愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
分かりやすいスピーチとは何か
コメントでリクエストがあった内容のうち、スピーチについての記事を書くことにします。僕はスピーチ練習方法自体に詳しいわけではないし、そんなに練習もしないのですが、どうしてそんなに練習しないのか(サボってるわけではないのです)という角度から書いてみました。
それだけだとアレなので、一般的に行われており、また僕も最低限こなしてはいる練習も紹介はしておきます。もっとも、僕はそんなにスピーチが上手い人ではないので、そんなにあてにならないということは最初に断っておきます。


1.競技ディベートにおける「分かりやすさ」とは何か
スピーチ向上のために何をすべきか考えるためには、ディベートにおいてどんなスピーチが望ましいのかという問題を考える必要があります。
この問題の答えは、スピーチの聞き手や伝えたい内容によって異なってきます。スピーチとは聞き手に情報を伝え、説得することが目的ですから、聞き手にきちんと伝わるスピーチが望ましいのであり、それは聞き手の能力や好みに左右されるからです。また、どのような内容を伝えようとしているのかによっても、適したスピーチは異なってくるでしょう。

そこで、ここではディベートの中でも、ある程度訓練されたジャッジが聞き手として判定する競技ディベートを想定して、そこで一般的に望ましいとされるスピーチについて考えていくことにします。もちろん、競技ディベートのジャッジの中にもいろいろな方がいるし、競技ディベートにおいても公衆の前でスピーチする大会もあるわけですが、後者のようなパブリックスピーチは脇に置くと、ジャッジのレベルの違いは本質的な問題ではないでしょう(ジャッジが努力すべき問題とも言える)。パブリックスピーチについては、弁論大会に出場したりするといろいろ学ぶところも大きいと思いますので、大学で弁論部など入ってみるといいかもしれません。

競技ディベートの分かりやすさには、2つの要素があると考えられます。これは、フローシートを取って試合を理解していく過程を思い浮かべればイメージできます。
第一にあげられるのは、発話そのものの分かりやすさです。スピーチを聞いてフローシートに書き取る段階では、書き取りやすいように適切な速度(僕の考えている「適切な速度」は平均的ジャッジよりかなり早めだとは思います…)で話すことや、うまく間を取ることなどが求められます。これらは、聞き手に認識させ、記録させるための技術ということができます。
しかし、これだけではジャッジにとって分かりやすいスピーチにはなりません。完全にスピーチを再現した、したがって認識・記録の局面で100%正確さが保障された速記録を読んでも、そこに記された内容の構成が悪かったり、趣旨が不明瞭であれば、それはダメなスピーチだといわざるをえません。そこで、第二の要素として、適切な構成、主張の明快さ、主張と根拠の正しい対応関係など、内容そのものの分かりやすさという要素も求められるということです。
これは当然、ディベート甲子園におけるコミュニケーション点の評価方法についても当てはまります。議論そのものの評価がコミュニケーション点に含まれないということから、上記のうち第一の要素だけがコミュニケーション点で考慮されているという誤解が少なくないように思われますが、ディベートは朗読大会ではないのですから、内容と切り離された分かりやすさというものはそもそも考えることすらできません。

このうち、ディベートでより重要なのは、後者の「内容の分かりやすさ」と考えます。スピーチの聞き取りやすさは、(程度にもよりますが)多少うまくいかなくてもジャッジの能力によってカバーできますが、内容が分かりにくい場合、ジャッジとしてもカバーすることが難しいからです。一部分が聞き取りにくかったというだけであれば、そこだけ聞き落とすことで済みますが、構成などに起因する内容の分かりにくさを感じてしまうと、その後のスピーチの理解にも支障を来す度合いが大きいということもあります。

まとめると、ディベートにおける分かりやすさを左右するのは、発話の分かりやすさ(いわゆる「上手なスピーチ」かどうか)と内容の分かりやすさの2つであり、その中でもより重要なのは後者である、ということになります。

2.分かりやすい内容にするために
というわけで、内容の分かりやすさを左右する諸要素について、代表的なものをざっと挙げていきます。

まず挙げられるのは、議論の構成です。
議論の構成というのは、どういう順番で議論を展開するか、どういうラベルをつけるか、ということです。構成の方法について説明しだすと長くなるので最初から説明することはできませんが、最近よく見るダメな構成について一言言っておくと、とりあえず番号をつけて細かく分けるというナンバリング(?)には何の意味もありません。例えば「発生過程です。1、○○です。証拠資料…。2、○○です。証拠資料…」みたいなものですね。
強豪校っぽいチームがそんな原稿を読んでいるので真似するチームも多いのかもしれませんが、これには何の意味もないのでやめましょう。一定のまとまりに対して番号を付したり、並列関係を示すために番号を振るのであれば、それを通じてジャッジに議論のまとまりや対応関係を示すことができますが、そういう必要がないのに番号だけ振られても困ります。何事も、どうしてそんなことをするのか、意味を考える必要があります。

例えば、僕が今年の秋季JDAで出した肯定側立論(ただし後で修正したもの)は、以下のような構成になっています。

メリット:代理出産の適正化
論点1:法制度の不備
・代理出産の法規制がなく国内・海外で密かに実施
・そのため2つの問題がある
 A)国内で問題
 ・自主規制の実効性なく不適切な代理出産
 ・実例あり
 B)海外で代理母搾取
 ・海外の搾取例
 ・国内で法整備しないと解決しない
論点2:重要性
 A)子どもの保護
 ・トラブル防ぐため法整備必要
 B)海外搾取防止
 ・日本の態度が問題になっている
 ・国際法上改善の義務がある
 C)代理出産容認の必要性
 ・子を産む権利は大事
 ・実際、今こっそりやってる人も必死
 ・少数派保護のため制約避けるべき
プラン(ボランティア代理母、国の機関があっせんetc)
論点3:解決性
 A)代理出産の適正化
 ・あっせん制度など整えれば問題解決
 ・ボランティアは十分出てくる
 B)規制の実効性 
 ・法規制で大丈夫
 ・国内でやれれば海外から国内に移行する
 C)代理出産の成功
 ・たくさんの成功例


上記の構成は、全体を3つの論点(内因性、重要性、解決性に対応)に分け、その中で適宜A~Cなどのナンバリングを付して議論を区切っています。論点1と論点2のアルファベットのラベルは、それぞれが独立する並列の問題を扱っているので、それぞれの問題ごとに区切っており、論点3はそれぞれが続いているともいえますが話の内容が違ってくるので、大きな話ごとに区切ったものです。ここでも、いわゆるメリット・デメリットの3要素の理解が前提となってくることが分かります。
この構成が完璧だということはないのですが、議論を構成するということのイメージはつかめるのではないかということで紹介した次第です。

議論の構成とともに重要なことは、全体の議論を形作る個々の議論のフォームです。平たくいえば、主張→根拠の順番で議論を組むということ、主張がコンパクトかつ端的であること、主張が根拠ときちんと対応していることです。最初の「主張が先」というのは簡単ですが、後2つの要求を満たすには訓練が必要です。そこでは、自分の言いたいことを短く適切にまとめることと、資料を的確に要約すること(そしてそこから「使える主張」を導き出すこと)の2つの能力が必要となります。
これに慣れるためには、エビデンスにラベルをつける作業をたくさんこなすことが有益です。リサーチの中で、打ち込んだ資料に表題(どういうことを言ってる資料なのか)をつけるのが一般的だと思いますが、これをバリバリこなすことです。同じ表題つけの作業でも、慣れていない人なんかは、エビデンスを適切に要約できていなかったり、重要な部分を逃していたり(その結果資料の真価が損なわれる)します。地道な作業による訓練で乗り切ってください。
関連して、基本的ですが大切なことを断っておくと、1つの資料から2つの異なる主張をしようとしたりするのは、とても分かりにくいです。そういう場合は、資料を2つに分けて引用するなどして、主張と根拠に一対一の対応関係(ただし、一つの主張を支えるために複数の根拠が出てくることはあってよい)を持たせてください。

反駁のステージにおいては、いわゆる反駁の4拍子が重要です。(1)まずどこに反論するのか、相手のナンバリングやラベリングで指示したり、相手の議論を要約して説明し、(2)続いてそれに対する自分たちの見解――「~という理由で間違っている」とか「~という理由であまり重要ではない」など――を述べ、(3)自分たちの見解を裏付ける根拠(証拠資料など)を挙げ、(4)最後に反論を踏まえた帰結――「よってプランで問題は解決しない」とか「よって重要性は小さい」など――を述べる、というものです。
この4拍子はどれも大切なのですが、特に大切なのは、ここでも「主張が先」ということです。証拠資料をいきなり読まれるのが一番困ります。
上手なディベーターだと、フローシートのどこに議論が書き取られるかを意識してスピーチしたりしますが、僕はあまり得意ではありません。自分がジャッジするときには、とりあえず書き取ってから後で位置づけなおしたりするので、そんなに気にしないからということがあるのかもしれません(とはいえフローをスムーズに取れないとイラつきはしますが)。

こうしたことに気をつけることで、かなり内容の分かりやすさは改善するはずです。どれも基本といえば基本なのですが、基本が一番大切であり、また難しいのです。

3.聞きやすいスピーチのコツ
一般的に「上手なスピーチ」の基準とされている、スピーチの速度などの改善方法についても、少し触れておきましょう。

と言いつついきなりこんなことを書くのも微妙ですが、スピーチが速いというのは、分かりにくさの本質ではありません。整理されており、スムーズな発話でされているスピーチは、早くても全然聞き取れます。僕がどうかはともかく、例えば日本最強といわれる安藤さんの立論スピーチは、ディベート甲子園の平均的試合よりずっと早いですが、安藤さんのスピーチのほうがずっと分かりやすいです。もちろん、そう感じるのは僕だけではありません(もっと言ってしまうと、早すぎて分からないと言ってるジャッジのうち少なくない割合は、実はそもそも分かってない――遅くしても無駄、ということだと思います。今はさすがにそんなにいないとは思いますが)

というわけで、スピードより大切なことは、きちんと原稿を読み込み、話の区切りごとに1拍置くとか、重要な点をうまく強調するとか、そういう練習をすることです。慣れない人は、例えば立論だったら、30秒ごとに原稿に印をいれ、ちょうど6分で読めるペースを保てるようにするとか、そういう工夫をすればよいです。上手く読めないという場合、10回でも20回でも100回でも読んで、上手く読めるようにしてください。
もう一つ大切なことは、相手の目を見て喋るということです。これはアイコンタクトを通じてジャッジの理解を確かめるということもありますが、より大切なことは、相手の目を見て喋ることではじめて、相手にまっすぐ声が通るということです(だから、自分の口と相手をさえぎるようにして原稿を持ってはならない)。さらに言うなら、相手を見て喋ろうという姿勢自体が、分かりやすいスピーチをしようという気持ちを生み出します。

場面によってスピーチの方法を変えるというのも、大切なことです。同じステージでも、最初のうちはゆっくり目に喋り、後のほうでスピードを上げるほうが、聞き手が慣れてくるので聞き取ってもらいやすいです(立論でおすすめ)。
また、基本的には、立論では議論を出してジャッジに書き取らせることに力を注ぎ、反駁で後のステージに行くにしたがって、議論の説明などを通じてイメージを膨らませ、議論を理解してもらうことに力を注ぐという意識を持ってみるとよいです。要するに、立論では速いスピーチでもよいが、反駁では少しずつスピードを落としていくとよいということです(1回立論だと第一反駁も議論を出すステージなので、ここも全速で行くべきですが)。僕がよく言っているのは「最初はジャッジの顔を下に向ける(フローに釘付けにする)スピーチでフローを埋めさせ、試合が進むうちにだんだんジャッジの顔を上にあげさせるように喋る」ということです。第二反駁とかは、フローは確認の道具で、ジャッジにじかに語りかけて説得にかかる必要がありますから、スピードを落とすというのも大切な要素です。ただ、僕はスピーチのスタイルなのかどうかよくわかりませんが、第二反駁でも割とまくしたてる感じで喋ることが多いです。この辺は好き好きではあります。

4.まとめ
以上が、分かりやすいスピーチに必要な要素と、それを満たすために要求される事項についての解説です。他にもいろいろ大切なことはあると思いますが、とりあえず上記の点に気をつけるだけでも、かなりスピーチは改善すると思います。
繰り返しになりますが、大切なのは内容の分かりやすさです。教育的意義から言っても、スピーチの流暢さとかはディベートでなくても身につくわけで、せっかく難しいテーマを扱って「議論の中身」で勝負しようとしているのですから、分かりやすい内容の議論を作れるようになることを目指してください。
コメント
この記事へのコメント
こんにちわ。
時々拝見させてもらっています。

私は今高1で
一応レギュラーをやらせてもらっているのですが、
(秋大会以降なので、全国は先輩方の補佐でした)
まったくコミ点が上がりません。

ジャッジに尋ねたら、
「サインポスティングだね」と言われ
そこは強化したのですが、
それでも上がりません。
どうしてでしょうか?

因みに担当は肯否2反です。
2010/12/26 (日) 07:14:27 | URL | にゃい #-[ 編集]
質問ありがとうございます
>にゃい様
記事をご覧いただきどうもありがとうございます。

質問についてですが、第二反駁で重要なことは、本文にもあるとおり「議論の説明などを通じてイメージを膨らませ、議論を理解してもらう」ということです。
そのため、望ましいサインポスティングの方法も、第一反駁と第二反駁では自然と違ってきます。第一反駁では、フロー上の適切な位置に自分の議論を書き取らせるためにサインポスティングするので、ナンバリングやラベリングに沿って簡潔に摘示すれば足ります。
一方、第二反駁では、サインポスティングは「今からどんな説明をするのか」という前出しの性質が強くなるので、単に議論の場所やラベルを引っ張るだけでなく、そこでどういう話がされていたのかを適切に要約して示すなどの工夫が必要です。フローを見なくても議論が思い出されるような説明をするということです。

コミュニケーション点をつけるジャッジの意識としては、第二反駁については、特に可もなく不可もないスピーチであれば3点をつけます。よく整理されていたり、試合の要点を理解して伝えようとしているなどの工夫が見られれば4点、さらに感銘力のあるまとめがされていると感じたら5点をつけるといったところで、他のスピーチより議論の内容に左右される部分が大きく(説得を主な任務とするので当然そうなる)、スピーチに慣れないと高い得点を得ることは難しいパートともいえます。

第二反駁にはいろんなパターンがありますが、まずは基本的なところとして、(1)議論がぶつかっている点について、その概要を簡潔にまとめた形で指摘してサインポスティングとすること、(2)その争点で自分たちが勝っている理由を端的に示し、あるいは適切な論拠を追加すること、(3)その争点の帰結(自分たちの議論が勝っていること)が試合全体の評価においてどういう意味をもつのか示すこと、という一連の流れをスムーズにできるよう、イメージトレーニングをしてみたり、伸ばし用の原稿を作ってみてはどうでしょうか。
さらにレベルの高い第二反駁のためには、スピーチにストーリーを持たせるという要素も必要だし、そのためには議論全体をしっかり理解するという要素や、立論段階から戦略的に議論を練るという準備などが必要になってくるでしょう。

第二反駁については、上手な人のスピーチを参考にするということも勉強になります。このブログにも、日本最高のディベーターである安藤さんの第二反駁スピーチがあるので、一度見てみてください。
http://lawtension.blog99.fc2.com/blog-entry-43.html
(2ARのこと。2NRは真似しないようにw)

問題意識を持って練習しているのは大変素晴らしいことです。
第二反駁は難しいパートであり、すぐに成果が形に表れるとは限らないのですが、向上心をもって続けていけば必ず上達し、ジャッジを唸らせるスピーチに至ることができるはずです。頑張ってください。
2010/12/27 (月) 00:21:14 | URL | 愚留米@管理人 #tX1BiP8k[ 編集]
お返事ありがとうございます。

詳しく説明されていて、本当に助かります。
となると、2反では
「メリット1はこういうものでこういう反駁があったけど、立論ではこういうことを言ってるから、メリット1は確実に発生するんです」
みたいな感じということですよね。
ストーリー性を待たせるというかなんというか・・・

とにかくありがとうございました。
今後とも頑張っていきます。
2010/12/28 (火) 23:45:30 | URL | にゃい #-[ 編集]
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