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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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第20回ディベート甲子園の感想(3.即興ディベートの感想と大会総括)
最後に、ディベート甲子園第20回大会を記念して実施された、現役生選抜チームとOBOG選抜チームの即興ディベート対決(論題は「日本のすべての中学校・高校は、体育祭・文化祭を廃止すべきである。是か非か」:動画はこちら)について批評した上で、大会全体の総括的感想を書かせていただくことにします。

3.即興ディベートの感想と大会総括

即興ディベート
今年は20周年企画ということで即興ディベートの特別編、現役生対OBOGという興味深い企画が行われました。特別企画と言うと10年前の嫌な思い出がよみがえるのですが、今回は現役生も巻き込んだ試合ということで、会場も大いに盛り上がっており(筆者もハイテンションで叫んでおりました)、大変よい企画だったと思います。

とはいえ手放しで褒めても仕方ないので議論の感想を述べておくことにします。
端的に言えば、この試合は肯定側・OBOGチームの完全な敗北です。メリットはというと、そもそも文化祭や体育祭をやめて空いた時間に自主性をはぐくむような行動がされるという立証が全くないので解決性はなく、デメリットについても反論がほとんど当たっていないので残ってしまっています。ディベート的には1AR終了の時点で試合は終わっており、時光大先生のTEDばりのかっこいいスピーチも、本人が一番分かっているとは思いますが、内容だけ見ると全く評価できません。肯定側は今いる生徒のことを考えている!というのも、メリットに解決性がないのに何をかいわんや、というところですし、デメリットの話も、未来の生徒の話をしているわけですからメリットと区別されるわけではありません。こうなったらもう前ににじり出るしかないというところです。
実は地味にOBOG会の副代表だったりするので、OBOGチームのこのような敗北については大変遺憾に?思っておりますが、これは現役チームの試合ぶりが素晴らしかったことにもよるものです。デメリットは、ユーモアあふれる議論も含めてきちんと論じられており、メリットに対する反駁も、プランがかえって生徒の自主性を損ねるという要点を衝いていました。質疑のやり取りも大変ユーモラスでよかったです(これは千村さんの投げたボールがよかったということにもよります)。というわけで、今回はOBOGチームが現役生チームに一本取られたということになります。

それでは、OBOGチームはどういう議論をすべきだったでしょうか。OBOGチームとしてはいろいろなことを考慮して今回の議論を作ったと思いますが、勝つことだけを考えれば、例えば以下のような議論ができたと思います。
メリットについては、文化祭や体育祭が自主性を損なっているという分析は、せいぜいデメリットを削る反駁になるだけで、メリットの基礎づけとしては弱すぎると思われます。筆者であれば、メリットは、文化祭や体育祭を契機としたいじめを防ぐといった議論があり得るかなと思います。例えば文化祭でクラスのイベントや合唱コンテストをやったり、体育祭でクラス対抗の競技をやったりする際に、そういった活動が苦手な人がクラスのお荷物になるということでいじめられるという事例があるかもしれません。まぁ、普段の授業でもそういう機会はあるだろうということで解決性はないのかもしれませんが、学校行事として課外の時間も練習させられて苦痛が増えるということは言えるでしょう。これが筆者の原体験に根差すものであるかどうかは読者の皆様の想像に委ねますが、今回のメリットよりは残る議論だと思います。まぁ後ろ向きですが。
しかし、このメリットの真の狙いは、デメリットで「文化祭・体育祭で輝く生徒」、平たく言えば「リア充」を称揚する議論が出てくることに対するカウンターとすることにあります。今回のデメリットでも、年の一度のイベントで恋愛のチャンスといういかにもな議論が出てきておりますが、肯定側はこれを狙い撃ち、一部の生徒が文化祭や体育祭でモテている陰で少なくない数の冴えない生徒が悶々とするというターンアラウンドを展開し、メリットのインパクトに加えていくわけです。
もちろん、否定側としては、それは悪しき平等主義であって、学校教育にはいろんな文化祭や体育祭以外にもいろんなイベントや部活動があり、それぞれの場所で生徒は自分の居場所を作り、輝ける場を見つけていくのであり、そのような舞台を減らすようなことはすべきでない、と再反論することができます。そういう感じの展開になれば、票もそこそこに割れて、議論内容的にも面白くなったのではないかと思いますが、それにしても肯定側の議論がかなり後ろ向きになってしまっていることは否めず、こういう議論を回そうとするおっさんがOBOGチームに入らなかったのは大正解だったということになろうかとは思います。

他方、否定側がより肯定側の議論をこてんぱんにのすにはどうすればよかったかというと、メリットの解決性をもっと厳しく攻撃することができたと思います。この場合、肯定側の言う「自主性のある生徒」と、そうでない生徒を分けて、前者は文化祭や体育祭の機会で自主性を伸ばすわけで、そういう機会が奪われることはかえってマイナスであり、後者の生徒は現状でも自主性がないのにイベントの空き時間に有意義な活動をするとは思えない、といった形で、生徒の特性ごとに解決性がないことを丁寧に論じていくことができたはずです。
その上で、文化祭や体育祭が自主性、チームワークをはぐくむイベントであることを指摘しつつ、「イベントが強制されているので自主性を損なう」という肯定側の論法が正しければ、すべての教育活動は学校がカリキュラムを決めているので生徒にとってマイナスでありやめるべきであるということになりかねないわけであって暴論であって、(ディベートもそうですが)決められた枠の中で何をするかがポイントであり、そのための素晴らしい枠である文化祭や体育祭といったイベントをやめることはよろしくない、という形でまとめていけば、時光大先生も前に出ていくだけの余裕はなくなったかもしれません。

とまぁ、いろいろ好き勝手書きましたが、今回の試合は大変に興味深いものであり、両チームともに楽しいスピーチを見せてくれました。舞台の上で大勢の前で即興ディベートをするのは本当に難しいもので、筆者も過去に中高生(の女子)に総スカンを食らうというトラウマがあったりもしましたので、それに比べれば今回のOBOGチームは大変よいディベートをしておりました。記念ディベートなのですから、フローよりも心に残る試合をすべきということを、10年前の自分にも伝えてあげたかったところです。たぶん無理だったと思いますが。
素晴らしい試合をしてくださった現役チーム・OBOGチームの皆さま、どうもありがとうございました。願わくは、現役チームの皆様にも、いずれOBOGに加わり、未来の現役生と切磋琢磨するディベーターになっていただければと思っております。

20回大会に寄せて
今年でディベート甲子園も20回を迎えました。筆者は5~7回大会(全国は6回と7回)に出場しており、もうディベートをはじめて15年が経ったことになります。
この間のディベート甲子園の水準は、率直に言って、筆者が高校生だった時と比べて、遥かに向上していると思います。特に、基本的な議論の構成や、重要性・深刻性の重みづけに対する認識の深化(まだ不十分だとも思いますが)、そしてスピーチ技術については、過去のディベートに比べて革新的な進歩を遂げたと言ってよいでしょう。
それは、ディベート経験を積んだ指導者やジャッジが増えていることや、リサーチツールの進歩(昔は今のように簡単にネットで論文を拾ったり、資料を共有することはできませんでした。そもそもパソコンもそんなになかったですし)によるところもあると思いますが、何より、選手の皆様が頑張ってきた成果の表れだということができます。

その一方で、大会の質の向上とともに、選手がジャッジに向ける視線も年々厳しくなっているということも感じております。現在筆者は大会の運営に直接携わっているわけではありませんが、全国のディベーターが集う全国大会においては、ジャッジもそれに応えるだけのスキルを有している必要があると思いますし、せっかく全国大会までやってきたチームの皆様には、大会に出られてよかったと思ってもらえるような判定・講評ができればと思って試合を見ています。
自分自身も、まだまだ勉強しなければならないことはたくさんあると思っておりますが、これまた率直に言って、選手に対して完全に説明責任を果たせるだけのジャッジが十分にそろっているかというと、昔に比べればはるかに充実しているとはいえ、まだまだ至らない点があるのも事実だと思います。しかし、この点についても、ジャッジインターン企画や、「ジャッジをジャッジする」という趣向の大学生大会が開かれるなど、改善のための取組が多数行われています。
今大会で、もしかしたら、判定に満足できなかったディベーターも少なからずいらっしゃったかもしれませんが、もしそうであれば、是非、今後は、大会を支える側として、自分自身のような思いをするディベーターを減らすための活動に参加してもらえればと思っています。

ディベート教育功労賞受賞記念で、OBOG会代表が挨拶で述べた、一人では限界があるということ、継続は力なりということは、ディベート甲子園というイベントや、ディベートコミュニティーの発展についても言えることです。多くの人が継続的に支えあって、今年の大会で皆さまが展開してきた素晴らしい議論が形作られているのだと思います。
20回大会という節目を契機に、今一度、そのことに思いを致しつつ――というのは決して恩着せしたいということではないので念のため。なんだかんだいってOBOGが楽しんでいるのは即興ディベートでもバレてしまっているでしょう(笑)――この大会を振り返って、将来の進路を切り拓き、また、未来の新しい世代のディベーターにバトンをつないでいっていただければということを、いちジャッジとして切に願う次第です。

以上、長くなりましたが、第20回ディベート甲子園の感想でした。参加者の皆様、そして運営スタッフの皆さま、今年も素晴らしい大会をどうもありがとうございました。

ディベート甲子園全国大会の感想 | 02:59:55 | トラックバック(0) | コメント(2)
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