愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
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東海地区中学予選の感想~今季中学論題を論じるための基本的な考え方+α~
どうもご無沙汰しております。やはり毎日やることがあると更新も鈍るというものです。
ディベートについて書くことがないわけでもなくて、最近では東海支部で毎週スタッフ向けの勉強会が開催されていたりするので、その関係でジャッジングの方法論(オンラインディベート判定批評など)でも書こうかと思っていますし、ずいぶん前に書いて結局公開の目処が立っていないようである高校論題私的解説を紹介してもよいかと考えているのですが、このあたりは時間に余裕ができたら書いてみることにします。

今回は、去る7月10日に開催されたディベート甲子園東海地区中学予選でジャッジしてきた感想を、一般論という形で書くことにします。
どうも今年の論題は中学生にとって――おそらく高校生にとっても――難しいようで、立論の段階で説得力を欠くチームがほとんどであったように思われます。僕の聞く限り、これは東海地区に限った話ではなさそうだということで、そのあたりをどうやったら改善できるかについて思うところを述べた上で、せっかくなので発展的な論点についてもいくつかコメントしておくことにします。中学生の皆さまの大会における生存戦略を考える一助になれば幸いです。

1.中学生の皆さまの立論に足りないもの
多くの中学生チームが講評で指摘されたことかと思いますが、今季論題での立論に多く見られるのが、具体性が欠け、抽象論に終始しているという問題です。民意の反映であるとか、民主主義の崩壊であるとか、そういう類の議論です。
こうした「ふわっとした」議論ではよくないということはよく言われているのですが、その対策として何をすればいいのかというのは案外語られていないように思われるところです。真面目なチームだと、「民主主義とは何か、自分たちの言葉で語れるようにしよう」といった目標で概念の理解を深めようとして、かえって混乱してしまうということもあるのではないでしょうか。
もちろん、今季論題を通じて「政治とは何か」「民主主義とは何か」を考えることができれば素晴らしいことですし、どこかの段階で、(別に学者のような議論でなくてもよいので)政治・民主主義といったものについて自分なりに考えをめぐらしてほしいのですが――何しろ、こうした概念・制度は、皆さんが取り組んでいるディベートという競技の存在意義とも密接に関係しているのです――、大会で説得力ある議論を展開しなければならない選手の皆さまが優先的に取り組むべきは、そのような難しい課題ではありません。その前に皆さまが考えるべきは、論題を必要/不要としている現実社会の分析です。これも簡単な課題ではないのですが、皆さまが直接観察し、想像できるという意味では、より取り組みやすいはずです。そして何より、この課題は、皆さまが身につけるべき「ディベートの基礎」に基づいた考え方で準備をしていけば自然とクリアされるものです。というわけで、以下では、中学生の(そして高校生の)皆さまに押さえてほしい「ディベートの基礎」に沿って、今季論題でどうやって議論を作っていくか、説明していくことにします。

このブログでも何度も書いているのですが、ディベートの基本は、現状とプラン後の違いを意識して分析を行うということです。そのための道具として、メリット・デメリットの3要件という考え方があります。全然更新できていないのでデザインも崩れてみっともないのですが、とりあえずこちらのページ(メリットの3要件デメリットの3要件)の解説を参照してください。
皆さまの立論では、現状分析と称して、投票率が低いとか、国民の政治意識が低いとか、そのような話が説明されています。しかし、それに比してプラン後どうなるかという分析は非常に貧弱で、投票率が上がるという話はともかく、それで日本がどうよくなるのかという部分については、説明すらされていないことも珍しくありません。これは、3要件の考え方で言うと、解決性や発生過程がしょぼいということになります。
*余談ですが、このように現状の分析が焦点ぶれを起こしているのは、論点のラベルが「現状分析」というふわっとしたものになっていることにも一因があるように思います。これでは、現状について何かを述べれば全て「現状分析」ですから、議論の目標が全然伝わってこないし、考える側も意識しなくなってしまいます。「内因性」「固有性」というラベルを使う必要はありませんが、「現状の問題」と改めるだけでも立証目標ははっきりしてきますし、より具体的に「若者の選挙離れ」とか「投票棄権者の実情」などのラベルをつければ、自然とそれに沿った議論を展開するようになるはずです。名前は思考内容を規定する側面がある、ということです。

それでは、解決性や発生過程をきちんと論じるにはどうすればよいのでしょうか。その答えは、現状の分析に当たる、内因性や固有性のところをしっかり検討するということにあります。なぜかというと、解決性や発生過程は、現状がどう変わるのかということを述べる部分ですから、その前提として「解決すべき問題」「問題が生じていない理由」がきちんと議論されていなければ、そもそも分析することができないからです。
そこで再び皆さまの現状分析の部分を見ると、そこでは「解決すべき問題」「問題が生じていない理由」を説明するのだという問題意識に欠けた、単純な「現状の説明」に終始しているという印象があります。例えば、「若者の政治参加」というメリットでは、若者の投票率が低いこと、そのため若者向けの政策が実現していないこと、といった論点が出てきていますが、これだけでは「若者が自分で権利を放棄しているだけではないか」という疑問に応えられず、投票を義務化してまで解決すべき問題が示されているかという点で一歩弱くなっています。これはまだマシな例で、もっとふわっとしたメリットだと、投票率が低いから民主主義がダメになっているという、一体それでどんな不利益があるのか全く分からない説明もあります。

では、これを改め、解決すべき問題があることを示すには、どうすればいいでしょうか?
若者の政治参加の例で言うなら、若者が特に投票していないという部分の理由を掘り下げるのが一つの案でしょう。調べればいろいろありますので詳しくは自分で調べていただきたいのですが、人間は年を重ねるごとに社会的とのつながりが増えていくので投票にいく動機が増えるとか、若いうちは自分たちにとっての政策の有利不利を考える意識がなかなか沸かない(例えば、年金の問題などは若者にとってこそ将来重要になるのに、身近に感じられない)といったことが議論できるかもしれません。このような理由が出てくると、そういった若者を選挙に引っ張り出すためにはプランが必要だ、ということが言えそうです。
しかし、これではまだ「じゃあどうして若者を引っ張り出さなければならないのか」という疑問が残ります。これは重要性の議論になってくるところもあるのですが、上記のような「やむを得ない」理由で意思決定に参加していない世代に負担を押し付けることの是非であるとか、若者向けの政策というのが日本の成長にとって望ましい政策と合致するところが大きいとか、いろいろ理由付けはできるでしょう。
以上、ちょっと具体的な話になってしまいましたが、要するに言いたいことは、「なぜ」という問いを重ねていこうということです。他のメリットでも、「どうしてみんなが意思決定に参加しなければならないのか」「組織票で勝負が決まるとなぜよくないのか」というところを突き詰めることが求められますし、否定側の議論でも、「なぜ今はそこまで問題が起きていないのか」ということを意識的に突き詰める必要があります。そこでは、上で見たような検討視角も参考になるのではないでしょうか。

上記のようにして現状の問題を突き詰めると、解決性や発生過程を考える見通しもぐっとよくなるはずです。若者が投票に行かない理由が「単なる意識欠如」ではなく「社会とのつながりの乏しさ」「利害関係への感覚の乏しさ」ということであれば、選挙を契機として「自分たちに有利な選択」を意識するということは十分ありえるでしょう。あるいは、政治家の側が新たに参入してくる若者向けにアピールを行うといった動きを論じるという手もあります。現状の問題を精密に論じれば、それに対してプランを導入したときの動きも、より具体的にイメージできるようになるというわけです。

2.今後議論されてもよいと考えられる論点
既に述べたとおり、現段階ではほとんどのチームが基本的なところで(基本=簡単、というわけではありませんが!)つまづいているように思われるのですが、その一方で、一部のチームはそれなりの型をもって議論できていたようにも思います。そこで、試合の感想とは離れて、こんな論点・考え方もあるのではないかということを2つ列挙しておくことにします。参考になれば幸いです。

§1 選挙にとどまらない政治過程を踏まえた議論
今季論題は選挙の義務化(棄権への罰則)というアクションですが、だからといって政治過程の中で選挙だけを論じなければならないというものではありません。選挙以外の「平時」に政治過程がどうなっているのかということに踏み込んだ議論をすることが、より説得的な議論につながるはずです。
例えば否定側は、「組織票の解消」というメリットを掲げる肯定側に対して、利益団体は議員を送り込むという手段でしか政治に介入できないのかという疑問を提示することができるでしょう。これは「利益団体」でググってWikiを見るだけでも思いつく反論です(Wikiをエビデンスにしろと言ってるわけではないので念のため)。民主党が与党になったときに、これまで自民寄りだった利益団体はどう行動したのでしょうか、というのがヒントです。
これに対して肯定側は、投票行動に影響を与えることが普段の政治活動にも影響を及ぼすという議論を用意しておくべきです。最も単純な議論は、有権者は選挙以外の「平時」の動きも見ている、というものでしょうが、より効果的にこの手の議論を膨らませるには、現在でも良く出ている「選挙による政治意識・能力の向上」という議論と組み合わせるのがよいでしょう。もっとも、皆さんが読んでいる蒲島先生のエビデンスだけで選挙の教育効果が十分証明できるのかというのは、また別の話ですが。

§2 民主主義の意義を具体的な論点に反映させる
民主主義について抽象的なことを述べるだけでは説得力は生まれませんが、民主主義についてきちんと考えた上でそれを具体的な論点に反映させることができれば、説得力は飛躍的に高まります。これは高度な課題ですが、ディベート甲子園の決勝を狙うようなチームであれば、どこかの段階で(といっても全国大会まであと1ヶ月もありませんが…)チャレンジしてもよい課題です。
僕は民主主義について何か語れるだけの知見を持ち合わせてはいないのですが、それを承知で少しだけ私見を述べておきます。選挙にまつわる今季論題との関係で議論されてよいのは、代表民主制が採用されている理由についてです。ご存知のとおり、古代ギリシアでは市民全員(女性や奴隷は除かれているのに注意)が意思決定を行う直接民主制が採用されていたのですが、現代の民主主義国家では選挙などで選ばれた代表者が意思決定を行う代表民主制が採用されています。これは「物理的に全員が集まれないから」という理由によるものではなく、代表民主制そのものが直接民主制より望ましいと考えられていることによるところが大きいのです。ではなぜ代表者による意思決定が望ましいのか。その答えはここでは書きませんが、代表民主制の利点を掘り下げていけば、それとの関係で現在の選挙が代表民主制を効果的にしているのか、選挙を強制するということが代表者(の選び方)の「質」にどう影響するのか、という論じ方が可能になるはずです。
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