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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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準備時間の性質に関する小考察
仕事に若干スポットで余裕があるため、ちょっと間隔短めですが、近時出たディベート甲子園ルール関連通達「準備時間の使い方について」(以下「本件通達」といいます。)を題材に、ディベートにおける準備時間の性質について簡単に考えてみることにします。
なお、以下では、準備時間の効率的な使い方的な解説は取り扱いません。一言だけ述べておくと、準備時間を効率的に使う一番の方法は、試合までにできる準備を尽くしておく、ということだと思います。

1.ロードマップの取り扱いについて

本件通達の趣旨は、ざっくりいうと、ディベート甲子園ではいわゆるロードマップを準備時間に行うことはできないので気をつけろ、ということです。ディベート甲子園でロードマップをしている選手は見たことなかったのですが、どこかから質問があったことに応えたのでしょうか。
ロードマップというのは、スピーチの前に、スピーチ等の内容や順序を知らせることです。フローシートを取りやすくするように…という趣旨で行われますが、個人的には別にしてもらわなくても十分議論にはついていけるので、ジャッジとしては割とどうでもいいなーと思いながら聞いていたりします。Counterplanを出すからフローを多めに出しておけ、みたいな話だとちょっとお役立ちではありますけど。
ディベート甲子園のように1回立論形式であれば、そこまでたくさん議論が出るわけでもないので、なおのことロードマップは不要かなと思います。JDAかどこかでロードマップをしている人を見て「ああいうのをしないといけないんだ」と思った選手の方は、本当にそれが自分たちにとって必要なのか、ロードマップを考える時間で反論の検討をしたほうがいいのではないか、ということを考えてみてください。

ここらで本論に戻って、本件通達の中身を少し見ていきます。
本件通達は、ロードマップがディベート甲子園で予定されていない理由として、①与えられたスピーチの時間だけで主張と根拠を伝えるようにしてほしいというのがルールの趣旨である、②試合の進行が司会者のアナウンスに従って行われる必要があるので(本則1条4項)スピーチ外で勝手に審判に説明することは許されない、ということが挙げられています。
上記の①は、価値判断としてはありだと思います。ルール上根拠を求めるとすれば、コミュニケーション点が「各ステージでのコミュニケーションの要素を評価した」もの(本則6条1項)と定義されており、準備時間中のコミュニケーションは予定されていない、ということを指摘できます。ステージ前の準備時間もステージに準じるのだという解釈も不可能ではありませんので、この理由づけがロードマップを「違法」とするものとまでは言えませんが、ディベート甲子園でロードマップを否定すべき理由としてはそれなりに説得的だと思います。
他方、上記の②は、正直あまりいけてない理由だと思います。試合の「進行」とロードマップは別物ですし、本則1条4項が「選手、聴衆は、司会者の指示に従わなくてはなりません」として司会者(ルールにはないですがジャッジにも同様の指揮権があると考えられます。)の試合指揮権が認められていること自体は、ロードマップを禁止する根拠になりません。ロードマップがルール上許容されないという実体的な理由が先にあって、それに基づき司会者がロードマップを止めるというのが筋であって、司会者の指示に従わなければならないというだけでなんでも制限できるというのは暴論です。

ロードマップの取り扱いについてディベート甲子園ルールの明文から確実に導けるのは、ロードマップが予定されていないということと、したがって、ロードマップがされたとしてもジャッジはこれを無視できる(すべき、とまで言うかどうかは解釈論ですが、少なくともコミュニケーション点で考慮するかというところでは「無視すべき」という議論は十分成り立ちそうです)といったところでしょう。なお、ロードマップが認められているルールであっても、ロードマップの内容を判定に直接考慮することが許されないことは言うまでもありません。

以上を踏まえると、本件通達の結論である

審判に向けてスピーチの説明を始めた場合には、司会者の指示に反する行為となるため、審判からの警告やコミュニケーション点の減点対象になる場合があります。


という記載については、疑義があることは否めません。審判が「ロードマップを無視すべき」という判断に立って警告することはあり得る試合指揮だと思いますし、それに従わない場合に細則C-1項7号の反則事由になり得るという考え方も成り立つでしょうが、それはあくまで審判のルール解釈に基づく指示が前提となるのであって、本則1条4項から当然に出てくる処理ではありません。この点で、本件通達は、実体法と手続法の関係をよく整理できていないと言わざるを得ません。
また、ロードマップがコミュニケーション点の減点対象になるという説明もやや正確を欠きます。ロードマップの存在でスピーチが分かりにくくなるわけではないので(なる場合もありそうですが…)、この場合の「減点」は、いわゆるマナー点の減点(本則6条2項、細則D-8項)によるものであることに留意を要します。

ただ、繰り返しになりますが、ロードマップがルール上予定されていないということについては、私見としては解釈論として異存ないところです。個人的には、実際にされても別に聞いてないので特に注意もしないし何もしないと思うのですが、下記に述べるように、実質的に議論の内容をスピーチし始める行為と評価できる場合には、試合指揮権に基づく制止(つまり指示に従わなかった場合反則事由となる)を行うことになろうかと思います。

2.スピーチの内容を勝手にしゃべりだす行為の規制

実際の試合では、ロードマップよりも、準備時間中にこれからしゃべる予定の議論の中身を大声でしゃべるような行為のほうが問題になります。僕も高校時代これをやってて、全国大会の色紙でも「準備時間中うるさかったです」と書かれたことがあるのですが(!!)、これはジャッジになってみると確かにうっとうしい行為です(だいたいの場合は「まぁそのスピーチではだめだろう」と思いながら聞き流していますが)。

これは「やや詳しめの」ロードマップでも同様に言えることですが、議論の中身を聞いてしまうと、実際にスピーチされないと考慮されないとはいえ、事前の説明で内容がある程度分かってしまっているため、どうしてもフローが取りやすくなるため、有利に働くことは否めません。たとえスピーチそのものが分かりにくくても(準備時間で「仕込まれている」人のスピーチはだいたい混乱していてわかりにくい)、事前に内容を聞いていると分かってしまいます。準備時間のときに聞いた内容がなかったとしたら理解できなかったかもしれない…ということで分かってしまったものを分からなかったことにするというのは難しいので、結局、準備時間中に大声でジャッジに刷り込んでおけば有利になる、という事態が生じかねません。

というわけで、このような行為は、まさに「スピーチ外でスピーチしようとする」行為であるため、フォーマットに記載の制限時間に反するものとして禁止されるべきということが言えます。ロードマップも、度を過ぎたものはこのように考えることができます。
この場合、細則C-1項8号のマナー違反で反則事由として捕捉できるほか、よく見る「先輩が後輩に大声で指示する」パターンは、自分のステージでないところで喋っているということで、細則C-1項1号該当という処理も、技巧的ではありますが不可能ではないでしょう。


以上、「小考察」なのでこのあたりにしておきます。
準備時間の規律については、証拠資料の請求やジャッジによる証拠の検証作業などの問題もあり、特に後者はジャッジング実務上結構重要なのですが(僕自身も、春大会で1件準備時間中に証拠検証を行い、その結果当該資料を証拠排除しています。)、これを書きだすとまたとんでもないことになるので、また(あれば)別の機会にします。

ディベート関連一般 | 03:30:03 | トラックバック(0) | コメント(2)