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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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第23回JDA春季大会の感想
どうもご無沙汰しています。
気が付いたら今期論題が発表されておりますが、今回はJDA春季大会に出た感想をお送りします。

今回は、ディベート実験室のオリジナルメンバーで出場するという趣旨で、レジェンドの安藤さん・CoDAの重鎮久保さんと組んで出場させていただきました。論題は代理出産実施の法的枠組み整備というもので、過去に2回も出ている論題なのですが、プレパの時間がなかなか取れずメンバーにはご迷惑をおかけしました。
結果はというと、予選1位で決勝に進み、近時著しく実力を伸ばしている後輩たちのチームと対戦することになりました。結果優勝することができましたが、思わず質疑中に座り込んでしまうほどの激戦で(タイマーの音がしたので完全に終わったと思ってしまいました…。)、苦しくも楽しい試合でした。

決勝のトランスクリプトが公開されるのかわかりませんが、今期はNegでいろいろと思うところがあったので、主に決勝を見た人向けになってしまい恐縮ですが、簡単な自戦解説をしておきます。

決勝は相手方がAffで、我々はNegを引きました。Affのケースは、非常にオーソドックスで、代理出産でないと子を儲けられない人がいるので、その人たちのために選択肢を確保しようというものです。代理出産論題は、既に他の生殖医療その他の医療行為で第三者にリスクのある行為(臓器移植とか)も認められていたりすることもあり、規制の理由がなかなか見当たらないところで、Negが苦慮する論題でした。ただ、個人的には、Affも盤石ではないし、Negのほうがストーリー性のある複雑な議論(強いとは限りません)ができるのではないか、ということを考えてきました。
今回のチームは、チームで戦略をすり合わせるというより、寄せ集めで議論を作り、各自やりたいことをやるという感じでプレパをしていきました。決勝では、安藤さんが2NC/2NRだったということもあって、Counterplanを伸ばして勝ったのですが、個人的には、1NCで出したケースアタックのラインで、治療が本当に患者を幸せにするのかという観点で攻めたかったところです。以下、具体的なNegの議論に即してみていきましょう。

Negの出した議論は、DA2つとCounterplan、それからいくつかのケースアタックです。

DAの1つ目は、代理出産をしないといけないというプレッシャーを受けるという話です。すなわち、現在はプラン対象の子宮がなかったりする人は、どうしようもないので生殖医療を使っていないところ、プランで代理出産ができるようになると、これをやってみないといけないというプレッシャーに襲われ、排卵誘発剤や卵子採取という苦しい治療を受けることになる、という話です。インパクトについては、排卵誘発剤より卵子採取の苦しさがより重要だと思っていたのですが、排卵誘発剤の話は反論しやすいので反論を誘える(予選3試合目は相手がこれにはまり1分ほど時間を無駄遣いしてくれました)というディベート便宜的なところはあります。本当は心理的なプレッシャーのインパクトも言いたかったのですがよい資料が見つからず断念しています。
このDAは、後であげる、子を産んでも幸せにならないというケースアタックの話や、代理母がなかなか見つからないという話、養子Counterplanの競合性で出す、代理出産の存在が養子を選択しづらくさせるという話と絡めて伸ばしていくことを想定しているものです。つまり、代理出産は不妊女性が真に待ち望んでいるものではなく、しなければならない強制的な選択肢になると論じていきつつ、しかし代理母はなかなかおらず、他方で養子に行く道も否定されてしまうので、辛くかつ現実的に依頼が困難な代理出産という選択肢に縛り付けられていく、というストーリーを考えていました。ただ、こういう伸ばしになっていないのはご案内の通りです。

DAの2つ目は、自分で産まない代理出産では、障害児が生まれてしまうと引き取らないなどして大事にされない、という話です。この話は、障害などで不幸せになるから産むべきでないというのは、一定のカテゴリーの人間の出生を否定することになるのでよくない、という反論が来て、これで切られてしまっていたのですが、個人的にはそういう話ではないだろうと思っています。つまり、DAで言っているのは、自分で産んでいないということで無責任になってしまうということであって、そういう無責任な出産形態は認めるべきでないという話であり、生まれてこないほうがよいとかそういうことを言っているわけではありません。
この話は「出産を他人にさせる」という代理出産固有の問題であり、子の福祉のために自己決定が制約されるべきというケースの重要性への攻撃の根拠に位置づけられる予定でした。また、これは時間の問題であまり見込みがなかったのですが、本来はケースアタックの「産んでも幸せにならない」という話と関係する話で、心理的ケアでフォローされていない過大な子供願望による場合は完全な子供を求めるので障害に耐えられないという話もできるかなぁと思っていたところです。この話は、同じく自分で産んでいない養子の取り扱いと区別するために必要となってくる議論なのですが(こういう話がないと「じゃあ養子をとった人もその養子が障害児と分かったら虐待するのでは」と反論されてしまう)、そこまで議論するには現行フォーマットは時間が短すぎます。

Counterplanは、第三者配偶子を使った生殖医療の禁止(結果的に代理出産が禁止される。もっとも、代理出産だけ禁止でもよかったのではないかとは思います)と養子の促進というもの。最終的に、分厚い2conによって、実子でも満足するとか、代理出産を認めると養子による解決が低いものとみられるとか、施設で育てるより家庭で育てたほうが良いといった話が追加されていきます。
ただ、実際のところ、養子が幸せになるという話は、そこまで重要ではなく、おまけ的な位置づけではないかと思っています。少なくとも、養子に生じる利益は、生殖医療で考慮されるべき「子の福祉」ではありません(それこそ、アフリカに寄付するのも子の福祉なのか、という話です。)。この論題に即して純化するとすれば、代理出産という選択肢(生殖医療の拡大)を認めることで遺伝的つながりへのこだわりを強化させてしまい、子供がほしいという目的を解決するより簡便な選択である養子が見えにくくなるのと、さらに「実子へのこだわり」から苦しみを増す、という話にするのがよいのではないかと思っていました。

ケースアタックは、1NCの段階では、上記の狙いから、代理母があまり集まらないという話、子供ができても産めない自分は変わらず傷ついたままで救われないという話、かえって精神医学的フォローができなくなりよくないという話を出しています。
2NCでは、インパクトへの攻撃のほか、代理母が苦しむという話が追加されていますが、これは蛇足かなと思っています。ただまぁ、2NRでまとめやすいという判断なのでしょうから任せていたところではあります(結局機能していなかったとは思います)。

上記議論に対して、Affもいろいろと反論を尽くしてきたのですが、詳細は割愛します。もう少しCounterplanへの反論を2ACでしっかりやるべきだったのではないかとは思いますが、なかなかプレッシャーのある議論でした。

苦しいといわれていたNegですが、実際の政策判断としてどこまで説得的かどうかはともかく、上記のような感じで、それなりに整合性のあるストーリーと、それに基づく議論はできたのではないかな、とは思っています。とはいえそうではない筋で勝ってしまうというのがまたディベートの面白いところなわけですが、せっかくのアイディアなので、一応記しておく次第です。
前にどこかで(同じ論題の2010JDAの感想だったかな?)書いたと思いますが、個人的には、いろんな議論を関連付けて、ストーリー性のある議論を展開していくのが、格好いいディベートだと思っており、その方向に沿った議論は若干なりともできたかな、というところではあります。私はあまり貢献できませんでしたが…。

と、ほぼ自分の議論構想語りになってしまいましたが、JDA参戦記でした。
しかし、この大会でも思いましたが、近年は本当に大会のレベルが高く、苦しいシーズンでした。有力なチームがたくさん出てきているのと、それぞれが質の高い議論を作るための取り組み方を確立している感があります。ここでいう「質の高さ」は、エビデンスの質だったり、ストーリーの部分だったり、いろいろありますが、その根底には、ディベート経験はいうに及ばず、どういう議論が良い議論なのか、という物の見方についてのレベルが向上している感があります。逆に、そういうところでレベルが上がっていないと、せっかく準備してきているのに的外れな議論をやってしまったり、狙いのよくわからない議論を回していたりと、結果につながらないところが出てしまうように思います。

ではどうすれば物の見方がよくなるのか、また、そもそも何をもって物の見方がよいということになるのか、というのはなかなか言語化が難しいところなのですが、今後も考えていきたいところです。もちろん、自分のレベルアップも必要なわけですが。

ディベート関連一般 | 01:38:14 | トラックバック(0) | コメント(0)