愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
2立論形式におけるNew Argumentの規律
関東JDAも目前ということで、現在絶賛プレパ中です。東京にいないので練習試合の機会は少なめですが、同じ地方から出場する他のチームと試合をしたり、東京に遠征に行ったりして多少なりとも経験値を積んでおります。今季の論題も議論してみるといろいろと難しいのですが、そのあたりは大会が終わってから書いてみます。

さて、今日はタイトルにある通り、2立論形式でNew Argument(新出議論)をどのように判断するのかという基準について、簡単に説明することにします。というのは、この問題について悩んでいる高校生を某所で発見したからです。せっかくなのでしっかり説明できるここで解説しようということです。

本来なら前に予告していた解説本を早く書き上げるべきなのですが、JDAの準備もあり、また司法修習に際して読むべき教材がダンボール箱で送りつけられてきたりしたので、ちょっと遅れそうです。頑張って来年春頃には完成させたいのですが…。

それでは以下、本編です。
*あくまで私見なので全てのジャッジが以下のように考えるわけではありません。というか新出議論の規律を理論的に詰めて解説している記事などは(僕が不勉強なだけかもしれませんが)なかなかありません

序.新出議論の定義
新出議論(New Argument)とは、立論のステージで提出すべき議論であるにもかかわらず反駁のステージで提出された議論をいいます。いいます、といっても、便宜上勝手に定義しただけですが、まぁこんなところでしょう。JDAルールを見れば分かるように、新出議論が規制される理由や規制の内容は慣習的なものであり、ルールで明文化しているディベート甲子園が親切なだけです。
このように定義すると、新出議論の意義を考える上で問題となるのは、「立論のステージで提出すべき議論」とは何か、ということになります。よって、以下ではこの点について考察します。

なお、ディベート甲子園では「遅すぎる反論(Late Response)」という概念もありますが、これは1立論形式で議論を規制するためにルール上設けられた便宜的用語であり、2立論形式ではこのような用語は使用しません。

1.立論の役割
立論で提出すべき議論とは何を指すのかを考えるに当たっては、立論の役割とは何かを問う必要があります。ディベート甲子園ルールで試合をしている中高生の皆さんは「メリットやデメリットを出す場所」だと考えているでしょうが、2立論形式のディベートでは、立論において相手側への反論を行います(ディベート甲子園でも否定側立論で反論することは当然可能です)。

ディベートにおける立論の意義は、試合の基礎となる議論を提出する場面であるという説明が一般的になされます。「試合の基礎となる議論」というのは、投票理由を形成する内容のことをいいます…と言いかえても何を言ってるのか分からないでもう少し説明すると、「投票理由を形成する内容」というのは、その主張の成否を元にして判定を導くのだという意味です。これは裏返すと、反駁のステージで新たなデメリットや反論が出てきたところで、それは判定上考慮しないということを言っています。まとめると、立論の役割は、判定を左右するような主張を「論点」として提示することです。
では、反駁とは何をやるステージなのか…という疑問があるかもしれないので、立論ステージの意義を明らかにするためにここで少し説明しておきます。反駁ステージでは、立論で提出された論点(メリット・デメリットの構成要素だけでなく、それに対する反論も含む)の成否について検討を加えることになります。

立論段階で論点を全て提出すべきという理由については、早い段階で判定を左右するような内容を出させることで十分に議論を検討できるようにすること、とりわけ試合を左右する重要な議論について防御の機会を十分に与えるという目的によります。また、フォーマットからしても、それ自体が単独で評価されて判定を左右する論点については、質疑の機会を保障すべきだという説明も可能です。

2.立論で提出することが期待される「論点」の意義
ここで、「論点」という言葉の意味について説明しておきます。議論というのは主張と根拠(それをつなぐ推論)という要素からできていますが、論点を把握する上で大切になるのは主張です。例えばメリットというのは、内因性・重要性・解決性という3要素からなりますが、これらそれぞれの要素は大きい論点であり、その中には論点を論証するための小さな論点(主張+根拠)がいくつか入っています。これら論点が成立しているかどうかによってメリットの成否や大きさが判断され、判定に影響します。
こうしたメリット・デメリット(一般のディベートだとこれに加えてCounterplanやTopicalityなど)を形作る論点のほかに、これらを攻撃するための主張立証も、判定を左右します。相手方の出した論点と異なる理由付けに基づいてその論点を否定しようとする議論は、それ自体について単独で評価することが可能であるので、それ自体が判定に影響するものとして論点とカウントされます。これに対して、相手の論点の理由付けを論難するだけの指摘、いわゆるダウトについては、相手の論点の評価を動揺させることを通じて判定に影響を与えようとするものであり、ダウトそのものの成否が判定を左右するものではないので、論点とはカウントしません。

具体例を述べましょう。「着床前診断(PGD)により高い確率で流産を回避できるようになる」という主張と、それを支えるエビデンスは、メリットの解決性を形作る論点です。
これに対して、「PGDでは細胞の1つを取り出して検査するだけであり、他の細胞に異常がある可能性が残るため、理論的に成功率は低くなる」という反論をする場合、この主張立証は単独で評価されるものであり、かつこの反論の内容は肯定側の出している論点と併存しつつその信用性を下げる(高い確率で流産を回避できると言っているけど、理論的にはそうは言えないはず…)ものであるため、それ自体が判定に影響します。よって、この反論は論点を形成するものといえます。
では、「肯定側は流産を回避できるようになると言っているが、その確率がどのくらいであるかは不明だ」とか、「論文の前提となる被験者の母数が少なすぎるから信用できない」といった指摘はどうかというと、これは結局のところ肯定側の論点についてその主張の曖昧さを突いたり、根拠の不備を指摘するものにすぎず、それ自体が評価されるものではないので、論点を形成する反論ではありません。

以上の説明で言う「論点」を形成するような議論は、立論で全て出さなければなりません。反駁以降では、立論段階で出された論点の成否について、そしてそれらを踏まえた試合全体の評価についてのみスピーチが許されます。
特に、立論までの段階で論点の成否が争われている場合、それは「争点」として反駁で主に検討されることになります。

3.具体的な規律
以上を踏まえて、2立論形式における具体的な規律を説明します。

肯定側第一立論(1AC)では、一般的にはメリットを提出します。プランや肯定側のメリットなど、論題を肯定すべき理由を言う部分のことを、ケースと呼んだりします。メリットへの反論はケースアタックなどと呼ぶので、知っておくと試合のときに言われて混乱しないでしょう。

否定側第一立論(1NC)では、デメリットやCounterplan、Topicalityなどの独立した投票理由を出すほか、メリットに対する攻撃(ケースアタック)も行われます。
2立論形式の否定側は、1回目の立論で主だった議論を提出し、2ACで反論があった部分をネガティブブロックでフォローすることによって立論を完成させるというTwo constructive development(二立論的展開:ツーコン)という戦略が有効なので、1NCでは議論の骨格だけを提示することが一般的です(6分デメリット、というのはあまりよくない)。この方法だけだと、反論があった部分だけを重点的に再反論して議論をフォローできるため、より効率的に肯定側(1AR)にプレッシャーをかけることができます。

肯定側第二立論(2AC)では、1NCに対する反論を行います。もちろん、これはケースアタックの返しも含みます。2ACで反論できなかった1NCの内容については、後の第一反駁(1AR)では反論できません。立論段階で反論できたのに反論せず争点を形成しなかった以上、あきらめたものとみなされるからです。
このため、2ACでは、1NCで出たデメリットなど投票理由をなす議論については全て反論を加える必要がありますし、ケースアタックのうち致命的なものについても必ずフォローしなければなりません。

否定側第二立論(2NC)と否定側第一反駁(1NR)は、連続して反論ができるネガティブブロックという場面です。否定側はここを最大限に活用し、試合を決定付ける必要があります。
2NCでしか出せず1NRでは出せない議論は、1ACでの肯定側の議論に対して論点の提出に当たるような反論です。流産回避が重要性になっているメリットに対して、2NCまで流産の苦しみについて議論していないのに、1NRでいきなり「流産は自然の摂理であり、最終的に子どもが得られるのであればそこまで苦しみにはならない」といった反論をすることはできないということです。一方、「そもそも肯定側は流産が苦しいという患者自身の声を示していない」という指摘は1NRでも可能だと解されます。
では、2ACで新たに出てきた議論に対して、1NRで論点の提出に当たる反論をすることができるのでしょうか。これについては、2ACの議論が1NCに対する反論であるといえる場合に限って認められるというのが(おそらく)一般的な理解です。これは、後述のように1ARで新しい反論を排斥するための論点提出が認められていることとの均衡から説明できます。しかし、1ARと異なり、独立した争点を形成する機会は2NCで認められており、1NRを「何でもあり」にしてしまうことは否定側を不当に有利にしてしまいますから、2ACで新たなメリットが出されたという場合には、それに対するレスポンスは2NCでのみ行え、1NRでは反論できないと考えることになります。これは、肯定側が1NCの論点に関連して出した議論であればそれに対するレスポンスについての質疑も1NCの後に行えるのに対して、2ACで初めて出す議論に対する論点提出が1NRでされると質疑の機会が損なわれるという観点からも説明できます。

ネガティブブロックでは、上記のような規律を前提に、反論する内容を分担してスピーチを行います。
例えば、デメリットを2つ出した上でケースアタックとして内因性への攻撃と重要性への攻撃を行ったという場合、2NCではデメリットのうち特に2ACでの反論が強力だった方について別のリンクを提示しながら再構築し、さらに内因性のケースアタックをフォローしつつ関連して解決性へのアタックを加えることにして、1NRでは残ったデメリットについて再反論した上で説明しなおし、重要性への攻撃についての再反論を行うという担当をすることが考えられます。2ACがメリットの重要性を追加したという場合には、そのフォローは2NCで行う必要があります。

肯定側第一反駁(1AR)では、ネガティブブロックで議論された内容について再反論を行うことになります。ここで落とした議論はそれ以降反論できなくなるので、2AC同様、頑張って反論しなければなりません。
なお、ネガティブブロックで出された新たな論点に対しては、反論に必要な限度で、論点を形成するような再反論を提示することができます。そのような機会が保障されなければ不公平だからです。他方、ネガティブブロックで手ひどくやられたからといって、メリットを補強する新たな理由付けを出すことは、立論ですべきだったことをやらなかっただけなので許されません。あくまで、ネガティブブロックで出てきた反論を排斥するためにのみ議論を出せるのだということです。

第二反駁は1立論形式と同じなので省略します。
一番悩ましいのは、第一反駁でどういうスピーチができるのかということでしょう。上述の通り、争点について検討するため、あるいはネガティブブロックで新たに出された論点を排斥するための議論については、第一反駁でも全面的に認められます。ですから、第一反駁でエビデンスを読んではならないというわけではなく、むしろ必要であればどんどん読むべきです。
例えば、2NCで新たにデメリットが出された場合には、1ARは必要な限度でそれを叩く反論をエビデンスつきでやるべきです。また、1NCで出したケースアタックに対して2ACがしっかりフォローしてきた場合、その再反論を担当する1NRは追加的にエビデンスを読むことも検討してよいし、さらにそれに対応する1ARもエビデンスを読むことは可能です(いずれも、制限時間の中で読む必要性があるかどうかを考えて読まないといけません)。

4.まとめ
以上を要するに、立論では「それ自体の成否が判定を左右する」論点が提出され、反駁では立論で争われた論点についての検討や、ネガティブブロックで新たに出てきた論点を排除するための論点提出だけが許されるのだということです。

ただ、具体的にどのような主張立証が「論点」に該当するか、第一反駁で出された反論が新たな論点を排除するために出されたものであるのか本来立論で出されるべきものだったのか…といった評価は、ジャッジによって微妙に異なるし、おそらく主張の付け方(立論の補足として出すのか、反論に対する再反論だとこじつけて言うのか)によっても違ってくるところがあります。
新出議論規制そのものが教育性や公平性といった理念から作られた規範的で幅を持つものである以上、これは仕方のないことです。そのあたりは試合で慣れていくしかないし、そういう過程も含めて試合を楽しんでください。
コメント
この記事へのコメント
解説ありがとうございました。
某所にて高校生に誤った解説をしてしまった者です。
よくトランスクリプトを読んでみると、確かにそうだといわざるを得ません。もう少しよく考えて文章を書くべきであったと思います。
2010/11/01 (月) 03:37:25 | URL | 金武@防衛医大 #-[ 編集]
>金武さま
新出議論についての考え方は明確な基準もなく、2立論形式での経験があっても良く分からないところがあるので、ある種仕方ないところもあります。
困っている選手にアドバイスするということ自体は大切なので、今後も臆することなくコメントしてあげてください。ディベート界は狭いので、いろんな通りすがりの人がフォローしてくれることでしょう。多分。

そもそもディベートの理屈なんてものは曖昧なもので、ディベートで戦わされる議論と同様、理由があるかないか自分で考えないとどうしようもない代物なので、正しいとか間違いだとかいうこと自体は(ジャッジするときにはともかく)問題なくて、むしろ異なる見解に出会ったときにどう考えるかということが大切です。
僕の解答がどこまで正しいかは措くとして、今回のコメントを通じて金武さまが新出議論について何か新たに考えるところがあったのだとすれば幸いです。

P.S.
新出議論については以下のような記事も書いています。しかしこれはまた難しく書いている&マニアックな問題にも言及しているので、正直誰得な内容です
http://lawtension.blog99.fc2.com/blog-entry-46.html
2010/11/01 (月) 04:17:29 | URL | 愚留米@管理人 #tX1BiP8k[ 編集]
詳しい解説をありがとうございます。
はじめまして。
某所でJDAのルールに苦戦していた者です。
以前から愚留米さんのブログは読んでいたのですが、コメントするのはこれが初めてです。



JDAルールのような形式のディベートは初めてで、ルールもディベート甲子園に比べて詳しく書いていないので本当に困っていました。部員一同非常に助かっております。

「主張の成否が投票理由を形成するかどうか」「新たな論点を形成するかどうか」という考え方は本当に参考になりました。
第二立論と第一反駁の境界が今までの最大の疑問だったので、詳しく解説していただいてありがとうございます。

本番では多くのものを得られるように全力でがんばりたいと思います。

2010/11/01 (月) 17:01:52 | URL | 村上@小倉 #idMUZPXM[ 編集]
お返事遅れてしまいごめんなさい
>村上さま
どうもはじめまして。
JDAなどの都合で返事が遅れてしまい失礼しました。

以前から読んでいただいたとのことで、どうもありがとうございます。長文で分かりにくい記事ばかりなので、面白くなかったのではないかと心配しております。

新出議論の規律についてはいろいろと難しいところもあり、上の説明がまだ練られきっていないということ、また他にも理論的に詰めるべき点がありうることから(そんなこと言ってる人は僕以外に聞いたことがありませんがw)、他日を期して新たに解説できればと思っております。
ひとまずは九州JDA大会に向けて頑張ってください。

先に今季論題を終えた選手としてコメントさせていただくと、今季の論題はマクロの戦略の立て方において発想次第でいろいろな可能性(と困難)を見つけ出せること、ミクロの議論をどうやって詰めていくかというところの両面で、とてもやりがいのあるものです。
せっかくの機会ですので、ディベートの醍醐味を楽しみつつ、来年のディベート甲子園に向けて実力を養う機会として最大限活用されてください。
2010/11/07 (日) 00:54:23 | URL | 愚留米@管理人 #tX1BiP8k[ 編集]
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