から禁止されてしかるべきと思われるものについては規制してよかろうというように考えられます。

このような「プランによる制限を規制すべき」という考え方は、付帯文1の「雇用契約の締結のみを条件とした」という文言からも読み取れます。そして、ここでいう「雇用契約」の内容に限定を設けようとするプランは、雇用契約を結んでいるにもかかわらず、その内容(契約期間等)によって在留資格を得られないことになり、「雇用契約の締結のみ」を条件としていないじゃないかということで、付帯文1に違反していると考えることができそうです。選手から議論がないのに勝手にNon-topicalだとまでは見ないと思いますが、私見ではこのような立場を取りたいところです。

なお、もうひとつのアプローチとして、論題本文の「外国人労働者の受け入れを拡大」するというところから、雇用期間を制限するとほとんど受け入れが拡大されないと思われることを指摘することも考えられますが、在留資格を新設している以上は一応「拡大」しているので、これだけで論題外ということは厳しく、論題の趣旨を解釈するものとして合わせ技で主張するということになるでしょう。

以上、今季高校論題についての短い考察です。相変わらず議論の中身の考察には役立ちませんが、一番楽しい作業は選手の皆様で楽しんでいただきたいということでもあるのでご容赦ください。また、上記のように「論題外」と考える場合にそれを試合上どう処理するのかという点については、いろいろと考える余地もあるのですが、それを書きだすとまた長くなってしまうので、今日はここまでです。
これだけだと冒頭の1パラグラフ言いたかっただけだろうという突っ込みが入りそうですが…。

ディベート甲子園の選手向け | 23:47:29 | トラックバック(0) | コメント(0)