愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
ディベーターのための進路案内(訴訟弁護士編)
新年明けましておめでとうございます。
昨年は仕事がなかなか大変で、ディベートの記事を十分書けていないことを残念に思っております。むかしは無駄に長いディベート関連の文章をいろいろ書き綴っておりましたが、その代わりに(無駄ではないと信じておりますが)長い準備書面を書く人間になってしまったということです。今年もおそらくそんな感じになってしまいそうですが、ディベートについては引き続き関わっていければと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。

気が付いたら仕事を始めて今年で3年が経過するということもあり、いろいろ自分の仕事についても思うところができたりできなかったりします。そこで、新年一発目の記事は、ディベートのオフシーズンということで、中高生ディベーターの皆さまへの参考も兼ねて、ディベーターにおすすめかもしれない進路紹介として、現在筆者がやっている訴訟弁護士という仕事について書いてみることにします。一応ここは「(ロースクール)入院日記」でもありますので。
受験勉強の動機づけになるかは相当怪しいですが、そういう仕事もあるのかということで参考になればと思います。後で読んでもらえばわかりますが、職業ディベーターを除けばおそらく日本で一番ディベートに近い仕事をやっておりますので、ディベーターとの親和性は高いはずです。

ちなみに、ディベートに関しては、先日JDA春季論題が選挙棄権に罰則を設けるか否かというものに決まりましたところ、以前同じ論題の中学大会決勝についてかなり詳細に分析した原稿があるところ、どうも企画立ち消えになったようである某デジタル媒体に出したまま人目にあまり触れていないように思われるので、これを改稿したものを追ってここに載せる予定です。内容は論題の分析というより決勝の判定を精密に行ってみる(要するに「こういうこと考えてジャッジしてください」という実例)という趣向と、スタンスなる謎議論の位置づけについて少し詳しく書いた内容です。

それでは今回の本編です。

1.訴訟弁護士とは何か
先に「訴訟弁護士」と書きましたが、多くの方は、そもそもそんな「専門」があるのか、と思われることでしょう。弁護士というとみんな裁判所で訴訟をやっているんじゃないですか、というのが普通の感覚だと思いますし、実際ほとんどの弁護士はそうだと思います。しかし、弁護士の中には、訴訟を「専門」と名乗る弁護士というのが少数存在します。

これを説明するためには、弁護士にもいろんな特徴がある(ゴルフが上手いとかじゃないですよ)、ということをお話ししておく必要があります。
まず、弁護士は、相手とするお客さんの主な属性によって、大まかに2つに分けられます。それは、個人関係の仕事(一般民事と言ったりします。離婚や相続、刑事弁護などがイメージしやすいでしょうか)を中心とする弁護士と、企業関係の仕事(企業法務といいます。)をやっている弁護士の2種類です。前者の一般民事を中心とする弁護士が大多数で、地方だとそれがほとんどだと思いますが、東京や大阪を中心とする大都市圏には、専ら企業を相手とする後者の弁護士が一定数存在し、筆者も企業法務の仕事をしています。

一般民事も民事と刑事、民事であれば不動産関係、過払い返還請求(サラ金対応)、消費者保護などいろいろと分野があり、弁護士ごとに得意不得意がありますが、おそらく多くの一般民事弁護士は、専門に限らずいろいろな仕事を受任していき、その中で必要に応じて訴訟等の手続に関与することになります。
これに対して、企業法務は、専門性がより特化しており、裁判に関係ない業務も含めて、多岐にわたる専門分野が存在しています。会社法関係の仕事(これを扱う弁護士はコーポレートロイヤーと呼ばれます。)だけでも、株主総会対応その他の一般的な相談からM&A(企業買収など)の業務までいろいろありますし、資金調達を行うファイナンスの分野でも、(僕は専門外なのでよく分かりませんが)資産を証券化したり、社債を発行したり、金融業の規制関係を扱ったりと、細かく分かれています。専門分野ごとに扱う中身がかなり異なりますので、どっぷり専門につかっている弁護士は、ほかの分野の仕事をやってみるということはなかなかできないので(少なくとも僕はファイナンスの仕事は全くできないと思います。)、必然的に、いろんな分野の弁護士が集まってチームで仕事をしたりすることになります。その他、独占禁止法関係、労働法関係、倒産関係、などなどいろいろ専門分野があるのですが、その中に、訴訟を専門にする弁護士が少数存在しています。
訴訟というのは、一応弁護士であればみんなできることになっており、ファイナンスなど基本的に訴訟をやらない分野の弁護士(一度も裁判所に行ったことがないという弁護士もいます。)を除けば、企業法務で訴訟を専門にしていなくても訴訟を扱うことがないではないのですが、特に複雑だったり難しい紛争案件については、訴訟を専門にする弁護士が担当することになります。そういう訴訟業務をメインに仕事をしているのが、訴訟弁護士です。

実のところ、企業法務では訴訟弁護士は少数派で、企業法務の花形は売り上げの大きいM&Aなどの分野の弁護士だとされています。個人的には、後述のとおり、訴訟が一番弁護士として活躍できる場面だと思っておりますし、最近は国際的紛争なども含めて訴訟への対応力が問われる場面も増えてきており、訴訟弁護士の活躍が期待されている…と思いますので、残念ながらまだ専門を名乗れるほどの経験はないのですが、ディベーター向けということで訴訟弁護士の魅力を紹介してみることにします。

2.訴訟弁護士のお仕事
まずは、訴訟弁護士が具体的にどういう仕事をしているのかということを書いておくことにします。ちなみに、訴訟弁護士はリティゲーター(litigater)と言ったりします。ディベーターみたいなものです。

(1)仕事の種類
企業が関係する紛争にはいろいろなものがあり、売買代金の未払いや契約違反、営業秘密の侵害、消費者からの製造物責任追及、従業員との労働問題、会社の経営権争い、税務関係などなど様々なものがあります。日本企業同士の問題だけではなく、外国企業と日本企業との争いもあります。
訴訟弁護士は、上記のような種々の紛争を一通り扱います。ただ、簡単な事件であれば訴訟を専門にしていなくても扱えますので、訴訟を専門として売り出している弁護士のところにはなかなかきません。というわけで、訴訟弁護士のところにやってくる事件は、多くの場合、複雑で難しい事件だったりします。事件の規模でいうと、数十億、数百億という事件も稀ではありません。また、一審で負けてしまい必勝を期して控訴審(場合によっては上告審)から担当するということもあります。このような事件だと、もう手遅れだ…ということも珍しくなく、だいたい苦しい戦いを強いられるのですが、そこをなんとかすることが期待されています。その他、裁判まではいかない交渉段階の紛争解決をやったり、株主からの要請(提訴請求という会社法上の手続き)に応じて役員を訴えるかどうかを判断するための意見書や調査報告書を作ったり、既にほかの弁護士が進めている訴訟手続きのレビューを行いセカンドオピニオンを出すといった仕事もあります。

また、最近では、裁判所ではなく当事者が選ぶ仲裁人が事件を判断する仲裁というものもあり、一部の国では外国判決を受け入れなかったり(例えば中国では日本の判決は執行できないので日本の裁判所で勝っても中国の財産を押さえられない)、裁判が鬼のように長期化したりすることから、国際的な紛争では仲裁によるものが増えています。
日本の裁判所での裁判であれば当然日本語で書面を書きますが、仲裁では、特に日本語でやるという合意がなければ、英語が一般的となります。この仲裁事件も、訴訟弁護士が担当することになります。仲裁は手続的にも特殊なノウハウがありますし、わざわざ仲裁をするような巨大事件は案件が極めて大規模かつ複雑で、英文で500ページ超の書面を出し合うということもありますので、こういう事件はまさに専門性を有する訴訟弁護士の活躍どころと言ってよいでしょう。まぁ、筆者は今のところ英語が残念なので、日本法の検討などで関わるのが中心ではありますが…。

本当は具体的な案件の話を交えて説明するとイメージしやすいですし、実際やってきた仕事の思い出話はいくらでも話せてしまうくらいいろいろとあるのですが、守秘義務の問題もありますので、上記程度の説明にとどめておきます。

(2)仕事の具体的な中身
具体的な仕事の進め方は案件や種類によって異なりますが、一般的なものとして、日本の裁判所における裁判をどうやって進めるのか、ということで仕事の中身を簡単に説明してみます。

基本的には、日本の裁判は書面主義ですので、主張をまとめた書面(準備書面。訴えを提起するときは訴状)を作成するのが主な仕事となります。ディベートと同様、主張については立証しないといけないので、証拠集めや、どうやって証拠を出すのかということも大事な仕事になります。訴訟の最終段階では証人尋問がありますので、その準備や、実際の尋問も行う必要がありますが、基本的には書面での主張立証の積み重ねが裁判の大部分を占めます。
複雑な事件では特にそうですが、訴訟を戦うに当たっては、こちらが現在把握している事情や、相手から予想される反論を踏まえて、どういう法的構成を取るべきか、どのようなストーリーで裁判官を説得していくかという戦略を練ることが非常に重要となります。単に言いたいことを言うのではなく、先々の展開も見据えて、何を言うべきか、言うとしていつ言うのか、といったことを考えて準備を進めていきますが、これはなかなか難しいもので、どう戦うことがお客さん(クライアントといいます。)にとって最善なのか、あるいは戦わない/和解する選択が最善なのか、ということを考え、時にはクライアントを説得しながら、訴訟弁護士としてしっかりとした戦略を持って訴訟を進めていく必要があります。この戦略の部分も含めて、どうやって裁判所を説得していくのか、訴訟外のやり取りも含めて紛争をどうやって解決していくのかというところに、訴訟弁護士としての専門性が現れてきます。

これだけだとイメージがわかないと思いますので、筆者が担当している事件での一般的な業務内容について、抽象的な内容で当たり障りのない範囲でいくつか紹介してみることにします。筆者は某大規模事務所に勤務する3年目(もうすぐ4年目)の弁護士ですので、基本的にはチームでは一番下っ端かその次くらい、というイメージでお読みください。

まずは、クライアントから案件の依頼がやってきます。勤務弁護士(アソシエイトなどといいます。)の立場としては、例えば、上司にあたるパートナー弁護士(ボス。パートナーの中にも階層はあるのですがそれは生々しいので割愛)から「こういう案件があるのだけど入れる?[入れ]」という打診があって事件に関与します。
クライアントがこれから訴えたい会社なのか、訴状が届いてしまった(届きそうな)会社なのかというので状況は違ってきますが、まずは事情を聞いていくことになります。これから相手方を提訴したいという会社の場合、どういう証拠があるのか、相手方はどういう会社なのかということを聞きつつ、クライアントの主張に理由があるのか、相手からどういう反論が予想されるのか、そもそも訴訟することがコストに見合うのか、他の手段はないのか、訴訟を行う前に行うこと(交渉での解決を目指したり、訴訟の下準備として財産を仮に差し押さえたりする)はないか、ということを検討します。訴えられてしまった会社については、訴状の内容について会社の見解を聞きつつ、どこまで戦えるのか、この先どこを着地点とするのか、といったことを考えていきます。
そういった検討の上でクライアントに見通しを説明し、場合によっては他の事務所とのオーディション(ビューティーコンテストといいます。)を経て、案件を受任し、作業をはじめていくことになります。

チームによって違うかもしれませんが、筆者の事務所の訴訟チームでは、少人数のチーム編成が多く、1年目から書面全体を書いていくことになります。クライアントとの会議で事情を聞いたり、事前にもらった資料を検討した結果を踏まえて、訴訟の方針について内部会議で打ち合わせ、実際に書面(訴状、準備書面など)を作成していきます。ディベートでいう立論づくりのようなものです。
書面の内容にはいろいろあり、訴状(1ACのようなもの。)やそれに対する答弁書(1NCのようなもの。実質的中身を書かずに後の書面で反論するパターンもあるが、訴えの却下=門前払いを求める場合は少なくともその意向については答弁段階で出さないといけない。Topicalityを1NCで出すことが義務付けられているようなイメージです。)、準備書面のほか、文書提出命令を求める申立書や、訴訟進行について意見を述べる上申書など、いろんな書面があります。
なんでもフルスイングで主張を盛り込めばよいというものではなく、狙いに合わせて何を書くか、といったことはあるのですが、基本的には、十分な証拠に基づき、法律論についてはできる限り判例・学説に準拠して(この辺は事務所によっては適当なのですが、筆者のチームでは特に法律論も漏れなく検討するよう求められます。)手厚い論証を行うことを目指します。もちろん、証拠のねつ造や事実に反する主張は死んでも行いません。ディベーターの皆様もこちらを読んでそういうことがないよう気を付けてください(詳しくは書きませんが、極めて遺憾に思っております。)。

難しい事件だと、書面の長さはすぐに2~30ページ(だいたい1ページ800字くらいかと思います。)に達し、長い書面だと100ページを超します。裁判書面はだいたい1ページ800~1000文字なので、立論何本分かの分量の書面を書いています。特に一般民事の先生からは、書面が長すぎるなどと揶揄されることもありますが、少なくとも主観的には無駄に書いているわけではなく、それだけ論じるべきことが多いので仕方ないものです(筆者は普通の貸金返還請求訴訟なんかもやりますが、そういう時は表紙込み3ページの書面なんかも書きますし、調停事件なんかでは長くても10ページちょっとの書面だったりです。)。そういうわけで、証拠を精査したり、必要な法的リサーチをしながら書面を書くためには長時間を要します。
書面作りのためには、根拠となる証拠を集めることが重要となります。これについては、クライアントに聞いた内容のほか、「こういうものがあるのではないか」「こういう資料が必要になる」ということで、クライアントにお願いして、資料を送ってもらったり、まとめてもらったりします。弁護士が自分で現地に行って写真を取ってきたり、報告書を書いて証拠にしたりということもあります。また、事実関係については、クライアントの担当者が一番詳しかったりするので、資料を基にインタビューを実施したりもします。
ディベートと同様、証拠集めは非常に大事なのですが、図書館に行けば本が置いてあるというものではなく、何が必要なのかということをイメージしながら、積極的に働きかけていって、証拠を見つけたり、自分で作ったりということをしていきます。時には、準備中に予想外の衝撃の事実が判明し、戦略の修正を余儀なくされるといったこともありますが、それも含めて、できる限りの準備を進めていきます。

法律的に専門性の高い事件については、ほかの専門の弁護士と一緒に仕事をすることもあります。たとえば、証券関係の訴訟であれば、ファイナンスを専門に弁護士に手伝ってもらったりしますし、会社関係の訴訟であればコーポレートの弁護士と一緒に準備を進めたりします。その分野を専門にする先生方は訴訟弁護士が知らない問題を正確に理解しており、専門的見地からは非常に真っ当な説明ができるのですが、残念ながらそれをそのまま伝えても裁判官には分からないことが多いし、専門に入り込むあまり、訴訟の上では必要のないことを論じてしまったりするので(ディベートでもそういうことはよくありますね)、訴訟弁護士が裁判所向けプレゼンとして意味のある形で再構成していくようなイメージで準備を進めていきます。このようにして、お互いの専門性を尊重し合って目標に向けて作業を進めていくのは、チームで仕事をしていく上での醍醐味だと思います。
法律的に難しい争点については、所内にある文献(筆者の事務所には1万冊単位で本や雑誌があります)や判例を徹底的に調べ、必要な場合には大学の先生にご意見を伺い、意見書を執筆してもらうということもあります。先例のない法律問題も珍しくないので、そういう時には、エビデンスを書いてもらう、ということです。外国法の問題であれば、外国の弁護士に意見書を依頼しますが、この場合には、日本の裁判で何が問題となっているのかということを、前提とする法文化の違う弁護士にわかりやすく伝えるという、別途の悩みもあり、なかなか一筋縄ではいきません。

こういった仕事を、小さい事件であればパートナー弁護士とアソシエイト弁護士の2名とかでさくさくと回しますが、大きい事件であれば、複数人のアソシエイトで適宜分担しつつ、複数の先輩アソシエイト、パートナーのレビューや統合作業を踏まえて準備を進めていきます。筆者の事務所の訴訟チームは少数でのチーム編成を好むので、結構大きめの事件でも、書面はまず自分が書く、というのが基本的なあり方です。あるいは、ほかのチームに誘われて入った案件だと、訴訟チームの人間が自分だけだったりするので、自分でドラフトを作っていくことになったりします(それなりに大変ですが、こういう形の案件は訴訟チームの弁護士だということで任せてくれているわけですのでうれしいものです。)。
また、訴訟の仕事を進めるうえでは、弁護士のほか、リサーチを分担してくれるパラリーガルや、書面の確認や証拠作りの作業などをしてくれる秘書さん(普通の事務所だと「事務員さん」というようです。)の協力が必要不可欠です。大きな事件では、証拠を何十、何百と出しますし、書面の形式チェックも大変ですので、弁護士と一緒に深夜まで残り、場合によっては休日にも出てきて提出作業を手伝ってくれるスタッフの方々がいてこそ、書面を提出することができます。

書面提出が終わると、裁判所に行って期日があります。ドラマのような派手なやり取りは基本的にはなく、書面を出す旨確認して次回期日を調整するだけという日もあるのですが、時には主張の趣旨について議論があったり、相手方の意見に突っ込みを入れたりと、それなりに動きのある期日もあります。筆者の年次だと、自分が発言するというよりは、記録取りと、問題となった部分について関連する資料等を適宜示すという役割が主ですが、忙しい上の先生に代わって若手が記録をしっかり検討しておくことが期待されているところもありますので、気を抜くことはできません。立論読み終わってぼーっとしてたらいけませんよ、ということですね。

その他、尋問やら和解交渉やらいろいろあるわけですが、長くなりすぎますので、訴訟業務の普段の様子ということで、ここではこのあたりにしておきます。

3.仕事のやりがいなど
以上のような仕事を中心に、たまにイレギュラーで訴訟以外の仕事をやったり、メモ(意見書のようなもの)を作ったりしていくわけですが、正直なところ、企業法務の仕事は大変忙しく、訴訟弁護士も例外ではありません。特に、僕が勤務している事務所は某大手事務所で、ほかの大手事務所と同様、激務を誇って?おります。忙しさの性質は仕事の種類によって異なるのだと思いますが、筆者の場合は大きめの事件に複数取り組みつつ細かな案件をいくつか処理していくということで、毎日2~3論題のプレパをしつつ雑務をこなしていく(そうすると年6~7論題をこなすことになる)、という感じで仕事しています。
なお、企業法務の忙しさについては、たとえばこちらのブログを見るとちょっと想像がつくかもしれません。これが正しいかというといろいろどうかというところもありますが、断片的にそれらしいエピソードはたくさんあり、ここに書いてあるような生活が「絶対に嫌だ」と思う場合には、そもそも進路として選ぶべきではありません。ただ、こういう生活にあこがれる人間とは、僕は仲良くなりたくありません(笑)。

訴訟弁護士の仕事は、上記のようなつらさを踏まえても、魅力的な仕事だと思っています。ディベーターであればわかると思いますが、どうやって説得していくか、どういう議論をしていくかということを考えるのはそれ自体知的に面白いですし、自分の仕事が実際にクライアントのためになっているというのは、大変やりがいのあるものです。事件にもいろいろあり、正直全くモチベーションのわかない案件もあるにはありますが、少なくない会社にとって訴訟というのは一大事で、そういう中で「絶対に勝ちたい」というクライアントの思いを代弁できるのは、弁護士である自分たちだけだ、という中で仕事をするのは、プレッシャーでもありますが、それ以上に闘志を掻き立てられるものです。
訴訟は結果がはっきりしてしまうので、負けてクライアントに詰められることもあったりもするものの、よい書面を書いたら裁判所だけでなくクライアントも満足してくれますし、その結果訴訟と全然関係ない仕事をくれたりということもあります。準備書面を書くこと、裁判を進めること自体はどの弁護士でもできますが、普通の仕事とは違う専門家としての仕事ぶりは見る人が見れば評価してくれますし、そうやって評価されたときはなんともうれしいものです。例えば、共同被告の代理人の書面が裁判官からぼろくそに言われた後で、自分たちの書面が説得的だという心証を示されたことがあり、これはちょっと不謹慎ですが非常に気持ちの良いものでした。結果や過程で勝ち負けが出るというのは、辛いこともありますが、やっぱり楽しいですよね。

また、先例のない法律問題を裁判所で争い、判例法の確立や、場合によってはそれに伴う実際の法改正などを通じて、法形成にかかわることができるというやりがいもあります。実際、現在が僕がやっている事件のうち3件が上告審に係属していますが、いずれも重要な法律問題を含んでおり、判決によって新しい法解釈が示されることになる(はず)です。また、そこまでいかないにせよ、自分の取り組んだ事件が法律雑誌に載るとうれしいものです。負けているものだとやや萎えることもありますが…。

あと、弁護士という仕事自体、なんだかんだいって自由なところも魅力だと思います。チームで仕事をしていますから、それに穴をあけないようにやるべきことはやる必要がありますが、逆に言えば、それさえやっていれば自分で裁量を持って仕事ができます。スケジュールを守るという前提ですが、こだわりたい部分を自分でリサーチして満足いく書面するといった形で仕事に力を入れることもあるし、時には飲みに行ったりということもあります。無駄な仕事を強要する弁護士も基本的にはいません。

やるべき時には仕事を追い込み、終わったら深夜にみんなで焼肉を食べに行くというのも、体にはよくないとは思いますが、楽しいものです。仕事終わりや打ち上げのビールは、これはもうたまらないわけです。
逆に、敗訴判決を食らったあとに愚痴りながら酒を飲むということもありますが、ジャッジ(裁判官)の文句を言うのはディベートの大会後と似ているのかもしれません(ちなみに僕は、高校時代から通算して、負けた試合のジャッジをディスったのは1~2回しかありません。たぶん信じてくれないと思いますが、意外と素直なのです…。)。どこまでいっても弁護士は「代理人」で、負けて破産するわけではないのですが、案件によっては大変ブルーになることもあります。絶対勝ってると思った事件で逆転負けとなり、判決をもらってきた先生がそのまま熱が出て寝込んでしまった…ということもあるくらいです。一緒に頑張ってきた担当者の方に申し訳ない、ということもありますので、そこは、「いい試合ができたので満足です」と言えてしまうディベートとは全然違うところです。裁判はドラマと違って勝ち筋・負け筋というものがあり、負けるときは人事を尽くしても負けてしまうことはあるわけですが、負けてしまった時のやるせなさやら申し訳なさは、やれるだけのことをやっていたという思いでなんとかこらえるしかないというところがあります。
しかし、そのくらい本気になれる仕事というのは、やっていて幸せなのだと思います。

4.訴訟弁護士になるために
訴訟にやりがいを感じるというのは、何も訴訟弁護士に限ったことではないですし、大手以外の事務所でも訴訟に力を入れている事務所はたくさんあるので、上で書いたような大きな事務所での仕事が絶対ということは断じてありません。
僕自身は今の事務所の仕事が面白いと思いますし、ほかの事務所より案件の質も仕事の質も高いものに関われていると主観的には思っていますが、結局のところ、自分が働いているところで打ち込んでいる仕事が自分にとっての天職になるということもあるかと思います。

それを前提としつつ、訴訟弁護士としてあえて訴訟を専門とアピールする弁護士になるための一つのルートをお示しすると、だいたい以下のようになります。
まず、訴訟チームを持つような大きな事務所に入りたいという場合には、大学やロースクールでどこに行っていたのか、また、成績はどうか、といったことが問われます。企業法務を中心とする大事務所の就職活動にとって、学歴は絶対とまでは言わないまでも非常に重要です(それにはいろいろ理由がありますが、一番納得しやすい理由としては、クライアントの担当者がそもそも高学歴なので、弁護士もそれに釣り合う学歴を持ってないとあれですよね、ということがあるのだと思います。入りたての20代で大企業の法務部長などに先生と呼ばれてしまう立場になるわけで…。)。
というわけで、大規模な訴訟に携わってみたい、ということであれば、受験勉強を頑張るのがよいと思います。高3までディベートをやっていても受験を突破することは十分可能だと思いますが(自慢ではないですが僕もそうでした)、大学でもディベートはできますから、後輩にレギュラーを譲って1年勉強するというのもありなのかもしれません。

それから、当たり前ですが、司法試験に受かって弁護士資格を取ることが必要です。何を隠そう僕も一回試験に落ちてしまっているのですが、これはもう基本的な勉強をしっかりしましょうということに尽きます。法律の学習に向き不向きがあることは確かですし、決して簡単な試験ではありませんが、天才を選び出す試験ではなく、法律家としての共通理解があると言えるかどうかを試す試験ですので、正しい勉強法を取れば、意志と努力で突破できない仕様ではないということだけは保証します。
もっとも、司法試験に受かること自体は、受かってしまえば何の意味もないので(だってみんな受かってますからね)、それからがスタートです。就職活動とかはここで書いても仕方ないので省略しますが、自分のやりたいことがはっきりしていれば、道は通じるはずです。筆者も、訴訟希望を強く書いておいたら、運よく?訴訟チームに配属されたわけで。

最後に、ディベートを続けることが弁護士を志望する際にプラスかどうかという点を書いておきます。
別にディベートが就職活動で有利になるとかは思いませんし、筆者の場合、むしろ恥ずかしいので聞かれるまではディベートの話はしないことにしていました。仕事でディベートが直接活きるのかというのも、実は謎だったりします。そもそも何かに活かそうと思ってディベートをやったことがなく、逆に他の何かをディベートに使えないかということだけを考えてきたので…。
ただ、物を考えるトレーニングという点では、ディベートは間違いなく有用であろうとは思います。議論するということに心血を注いできた経験は、自分では特に意識していませんが、自分の仕事のどこかには生きているのかなとは思います。少なくとも、ディベートを好きになれないような人間は、訴訟弁護士にはなれないのではないかな、という気はしています。

まとめ
以上、訴訟弁護士という仕事の紹介でした。

ここまで説明してきておいて水を差すようではありますが、一般的に言われている通り、最近では弁護士の就職難といった話もあり(実際には早めに合格し、それなりの学歴・司法試験の成績があれば就職には困らないと思います)、法律家を目指すという進路には不確実性があります。現に、司法試験に失敗したディベーターもいないではありません。

それでもなお、法律家、とりわけ訴訟弁護士という仕事に興味を持つディベーターが出てきてくれるとしたら、個人的にはうれしいです。もっともディベートに近い仕事が、そこにはあります(ただし、ディベート大会出場からは非常に遠ざかります…)。
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