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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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JDAの短評とディベート同人誌の寄稿募集
最近仕事が相当ヘビーな状況でいろいろ滞っておりましたが、先週末に書面を仕上げて一瞬隙ができたので短めに記事を書くことにします。

仕事の合間を縫って、全日本大会とJDA秋季大会はジャッジに出ていたのですが、最近は関西の選手層が厚くなったこともあり、参加チームが大きく増えてきています。数だけでなく、ディベートの質も高くなっており、優勝層と比べればもう一歩というチームであっても、十分ディベーターとして骨のある議論を出していると感じられたのが印象的でした。この調子でさらに選手層が厚くなっていけば、競技ディベートの未来も明るいと思わされる、熱気のある大会でした。ディベート大会で立ち見とか、僕が大学生の頃には考えられなかったことです。

JDAの決勝はなかなかレベルの高い試合だったのですが、ここでは特定の試合に絞るのではなく、今シーズンの安楽死論題で見た試合を通じて思ったことを少し書いておくことにします。ちなみに、ここで書いている内容は、仕事の中でも非常に大事だと痛感させられ、かつ、自分自身まだまだ勉強不足だと考えさせられているテーマだったりします。

1.落としどころを考える
今季論題に限った話ではありませんが、相手の議論を完全に否定しきることはなかなか難しいものです。たとえば、末期がん患者の除痛が完全に可能である(可能になる)という反論は、相手が少しでも準備していたらまず成立しませんし、安楽死法制化による圧力という議論も、Negがそれなりに準備していれば、なんとなくありそうだというレベルでは残ってしまいます。

ディベートで勝つために大事なことは、この「残っている」状況を前提として、どうやって自分たちの勝ちにつなげていくかという落としどころを考えることです。これができているチームは実は少なく、JDA決勝であっても、明確に落としどころが設定されていたとは思われません。そこに、今後のレベルアップの余地があると思います。

落としどころの作り方はいろいろありますが、一番わかりやすいのは、インパクトで押し切るということです。この点、今季論題では、Affが「ある状況下では自己決定として自分の死に方を決めることが尊重されるべきだ」という話を論証し、Negが「生命権は絶対であり不本意な死を強制することはあってはならない」という価値観で対応する構図が多かったように思われます。その上で、両者が相手のインパクトをエビデンスで叩き合っていたのですが、正直それは不毛で、得るところは少ない議論です。結局、両チームともに、自己決定権が重要であることは認めつつ、単に、異なる局面について、「何が」自己決定なのか、あるいは「どうやって」自己決定が制約されているのか(後者について敷衍すると、Affは「今自己決定ができていない」ことを問題としており、Negは「今できている自己決定ができなくなる」ことを問題としている)、ということを論じているにすぎないのであって、論じる場面が違っているだけなので反論してもすれ違いにしかなりません。
これを踏まえてAffとNegの議論を見ると、おそらく法学的に無難な見解に立つと、死にたくない人が死んでしまうかもしれないNegの議論のほうが、Affの自己決定の話よりもインパクトとしては大きく(現状維持的であるということに加え、死刑廃止の冤罪的な考え方が先に立つ)、理屈だけで見るとAffがインパクトで優越していくことは難しそうに思われます。
そうなると、Negの戦略としては、デメリットのリンクをなんとか守りきり、それをてこにして、デメリットの絶対的優越で残ったメリットを押し切るというのが一番安定した勝ち方になるでしょう。これに対して、Affとしては、デメリットを極小化しつつ、小さいデメリットであればメリットが上回れるということを示すために、その限りでデメリットのインパクトに対する反論を準備する――例えば、どこかの試合で読まれていた、「現実性の低い懸念よりは現実に苦しんでいる患者を救うべき」といった議論――ことが必要になります。あるいは、メリットのインパクトをより高めていく方向性で、内因性をよりエグく論証していったり、解決性をより具体的に論じる――安楽死を約束したら安らかに死ぬとかそういうことではなく、死期を決められれば死ぬ前に大事な人に会えるとか、もっとジャッジが「それはそうかも」と思えるような話を出す――ことも考えられるでしょう。

そのほかの方法としては、将来どういう状況を目指すのか、というストーリーないしスローガンを明確にし、そこに向かっていくという筋を見せることで、相手の議論より自分たちの議論が魅力的だと思わせることが考えられます。これも突き詰めると、メリットとデメリットのどちらが大きいかを説明する一手法でしかないわけですが、人間はストーリーがしっかりしているほうに説得力を感じますので(実際そちらのほうがより合理的な議論である可能性も高い)、筋を作っていくことはとても大事です。
例えばですが、今季論題であれば、Affは既に消極的安楽死が存在するという固有性攻撃の伏線となり得る議論をベースにしつつ、消極的安楽死がその実非人道的であるのでその代替として積極的安楽死を用意する、といったストーリーがありえたかもしれません。さらにストーリーを支える分析として、現代医療が発達しすぎてしまい、無理して生かされてしまうケースが不可避になってきている、といった議論があれば、さらに深みのある議論になりそうです。Negとしては、緩和ケアが少しずつでも進みつつあるという分析をもとに、もっとも理想的であるのはケアを通じてできるだけ幸せに「生き続ける」ことで、安楽死の導入は、圧力という点でも、医療従事者のモチベーションという点でも、その方向性に逆行する、といった議論がベーシックかつ強力ではないかと思います。

議論を出し合い、争点について決着をつけていくことについては、一定レベル以上のチームはどこも高い実力を見せていましたが、その先の「落としどころ」については、まだレベルにばらつきがあり、その中でより意識の高かったチーム、あるいはスピーチスキルでうまく乗り切っていたチーム(個人的にこれはあまり高く評価しませんが、言うまでもなく勝敗を左右する要素です)が、より好成績を残していたという印象です。

2.自分に不利な議論(証拠)を出さない
これも今季論題には限られませんが、ある面では自分に有利であるものの、別の面では自分たちに不利になるという議論や証拠を出すことについては、慎重になる必要があります。少なくとも、それがリスクのある選択であることを踏まえて、それでも理由があると判断されなければ、その議論を出すことは悪手として控えるべきです。

今季よく見たのは、セデーション(意識レベルを落として痛みを感じなくする)があるから大丈夫だというNegの反論です。個人的にはこれは筋の悪い議論だと思うのですが、それは措くとして、そこで読まれる資料をよく聞くと、セデーションがよい手段とはとても思われないような内容だったりします。上手いAffであれば、それを逆用して、積極的安楽死が必要な理由に追加してくるはずです(そういうAffも見ませんでしたが…。)。

もちろん、自分自身も仕事で痛感するように、言いたいことが先行して不利な展開を過小評価するということはよくあることなのですが、そこをどれだけ冷静になって議論選択できるか、また、相手がそういう議論を出した際にどうやって咎めるか、というところは、もっと強く意識されるべきでしょう。


以上が今年の秋季JDAの感想です。
ここからは、今年の冬コミに久々に当選したディベート同人誌発刊プロジェクトの宣伝です。

最近落選していたのですが、ついに久々のスペースを獲得したため、ディベート同人誌を出すことになりました。ディベート解説本の同時販売は全く間に合わなさそうなので断念ですが(転職しないと無理そうです)、何も書かないのは残念ですので、時間を作って寄稿を行うことを予定しております。
内容はというと、過去JDA決勝トランスクリプトでやたらネタにされる、BMD論題のESSOBとESSレジェンド(ゼロワンMAX)の試合を取り上げ、Affが残念だったという食傷気味の批評をさらに敷衍しつつ、ディープインパクトとアラビアンナイトメアをぶった切るという趣向を考えております。その中では、この両デメリットが、上記2点目の「自分に不利な議論(証拠)を出さない」に注目すると、十分対応可能な議論であったということを論じる予定です。これを読むことで、ゼロワンMAX神話を正当に解体しつつ、これに対してまったく有効な反論ができなかったAffの無念さが改めて確認されるという、またしても攻撃的な内容になりそうなのですが、そこは然るべき語り手(キャラクター)を用意することで毒を薄めて?いこうかなと思っております。

そんな同人誌ですが、現在、原稿を絶賛募集中です。今年は手刷りではないきれいなものを出せればという目標で、11月中が目下の期限となっているようですが、寄稿いただけるという方は是非ご連絡ください。年齢・所属不問、匿名でもペンネームでもなんでもよく、ディベートに少しでも関係していれば基本的に内容の指定はありません。連絡はコメント欄でも結構ですし、tentatsuアットマークhotmail.comに送っていただいても結構です。

同人誌情報はまた決まりましたらお知らせいたします。

ディベート関連一般 | 22:54:26 | トラックバック(0) | コメント(0)