愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
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代理出産オンラインディベートの感想
これもコメント欄であった、代理出産オンラインディベートについての感想を少し書いておくことにします。ちなみに試合は、九州のディベート甲子園選手会であるQDESが管理しているサイトで行われています(2010年12月9日に判定が出された論題1の試合です)。
というわけで以下、実際にジャッジをしたら喋るような順序・内容でお送りします。ただし、演出的なコメントは一切省き、JDAジャッジ的な厳しめのコメントになっています。九州JDA向けの試合らしいので。

1.講評
全体の感想としては、一通り議論は出ているが、戦略やストーリーが見えてこない試合だという印象をもちました。具体的にどういうことかというと、どこで勝ちに行きたいのかが見えないということ、プランを取ったときに何がどう変わるのかというイメージが両チームともにうまく説明できていなかったということです。

どこで勝ちに行きたいのか分からないというのは、例えば肯定側で言えば、危険な海外でやってる人がいるとか、世間の目があって代理出産で子どもをつくれない人がいるとか、幸福追求権が大切だとか、様々な話が平板に語られているだけでした。それらの証明が足りないということは後で述べますが、それを無視したとしても、結局肯定側が救いたいのは誰で、なぜその人を救わなければならないのか、伝わってくる内容ではありませんでした。問題解決の必要性を訴えるに当たっては、その理由をしっかり述べないとダメだし、たしかに解決すべきだと思わせるような議論を盛り込まないといけません。患者の生の声とか、悲惨な海外の現状とか、そういうものを盛り込まないと、人を説得することは難しいでしょう。
否定側も、いろいろ議論は出していますが、デメリットがどうしてメリットを上回るのかという説明について「他者危害の原則」などと言っていますが、それを支える「リスクの不当さ」という点について十分説明されていない(例えば、同意して代理母になる可能性への配慮がない)感を受けましたし、メリットへの反論も深みを欠いていました。
勝ちに行くポイントというのは、「~という反論で勝つ」という単純な考え方で作れるものではなく、用意した反論をどのようにして説明するのか、予想される議論に対してどのように優位性を作っていくのか、他の議論と関連付けて強化することができないか…ということを考え抜いてはじめて完成します。そのような練り込みがされれば、よりレベルの高い試合になるでしょう。

プランによる変化のイメージが見えにくかった原因は、それぞれのチームが前提としている変化が十分説明されていないことや、それらの変化が一貫して説明されていないということにあります。
この試合で、というよりこの論題でのほとんどの試合で最も重要なことは、プラン後で日本の代理出産が増えるのかどうかという点です。メリット、デメリットともに、代理出産が増加することが発生の前提となっています(その意味で、デメリット1の固有性の説明はややずれているように思われる。代理出産希望者の多くは現在体外受精をしていないのではないか――プランが代理出産希望の条件を限定していないので分かりませんけど)。その説明は、両チームとも立論で十分説明できていません。否定側に至っては、デメリットの発生過程を減じていることにおそらく無自覚なまま、解決性への攻撃として代理出産が行われない旨の主張をしています。「まともな代理出産は行われない」という限定的な主張であれば分かるのですが、これではデメリットを出した意味がありません。
個々の議論を単に出していくだけではなく、それらがプラン前後の変化を説明するものであるということを意識し、論題によってどういう変化が起こるのかというイメージのもとで試合中の議論を説明していくようにしてください。その際には、相手側が出すであろう議論を思い浮かべた上で、争いになりそうな部分とそうでない部分を整理するなどするとよいです。

あと、スピーチ面の注意として、「否定側第二立論に対して反駁」といった指示の方法では何に反論しているのか分かりません。「否定側第二立論」に反論するのではなく、そこで出た何らかの議論それに関係する試合の争点に対して反論しているはずなので、それを挙げてください。「~点目の反論を見てください」というのも同様です。具体的な議論の内容も簡潔に摘示すべきです。このあたりは書面によるディベートでも変わりません。

2.判定
それでは、実際に出た議論をざっと見ていきます。

最初にケース(肯定側のメリット)について。ぶっちゃけて言うと、メリットの証明がほとんどないので、JDAジャッジとして試合を見たとしたら、全く取ることはできません。つまり2ACで肯定側の負けが決定しているということです。少なくとも、代理出産の現状などについては、データによる裏づけがないと評価できません。リサーチが間に合わなかったということなのかもしれませんが、ググるだけでいろいろ出てくるし、仕事をしながらすさまじいリサーチをしている人もいるので(職業ディベーターなので例外的ではあるが…)、その辺は頑張っていただきたかったです。
しかし、それで終わってしまってはアレなので、今回は要求レベルを下げて評価することにします。

まずプランについて。気になったのは、代理出産希望の条件を制約していないことです。それはそれでアリなのですが、デメリットを防ぐという観点からは、代理出産でしか子どもを生めない人に限るというのが一般的だし、妥当な線引きでしょう。そういう議論にすれば、メリット2として出されている「日本のほうがマシ」という議論が、デメリットへの反論につながります。今代理出産をやってる人はデメリットのようなリスクを負っているが、それがむしろ軽減される…という反論ですね。もちろん否定側は「新たに希望者が出るから絶対数が増えてリスクが増す」と展開していくわけですが。

メリット1の幸福追求権という話については、なぜ不妊女性を救う必要があるのかという説明が弱すぎて、積極的に評価できません。「幸福追求権が大事」というだけで何でも説明できるのだったら、僕は幸福追求権に基づいて国家に結婚適齢期の女性を紹介してもらえる制度の整備を要求できるのでしょうか。要するにそういうことです。とはいえ、不妊女性はかわいそうな気がするという一般的感覚はあるので、弱い重要性を前提として発生を評価することにします。
内因性に当たる「女性が子どもを望んでいる」という点については、2NCで(1)女性は代理出産を望んでいない、(2)代理出産合法化でかえって女性への偏見が増す、という反論が出ていますが、いずれも採用できません。なぜなら、(1)はエビデンスの理由付けが「男からしか代理母の問い合わせがない」ということだけで説得力を欠くし、(2)も可能性がどうとか言ってるだけで、どういう偏見がどうやって女性を追い詰めるのかという話が全く見えないからです。というわけで、代理出産したい女性もいるのかなぁという評価になります。
では解決性はどうか。代理母が出てくるのかという点ですが、否定側はボランティア募集が失敗したという例を挙げています。これは肯定側の説明不足で、あまり代理母は広がらなさそうだと考えざるを得ません。法制化で意識が変わるといった説明や、(プランの組み立てにもよる)近親者がやってくれるという説明ができたと思いますので、検討してみてください。ただ、認めない現状では誰も出てこないわけで、認めれば需要には満たないものの少しは代理母が出るかもしれないということは言えそうです。
以上より、解決性にかなりの難があるものの、困っている人が今よりは道が開けるという意味で、メリット1は小さいものの評価できそうです。

メリット2については、代理出産にFocusした説明ではないものの、日本は出産に関する医療技術が海外より高いということは言えているので、その限りで海外よりはマシかもしれないとも言えるのですが、今後は技術が落ちていくという否定側の反論があり、これに対する有効な再反論がない(1ARのそれは遅いし微妙。代理出産は儲かるので医者がやってくるとか、そういう話はアリかも)ので、結果的に成立はほとんど認められません。そもそも、海外がすごく危険とまでは言えていないように思われますし。

というわけでデメリットを見ていきますが、上述のように代理出産はほとんど増えなさそうなので、デメリットも発生が大きく減じられるということになります。その上で各デメリットを評価します。

デメリット1については、まぁリスクはあるのかなぁという感じです。1NC後の質疑のやり取りに出てきた資料(立論で読むべきではある)なども考えると、5%くらいは無視できない副作用がありそうです。この辺は肯定側はもっといい反論があるので、エビデンスつきで頑張って欲しかったです。ただ、5%というのが高いといえるのかどうかについては、体外受精が現在行われていることを考え合わせると、これ単独で代理出産を禁じる理由になるかというと疑問もあります。
肯定側は、体外受精の負担は代理出産を希望する者が自発的に負うこと、現在でも排卵誘発剤は使用されており、社会的に許容されたリスクといえることなどを主張すべきですし、否定側はこのデメリットとの関係で「代理出産が『強制』される」という話を展開するなどの工夫が必要だったように思われます。ただし、体外受精が現在行われている数というのは、どうでもいいことです。代理出産の話をしてください。

デメリット2は、リスクの大きさがよく分かりませんでした。一般の出産より負担があるということは分かりましたが、それを代理母におしつけることの不当さを説明する必要があったのに、それを怠っていた感はあります。他者危害の原則と言いますが、リスクが避けるべき「危害」といえるためには、それが有効な同意に基づかないとか、パターナリズムによる保護の必要性が認められるといった事情がなければなりません(逆に言えば、有効な同意などの事情があれば危害といえなくなるということなので、肯定側はそのような主張を積極的にすべきだった)。というわけでこれも大きくは評価できません。

デメリット3も同様に、リスクの大きさがどの程度か分からない(一般の妊婦死亡率はどのくらい?)のと、代理母におしつけることの不当さの説明が足りないので、大きく評価できません。そもそも、デメリット2に加えてこのデメリットを出した戦略上の意義はどこにあるのかが疑問です。デメリット2の追加みたいな感じで捉えることになりますが、先述したデメリット2の弱い部分が補強されているわけでもありません。

以上を踏まえて、全体をどう見るか。
否定側は、2NCにおいて、リスクの存在により幸福追求ないし自己決定は制約されると説きます。このうち、青柳のエビデンスは「制約しても違憲ではない」ということで積極的証明になっていない(もっと突っ込むと、代理出産依頼者も体外受精のリスクは負っている。もちろん、転嫁があるから制約が許されるというロジックは保たれている)のですが、掛江のエビデンスが言うところの他者危害の原則については、妥当な考え方だと思われます。
ただし、1ARであるように(本当はデメリットへの反論として2ACで主張すべきだけど)、危険性を理解して引き受けるのであれば、それを他者危害として否定する理由は失われると考えるのが普通ではあります。この点、代理母が代理出産を引き受ける動機や過程など、プランの働き方も含めて説明が全くないので、なんともいえないのですが、否定側も反論できていないので、「わざわざ代理母を引き受けるような人は覚悟してやってるのかなぁ」という感じで評価できそうです。

そのような思考過程を経て考えると、メリット1とデメリット3つの比較は「不妊女性の要請に応えて、リスクのある代理出産を認めてよいか」という命題に帰着され、代理出産が現在法律で認められている臓器移植などの他者救済的医療行為に比べて特にリスクが高いといった説明はされていなかったことに鑑みると、前記命題は肯定されているといえ、メリットが大きいとしてよいので、僕は肯定側の勝ちと判断します。
以上の説明においては、両チームが主張していない内容もいくつか含まれています(代理母を引き受ける人の覚悟とか、臓器移植との対比とか)。これは本来肯定側が試合中に言うべきことなのですが、常識に照らして認定してよいレベルの内容だと思いますので、議論が尽くされていない以上こう考えたということです。否定側は、代理母がきちんとリスクを理解できるか、代理母を強制される人が出ないか、といった角度から、不当にリスクが押し付けられるという構図を議論すべきでした。

3.結語
以上のように、この試合ではポイントについて十分議論が尽くされておらず、リスクがあるかどうかという点を踏まえたその先の議論が欠けていたということができます。肯定側は、リスクを踏まえても代理出産が求められていることをメリットから説明すべきだし、否定側は、代理出産のリスクが許容できない大きさ/形で発生するという話をしっかり示すべきでした。

また、肯定側は海外で代理出産がされているという指摘もしていましたが、この問題は、日本が国外に代理出産という厄介ごとを輸出しているという評価も可能で、こうした角度から議論を膨らませることも可能です。こうした分析が加わると、否定側も単純にリスクを主張するだけでなく、政府として取るべき態度を説得的に論証する必要が出てきます。このようなより高度で複雑な展開も視野に入れて議論を考えると、この論題への理解も深まるし、ディベートとしても質が高く面白い試合ができるようになるのではないでしょうか。

といったところで、両チームの皆さん、お疲れ様でした。
コメント
この記事へのコメント
講評ありがとうございました。
今日九州大会に行ってきました。
講評で指摘されていた点をそのまま本番でも引きずった形になってしまいました。
試合が終わって講評を読むと、「こうすればよかったかな」と思うことが数多くあります。
終わったことを言っても仕方がないので、次から参考にしようと思います。

お手数を掛けました。講評本当にありがとうございました。
2010/12/12 (日) 23:30:48 | URL | 金武嵩英武@防衛医大 #-[ 編集]
>金武さま
お返事遅れました。
試合の反省に際しては、そこからどれだけ一般化できる教訓を引き出すかということが大切なので、今回の大会をきっかけとして今後の議論につなげられるよう、いろいろ振り返っておくとよいと思います。
そのための一つの助けとして今回の記事がお役に立てば幸いです。
2010/12/18 (土) 02:37:44 | URL | 愚留米@管理人 #tX1BiP8k[ 編集]
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