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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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第28回ディベート甲子園高校論題の私的解説(論題の解釈を中心に)
どうもご無沙汰しております。JDA秋季大会もぶっとばして半年ぶりの登場です。

さて、今回は、先日発表のあった第28回ディベート甲子園の論題をテーマにします。中高ともに興味深い新論題ということで、面白いシーズンになりそうですが、今回は高校の電子監視制度論題を取り上げます。
この論題は制度をどのように仕組むかが難しく、イメージのしにくいところです。論題解説もでており、参考にはなるのですが、後でも触れる通り、論題の解釈に関する説明には不正確ないし不十分な点が散見されるところであるため、主にそのあたりをカバーすることを試みることにします。単なるスヌーピストの意見ですのでどこまで役立つか分かりませんが、選手の皆様の参考になれば幸いです。

なお、今季の高校論題は、平成28年度の司法試験論文試験公法系第1問(憲法)で類似の制度が出題されています(問題出題趣旨採点実感)。それだけ難しいテーマを取り扱っているということがお分かりいただけると思います(なお、出題趣旨には参考になるとともに異様にレベルの高い記載がありますが、このようなことが書けなくても十分合格答案は書けるので法律家志望の方はご安心ください。)。
この問題には今季論題で採用し得る具体的な制度の例が記されているほか、出題趣旨や採点実感では、電子監視制度についてどのような点が考慮される必要があるのかというヒントが色々と記載されていますので、参考にされるとよいでしょう。

第28回ディベート甲子園高校論題の私的解説(論題の解釈を中心に)

1 論題の解釈

今季高校論題は以下のとおり定められています。

「日本は有罪判決を受けた者に対する電子監視制度を導入すべきである。是か非か」
*殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪により懲役または禁錮の有罪判決を受けた者を電子監視の対象とできる。
*電子監視の対象者に移動の制限を課し、常時 GPS 端末の装着を義務付ける。


この論題について、どんな制度を構築することができるでしょうか。以下、具体的に見ていきましょう。

(1) 電子監視制度の対象者

「有罪判決を受けた者」とは?
まず、この論題は「有罪判決を受けた者」を電子監視制度の対象としています。付帯文第1項からより正確に言えば「懲役または禁錮の有罪判決を受けた者」ということになります。
「有罪判決が確定した者」ではなく、有罪判決を受ければ足りるので、上訴せず、あるいは上告審で有罪が確定していない者でもプランの対象にすることができます。例えば、起訴後勾留されていたが保釈されていたところ有罪判決を受けて上訴した者で、再保釈された判決未確定の者(禁錮以上の刑の有罪判決の宣告があると保釈は取り消され、再保釈を要します。刑訴法343条)も対象となり得ることになります。他方で、一度有罪判決の宣告を受けても、上訴で覆され無罪となった場合、有罪判決は取消し又は破棄されたことになるため、プランの対象からは除外されます。
なお、論題解説の3~4頁にある例6は、有罪判決言渡し前に被告人勾留について保釈を受けているケースを説明するものですので、上記指摘とは矛盾しません。
論題の解釈とは少し離れますが、再保釈中の者については、判決が確定しておらず、無罪推定が及ぶべきであるにもかかわらず、人権侵害を伴う監視制度の対象にしてよいのかという問題が考えられそうです。プランで「有罪が確定した者に限る」ことは論題に違反しないと思われるので、そのような措置を取ることも考えられますが、一審で有罪判断されたことをもって一定の侵害措置が正当化される(例えば、刑訴法も上記のとおり有罪判決の宣告により保釈を取り消すことにしており、また刑訴法344条は再保釈が認められる場合を制限しています。)という考えもあり得なくはないでしょう。いずれにせよ、「有罪判決を受けた者」に、有罪が確定していない者も含まれ得るということは、意識しておいてよいと思います。

執行猶予付き判決も有罪判決なので、執行猶予中の者もこの論題の対象になります。
また、論題解説2~3頁では、仮釈放中の者については制度の対象として想定していないように読める記載がありますが、論題の文言上、服役中でも判決を受けた者に入るので、仮釈放中の者も制度対象とすることに支障はなさそうです。では、仮釈放中の者のみを対象にするというプランは許容されるでしょうか。懲役ないし禁錮の期間内のことでもあるため、制約はやむを得ない(刑務所にいるよりまし)という話もできそうであり、もし可能であれば流行りそうな雰囲気のするプランです。論題解説者はこのようなプランは対象外と考えているように思われますが、そういう議論はやめてほしいということであれば、「刑期満了後の電子監視制度」といった文言を採用することなどもできたはずであり、そのような文言が論題にない以上、仮釈放限定プランが排除されていると読む根拠は乏しいように思います。論題解説2頁左段の記載からは、今も仮釈放中は移動の制限があるので論題は実現済という考えであるとも読めるのですが、GPSによる監視はないので、これを付け加える点で論題は現状を変更する内容になっています。というわけで、仮釈放限定プランは論題を満たすように思われますが、それが肯定側のオプションとして有力であるとは限らないので、採用するかどうかは皆様の検討に委ねます。

どんな犯罪が対象になるのか?
付帯文の第1項では、「殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪」で懲役または禁錮の有罪判決を受けた者を対象にすることが「できる」と定められています。
ここでは、「殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪」という文章で「その他」という言葉が使われていることがポイントです。実は法制執務上、「その他」と「その他の」には大きな違いがあります。前者は、「その他」の前にある名詞と後ろにある名詞が対等な関係にあることを意味します。後者は、「その他の」の前にある名詞が後ろにある名詞の例示になっている、ということになります。「スヌーピー、ジャフバ、その他人気キャラクター」という文章は、スヌーピー(人気キャラクター)、ジャフバ(某団体会の広報キャラクター。誰も知らない)、人気キャラクターは並列の関係にあるので、人気キャラクターでないジャフバが入っていても問題になりませんが、これを「スヌーピー、ジャフバ、その他の人気キャラクター」に変えてしまうと、ジャフバが「人気キャラクター」の例示になってしまい、おかしな文章になってしまうというわけです(「スヌーピー、ピカチュウ、その他の人気キャラクター」なら大丈夫そうですが、ピカチュウを同じ黄色のウッドストックに変えたときに成り立つかはDebatableかもしれません。)。(※「その他/その他の」の違いに関する参考サイト
付帯文に戻ると、ここでは「その他」が使われているので、殺人、性犯罪、強盗、対人暴力犯罪は並列の関係にあります。後述のとおり「対人暴力犯罪」が何を指すのかは不明なのですが、「殺人、性犯罪、強盗」は「対人暴力犯罪」の例示ではないので、暴力性のなさそうな性犯罪、たとえば盗撮や児童ポルノ所持といった犯罪も対象にできることになりそうです。

また、「対人暴力犯罪」についても対象にできるとされていますが、法律上、このような言葉の定義は存在しません。上記のとおり、「殺人、性犯罪、強盗」が「対人暴力犯罪」の例示ということでもありません(実際は例示と考えているのではないかと思いますが、論題検討委員には法律家が複数名含まれているので、例示としないよう敢えて「その他」を使っている可能性があります)。
「暴力」は物理的な有形力の行使(暴行)のみならず言葉による精神的な攻撃も含み得るところですが、電子監視制度の内容である移動の制限やGPSによる位置情報の把握の必要性という点で考えると、少なくとも近接した距離で人を攻撃するような犯罪を対象とすることが想定されているものと考えられます(このような考え方からは、そのような性質を有さない犯罪は「性犯罪」でも対象から除外すべきという結論も導かれます。)。定義がはっきりしないので議論の余地はありそうですが、プランを出す側からすれば、無理に対象を広げてアクションと無関係な対象を取ることはしないだろうと思いますので、このあたりが試合で問題になることはなさそうです。わざわざ「侮辱罪や名誉毀損罪も対象にしよう」と言い出すチームはいないでしょう。

最後に、付帯文の第1項が「できる」という言葉で終わっていることも重要です。ここからは、「殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪により懲役または禁錮の有罪判決を受けた者」の全部を対象にする必要はなく、そのうち一部だけ対象にすれば足りるということが分かります。例えば、「性犯罪(のうち強姦、強制わいせつ等一部の類型)」のみを電子監視制度の対象にするプランも論題内だということです。
この点、論題解説3頁の左段下部には「今回の論題の付帯文は「殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪」となっていますから、「殺人、性犯罪、強盗」の 3類型については、肯定側の設定にかかわらず、電子監視の対象となります。よって、肯定側はあくまでも、「殺人、性犯罪、強盗」の部分については、必ず電子監視の対象に入れる必要があります。」と書かれていますが、この記載は根拠を欠くばかりか付帯文の明文に反しているので、端的に言って誤りと考えられます。論題解説に拘束力はありませんが、誤解を招くので、同様の誤りを前提とする3頁右段の例4の説明とともに修正したほうがよいと考えます(そもそも、その上の方に「「電子監視の対象とできる」と書かれているとおり、今回の論題においては、「殺人、性犯罪、強盗、その他肯定側の定める対人暴力犯罪により懲役または禁錮の有罪判決を受けた者」のうち、その全員を電子監視の対象者にしなければならないわけではありません。」と書かれている――これは正しい説明です――こととも矛盾しています。)。

(2) 電子監視制度の内容

電子監視制度の具体的な内容は、付帯文第2項に「電子監視の対象者に移動の制限を課し、常時GPS端末の装着を義務付ける」とあるとおりです。電子監視というネーミングから直ちに想起されない「移動の制限」も含まれていることがポイントです。移動の制限とGPS端末の常時装着の両方を含まなければ、論題の言う電子監視制度には該当しないということになります。

移動の制限とは?
「移動の制限」の範囲や制限方法については、具体的な定めがないので、肯定側に裁量が認められそうです。

制限の範囲(対象)については、問題となる犯罪の類型等から、制限を必要とする具体的な事情ごとに設定することが考えられます。特定人への強い敵意に基づく犯罪であった場合、当該人物への接近を禁じるような措置が考えられますし、児童を対象にする性犯罪の常習者である場合、児童が通う学校等への接近を禁じることが考えられます。
もっとも、このように具体的な指定をするのではなく、「怪しい動きをした場合」に「必要な範囲で区域を指定する」という事後的・流動的な制限を課す方法も考えられます。目的達成の観点からはこちらの方が有効でしょう。
この点、冒頭紹介した司法試験の問題では、強姦等の性犯罪を念頭に「幼児を保育する施設又は学校及びそれらの周辺道路」や「公園又は山林及びそれらの周辺道路」という類型的に性犯罪に及ぶ危険性の高そうな場所を「一般的危険区域」と指定しつつ、監視の結果「監視対象者が一般的危険区域に立ち入った際の行動その他の事情により、当該監視対象者が性犯罪を行う危険性があると認めるとき」には、一般的危険地域の中で立ち入りを禁止すべき特定の場所を「特定危険区域」とし、立ち入りへの警告や禁止命令を出すという、上記両方の合わせ技的な制度――ここでは一般的危険区域の立ち入りは禁止されていないので、なるべく制約の度合いを低くするよう工夫する方向で合わせ技が使われている――を想定しています。
制限の範囲を設定する際に留意すべきは、その設定方法によって、必然的に、GPSで取得する位置情報の活用方法が変わってくるということです。制限の範囲を一義的に特定するのであれば、人間の判断を介在させずにGPSにより把握された対象者の位置が規制区域に入っているかどうかを機械的に判断するだけに留めるという措置も可能になりますが、具体的な危険性の有無を判断する(こちらのほうが移動の自由の制約度合いを低くできる可能性がある)場合、人間がGPSを見て「怪しい動き」かどうかを評価する必要性が出てくるため(AIがやってくれるということがあるのかもですが…)、プライバシーとしての移動経歴情報が取得されてしまうという懸念を避け難くなります。この点は重要ですので後でももう一度触れます。

制限をどのように実現するかという点については、違反した場合それを犯罪にするという方法(GPSにより違反の事実を確認することができます。)が考えられますが、論題解説にあるように、GPSで違反が確認されたら警告音がなったり捜査当局に通報が行くといった、より前のめりな措置を取ることも考えられます。SF映画よろしく、違反したら爆発する首輪的なものも論題内にはなるでしょうが、非人道的なので素人にはお勧めできないプランです。

位置情報の取得・利用方法
GPS端末については、取り外せないようなブレスレットなり首輪(!)で装着するということも考えられますが、制度の趣旨からすると簡単に外せないほうがよいことや、装置が見えるとそれ自体が差別の原因になりかねないということもあるので、体内にGPS機能付きのチップを埋め込むなどの方法も考えられそうです。この点も肯定側の裁量に委ねられるところです。もちろん、体内へのGPS埋め込みはそれ自体が身体への侵襲的措置であり人権侵害であるとの批判も可能であり、ディベート的には何となく議論しにくい感はあるものの、実際には無視し難い問題を構成するものです。

より重要であるのは、GPS端末で取得する情報の取り扱いをどうするかということです。これも肯定側の裁量に委ねられるところではあります。
情報の利用・公開を最小化するプランとしては、移動の制限のため必要な範囲にとどめ、当局も含めて位置情報にアクセスすることは認めず、制限範囲内に入った時に警告を受け取るだけにする、というものが考えられます。この場合、プライバシーの侵害は少なくなりますが、再犯防止等の措置の実効性を高めるという点では不十分なことが否めません。
これに対して、情報を最大限利用する方法としては、捜査当局や公衆(ないしは被害対象となり得る特定人?)がアクセスできるサイトで犯罪者の位置情報(さすがに公衆に公開する情報は匿名化すべきように思います)を確認できるようにする、といった制度も考えられます。例えば、司法試験の問題では、警察署に大型モニターを置いて現在地を常に確認し、性犯罪やその準備行為を行っている疑いがある場合には警察官が現場に急行できるよう見張る(例えば、仕事等と関係ないのに小学校の登下校路らしき場所をうろついているとか、何故か人気のいない山林の中にいるなどしていれば怪しいということになりそうです)という制度設計になっています。
制度の目的との関係でどこまでの利用が必要かという点と、それによるプライバシー情報の取得・公開による弊害を比較考量し、妥当な制度設計を考える必要があります。

そもそも誰がどのような形で監視を決めるのか
論題では、有罪判決を受けた場合に必ず電子監視制度の対象にするということにはなっていないので、電子監視制度の対象にするかどうかを誰がどうやって決めるか、ということも考える必要があります。
裁判所が判決とともに電子監視制度の対象にするか決めるという制度ももちろん考えられます。もっとも、再犯可能性を公判の中で審理することが適切かという疑問もあり、裁判所が監視の必要性を主体的に判断するというよりは、検察や公安委員会等の行政機関が個別の事情に基づき電子監視制度の適用を定めるといった仕組みも考えられます(いわゆるストーカー規制法の禁止命令も公安委員会が出します。)。裁判所への申立てをさせて司法審査を経る必要性を課すことも一案です。
監視を決める際には、監視の範囲や期間についても定める必要があるでしょう。また、一度監視が決まっても、更生が十分確認されたなど、監視の必要性が失われた場合、途中で取り消せる仕組みもあると望ましいでしょう(ディベートでデメリットを防ぐ議論とするには、プランの効力や実行可能性も説明できるようにしておく必要があります。)。

制度の目的
電子監視制度の目的としてどのようなものを取れるか、ということも問題になります。
この点、論題解説1頁では、「刑務所における懲役刑・禁錮刑等の拘禁刑の代わりに、毎日決められた時間帯の自宅待機を命ずる際に使われる制度」は想定外であり、「拘禁刑を終えて、社会へと復帰した元受刑者に対して、GPS端末を装着させることで、その行動を把握・制限する制度」が想定されていると説明されています(なお、論題の文言上、拘禁刑を終えたものに限られていないことはすでに指摘した通りです。)。前者のような目的による制度が論題外になるのかという点は議論の余地があるように思いますが、付帯文第1項が「懲役または禁錮の有罪判決を受けた者」を電子監視制度の対象としており、電子監視制度自体は懲役や禁錮といった刑罰そのものではないという理解を前提にしていると解されることからすれば、刑罰の代替として制度を用いることは付帯文1項に反するといえそうです。
ただ、このような解釈を普通の高校生が簡単にできるわけではないと思いますので、付帯文でもう少し分かりやすく注記するか、論題解説に解釈の根拠を付記してもよかったのではないかという気はします。

2 今季論題の展望

詳細を書く時間と能力がないため、ポイントを絞って若干思うところを記載しておくにとどめます。

問題となる権利
今回の論題では、「移動の自由」と「プライバシー」の2つが問題となります。論題の字面だけからすると後者のみが気になりそうですが、実は後者はプランの選択次第で(ほとんど)問題にならなくなる可能性もあるため、前者の方が本質的制約であるように思われます。

とはいえ、GPSによる監視は、一般的にはプライバシーの制約が問題とされるところです。
この点、GPS端末をひそかに車両に装着する捜査方法の違法性(無令状で行えるか否か)が問題となった最大判平成29年3月15日は、「GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであ」ると判示しています。
上記判示の意味を理解するため、位置情報によってどんなプライバシーが制約されるのか、具体的に考えてみましょう。位置情報を継続的網羅的に把握されるということは、その人がどういう行動をとっているかが把握されてしまうこととイコールです。移動経路を追っていけば、その人の職場、行きつけの店、趣味(例えば特定アイドルのライブがある日にその会場にいる事実等から推察できます。)等をある程度想起することが可能です。想像してみるとかなり辛いところがあるでしょう。
このように、GPSで侵害されるプライバシーは、前科のあるなしにとどまらない、異質のものであるということができます。

継続的な把握を通じてプライバシー情報を把握することが問題である(その瞬間にどこにいるかという情報だけでは高度なプライバシーになるとは限らない)ということからは、個々の位置情報を匿名化して特定個人との紐づけができないようにすれば、プライバシー侵害の程度は低く、公開しても問題になりにくいという考え方はできるかもしれませんが、例えば、周りに人がいないところでスマホから情報サイトを見るとその人だと分かってしまう、といった形で特定される可能性は常にあります(この場合、前科情報を知られるという意味でのプライバシー侵害も問題になり得ます。)。
いずれにせよ、制度により達成しようとする利益(すなわちメリット)との関係で、必要な限度を超えて位置情報を利用・公開することには、プライバシー侵害の問題が生じ得るということになります。特に、位置情報を経時的に把握できるようにする場合、様々なプライバシー情報が取得できてしまうという点で危険性が大きいということが意識される必要があるでしょう。さらに、それを捜査機関が取得し、それに基づき対象者の行動を制約するということも考えると、国家により行動を把握され、制限を受けるという、高度の権利侵害を構成することになります。

移動の自由については、言うまでもなく行動制限であり、正当な理由なく認められるべきでない権利侵害であることは論を俟ちません。もっとも、日本の法制度上、いわゆるDV防止法上の接近禁止を含む保護命令や、いわゆるストーカー規制法上のつきまとい等の禁止命令といった形で、一定の事由による移動の自由制限を課す制度があります。GPSで制約の実効性を担保するという点で質的差異はありますが、どのような根拠で、どのような行動を制約するかということを考える上では参考になりそうです。
各犯罪との関係で、移動の自由を制約する必要性や範囲としてどういうものが考えられるのか(おそらく事案による)ということが問題になりそうです。具体的にどういう制約が想定されるのかという話のほか、制約の必要性や相当性を判断権者がよく判断できるのか、といったことも議論になり得るところです。

抽象論だけでなく具体的な話をしよう
選手の皆様におかれては、この手の論題では権利論が大事だ、ということで、いろいろと大上段の議論を試みることになるでしょう。もちろん抽象的な権利論も大事ですが、それと同じくらい、というかそれ以上に、制度の仕組みや、それによって何が実現し、どんな利益が制約されるのか、という具体的な話も重要になってきます。

プライバシーだ!移動の自由だ!再犯予防、生命権だ!といった話だけでなく、それらの権利が存在することを踏まえて、どのような制度を設計するのか、その制度で何が実現され、その中で対象者が何を失うのか、といったことを具体的に議論できるようになる必要があります。そのためには、単にプレパして弾薬を集めるだけでなく、そこで何を言っているのかを消化する必要があります(この論題に限った話ではないですが)。
もちろん、皆様には、そのような個別具体的な考察にとどまるのではなく、社会としてこの論題を受け入れるべきか否かという答えをどのように導き出すかという問題への回答も求められています。しかしながら、具体的な話を欠いたまま抽象論に飛びつくのではなく、具体的思考を積み上げる、あるいは抽象的な理念を掘り下げて具体化していくといった形で、地に足をつけた議論をすることが大事です。

例年通り、挑戦しがいのある難しい論題ですが、皆様が、今シーズン、具体的な思考と抽象的な考察を交互に行き来しつつ、議論を深め、議論を楽しまれることを期待しております。

ディベート甲子園の選手向け | 01:42:29 | トラックバック(0) | コメント(0)