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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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2013年12月NADEルール改正の解説
例によって時間が取れずしばらく間が開いてしまいました。

気が付いたらディベート甲子園の今季論題も発表されており、また昨日JDA春季大会もあったので、それぞれ何らか記事を書こうとは思うのですが、標記のとおりルール改正がありましたので、まずはこちらから、ごく簡単に解説を試みることにします。その他の話題については、またいずれ。


2013年12月28日付のルール改正内容は下記のとおりです(公式にはこちらを参照のこと)。

改正点1
本則第1条(試合の進行)第1項の後に次の条項を新設
「2.この大会では、主催者が定めた論題について試合を行います。論題に付帯文がある場合には、論題の一部として扱います。」

改正点2
細則C-1項に「アピールは司会者の許可を得て行います。」とあったものを削除



上記改正点2つは、試合に実質的に与える影響は軽微だと考えられていますが、せっかくの機会ですので、これら改正に関係する事項について確認しておくことにします。

改正点1は、付帯事項(パラメータ)の扱いを明確化するものです。改正前のルールでは、付帯事項の位置づけは解釈に委ねられており、論題の解釈方法を指定するものとして実質的に論題と一体であると解すべきもの(例えば、昨年の首相公選制論題の、懇談会資料を論題の解釈に取り込む付帯事項。ただしそのすべてが論題と関係を有するかについて議論の余地があったことはこちらの記事で指摘したとおりです。)もあれば、特定の予防条項を禁止するための取り決めに過ぎないと解されるもの(例えば、死刑論題で終身刑の導入を禁止する付帯条項)もありました。
前者は、論題の解釈を規定するものですから、これに反するプランは論題を満たさないものとして取り扱うべきことになりますが、一方で後者のような付帯条項であれば、付帯条項に反するプランを無効とすれば足りるとの理解も成り立ち得るところでした。

今回の改正で、付帯事項はすべて論題だとみなすことになりましたので、後者のような付帯条項、例えば「終身刑禁止」条項も、論題と一体をなすということになります。そうすると、終身刑禁止の死刑論題で終身刑をプランに入れた場合、論題を満たさないことになって負け、という判断が帰結されることになります(ただし、論題充当性と勝敗を直ちに結びつけない私見からは必ずしも負けになりません)。
他方、同じ「論題」といっても、その中には「コアな部分」と「周辺的部分」があって、後者は「自動的にプランに取り込まれる」が、メリットの発生源にはならず、またメリットと無関係であるがゆえに論題充当性の評価対象としても問題とする必要がない、という考え方をとることもできそうです。この点を論じだすと長くなるので詳細は省きますが、私見としては、今回の改正に関係なくこのような考え方はあり得ようと思っております。

いずれにせよ、今回の改正は、ディベート理論的に言えば、論題充当性の範囲を広げる意味合いがあります(あと、予防条項排除的な付帯事項とは関係が薄いですが、メリットの発生源を増加させる効果もなくはないでしょう。)。
問題は、そのような帰結が妥当かどうか、ということです。今回の改正がこういうことを考えてされているものであるかは疑問ですが、個人的には、そうやって論題充当性の範囲を広げる必要はなく、予防条項排除的なプランをわざわざ「論題の一部」と言わなくてもよかったのではないかと思うところです。
試合運営委員会は特に本改正について解説を出しておらず、従前の取り扱いを明確化したに過ぎないとの理解であると推察されるところです。確かに、これまで付帯事項の意義が詰めて議論されることは稀だったので、その意味で特に変化はないのかもしれませんが、「論題」という概念をどう構成していくかということは、理論的にはメリット・デメリットの発生源やプランの規律との関係で重要な問題を孕んでいるので、今後本改正が何らかの重みを持つこともあり得るということだけは、この場で注意を喚起しておきます(これまでそう言って問題になったことはほとんどないですがww)。

改正点2は、アピールに際して司会者の許可を不要とする改正です。個人的にアピールを見た機会がほとんどないのですが、中にはアピールをするチームもあるようですので、司会者が困らないよう改正したのかなと思います。この改正自体は、実務上ほとんど影響がないでしょう。そもそも、現在行われているようなアピール(New Argumentの指摘?)が判定に影響を及ぼすことはなく、あくまでジャッジに判断を「促す」効果しかないので、制度としてあまり重要なものではありません(なお、このような性質から、ジャッジはアピールに対して説明などの対応を行う義務はありません。実際には、何らかの説明をすることにはなるでしょうが、それはマクドナルドのスマイルと同じレベルの、ジャッジの「サービス」だということになります。)。

しかし、改正を離れて、アピールの可能性というものを考えてみると、この制度は証拠資料の不正を攻撃する上でなかなか有用なのではないかという気がしております。ねつ造や改変は言うまでもないですが、文意を変えるような引用というものについては、試合中に指摘するのは大変ですが、試合後にアピールで説明できるのだとすれば、スピーチ時間を節約できます。しかし、そのような行為については、スピーチ外での資料確認によってジャッジの心証が汚染されてしまうという問題や、逆に、スピーチ外ではあるとしても、証拠能力(証拠としての資格)ではなく証拠の証明力(信用性)について判断を変える必要はないのか、という問題が出てきます。
そうすると、アピールという制度の位置づけや、さらには細則B-8項で定められた職権証拠調べの意義などについても、いろいろ考える余地があるかもしれません。このあたりは立法論にも関わるところであり、掘り下げるといろいろと検討できそうな気がしますが、今日は我慢しておきます。


以上、ルール改正点についての私的解説及び私見でした。今日は短く終わったので個人的に満足しています。

ディベート甲子園の選手向け | 22:19:53 | トラックバック(0) | コメント(2)
コメント
念のためですが
細則C-1で規定されているアピールについてはあくまでもC-1で規定されている項目についてのみ認められているので、変更前であっても変更後であっても、New Argumentの指摘は認められません。
実際の試合の上でアピールがあり得るとすれば「1.選手が,試合前に届けられたステージと異なるステージを担当したとき。」「5.証拠資料を捏造(ねつぞう)して使用したとき。」「6.証拠資料として元の文章を改変したものを引用したり,元の文意を変えるような不適切な省略をしたとき。」ぐらいでしょうか。
2014-03-10 月 00:09:11 | URL | 大魔神 [編集]
失礼しました
>大魔神さま
ご指摘ありがとうございます。確かにそうですね。高校時代に唯一見たアピールがNew argumentの指摘だったのでそういうものだと思ってしまいました。
ただ、試合後にNew argumentがあったと指摘することが許されないかというと、勝手にすればいいだけであって(ジャッジは言われようが言われまいがNew argumentかどうかは自分で判断する)、他方、C-1項に関するアピールもジャッジに回答義務はないので、特に意味はないといえばそれまでです。つまり、現行ルールでは、試合後に何を言っても特にジャッジングに影響はないというのが現実でしょう。
その上で、現行ルールの解釈として、あるいは立法論として、たとえば証拠能力の審査手続としてアピールを活用できるのか、といったことについては、また考えてみたいところです。

2014-03-12 水 02:45:25 | URL | 愚留米@管理人 [編集]
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