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アカデミックディベーター

Author:アカデミックディベーター
日当たりの良い某法科大学院を2009年3月に卒業。
ライフワークである競技ディベートについてぼちぼち書いています

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第24回ディベート甲子園の感想(1.中学論題)
時機を失してしまった感がありますが、今年のディベート甲子園について感想を書いておくことにします。
今回は、中学論題について、決勝戦の内容を中心に取り上げようと思います。なお。高校論題は、(ちょっと後になりそうですが)準決勝の動画も見つつ、やや幅広に議論の検討ができればと考えています。

さて、今年の中学決勝は東海中学校と創価中学校の対戦で、結果は2-3で否定の創価中学校が優勝となりました。私は肯定側が勝ったかなと思ったのですが、少数意見の方でした。以下では、肯定側立論から順に短評を述べたうえで、私の判定理由を説明し、その上で、なぜ多数意見が否定側を支持したと考えられるかの理由と、それらを踏まえた改善点などのコメントを記載します。

なお、中学決勝の判定については、こちらの記事が丁寧に検討しており、参考になります。私と判定は逆ですが、十分あり得る判断だと思います。

1.各スピーチの短評

肯定側立論
地方の交通困難者を救うという議論です。現状で何故タクシーが活用できないのかという話もされており、バランスの良い立論という印象でした。ただ、解決性で海外の例など出しつつ詳細に議論しているものの、最初の分析で出ているような「地方」でライドシェアが広がりそうというイメージが湧きにくいところがあります。ボルドーやシャンパーニュは田舎だが呼べた…みたいな話がありますが、日本人の我々でも聞いたことのある場所で呼べたということが、日本人ですら知らない過疎地方(それこそ上勝町とか聞いたことなかった人がほとんどではないでしょうか?)に当てはまる議論なのかという疑問もありますし、上勝町の例も、ボランティアの延長のようであり、仕事としてライドシェアを提供する人がどの程度いるのかという素朴な疑問が残りました。

否定側質疑
いまいち狙いが分からない、あるいは、聞いても意味もない質問が散見されたように思います。最初の、立証する責任が云々というのは、質疑で聞くことでないですし、その次に、なぜ全国で一律に導入すべきなのか、という質問も、どう答えさせたいのかさっぱり分かりません。仮に相手が回答できなかったとしても、それでメリットが切れるわけでもありません。カウンタープランを出せるわけでない以上、否定側とて一部導入という案を提案できないのですから、質問しても否定側の投票理由は出てきません。
田舎(とされる地方)でどのくらいの人が呼べたのか…というところが、一番聞いてほしかったところですが、ここはもっとYes/Noで回答できるような質問で追い詰めるべきです。「ボルドーやシャンパーニュというのは、ワインの産地ですよね?」「日本でもよく知られている地方ですね?」(ここまで「ワインを飲まないので知らない」と答えられても、ジャッジに伝わればよい)、「この資料の著者は仕事でボルドーやシャンパーニュに行ったのですか?それとも観光?」「要するに、日本人が何か用事があって行くような地方で、タクシーが呼べた、という話ですよね?」「ところで、上勝町という例が出ましたが、あなたはこの論題に取り組む前に、上勝町という地名をご存知でしたか?」「日本人でも知らないような地方の話ということですね?」「上勝町で成功したという話は、NPO法人がボランティアでやった例ということでしたね?」「海外のウーバーとか、ボルドーやシャンパーニュで来たタクシーは、ボランティアではないですよね?」といった感じで聞いていけば、肯定側が挙げている例の適用範囲がかなり狭い、ということを浮き彫りにできます。
こういった、質疑でしかできないやり取りで、相手の議論を追い詰めるということをやっていけると、さらに議論を深めることができるようになります。もちろん、このような突っ込みを入れると、2分でも時間が足りないくらいなのですが、質疑で聞く争点は1点か2点に絞っても構わないですし、むしろそうすべきものです。

否定側立論
過当競争により問題が起こるという議論です。価格競争という話と、台数増加という話の2点が出ており、丁寧に説明されているという印象です。ただ、発生過程は最終的に運転手がもうからないことで事故が増えるという話に依存してくるところ、そのあたりの説明がやや物足りないところがあった気はします。立論で述べるのではなく第二反駁あたりで語ってもよいかもしれませんが、タクシー業務が危険な自動車を扱う事業であり、その安全がタクシー運賃に生活を依存する運転手の運転態度にかかってくるものであるから、安全維持のために過当競争を防ぐ必要がある、といった、タクシー事業や業界の特質から競争を抑制すべきという大きな話をアピールできればより見通しが良くなるところもあるでしょう。
なお、会社の被害を運転手に転嫁して収入を減少させるのが良くない、という深刻性1点目の話は、規制緩和の問題というより、各タクシー事業者の経営方針や給与体系の問題だと思いますので、これは意味がない議論でしょう。

肯定側質疑
個々の事例について確認しようとしているところはよかったのですが、締めの質問が「これは本当に日本に当てはまるのですかね」といった感じになってしまうのは残念です。質疑で聞くべきは事実であって、意見を求めても意味はありません。
肯定側第一反駁の話を見ると、今後はタクシー需要が増えるとか、タクシー運転手が減りそうという話をしようとしているのですから、質疑の段階で、これは過去の規制の話であって、将来の需要予測はどこにもないという話や、運転手が減ったら増車できませんよね、といった話を聞いておけば、反論の前出しにもなってよかったでしょう。

否定側第一反駁
冒頭の、「なぜライドシェアで確保しないといけないのか」「なぜ国全体で導入しないといけないのか」という問題提起をしていますが、肯定側にそこまで説明すべき義務はないので、この反論はナンセンスです。カウンタープランで「税金でバスを通すようにする」とか「地方だけ緩和する」といった立場を出せるのならいいのですが、ディベート甲子園でこの手の指摘をしても意味はありません。質疑の内容とも関連してくるところですが、このあたりは注意されるとよいでしょう。
低栄養の話に対して、買い物困難以外の要因があるといった反論を行っています。これは取る人もいるのでしょうが、個人的には完全に否定する議論でなく、2枚も資料を読むほどの話かなという感じがあります(2枚目だけでよさそう)。というか、このような反論をしたいなら、質疑で触れておくべきでした。時間が限られていることを考えると、攻撃力には欠けている感があります。
乗り合いタクシーの取り組みが進んでいる、という話は良い議論です。この反論こそ、肯定側のストーリーを長期的に否定し得る上、否定側がこだわっていた「なぜ一律に規制廃止すべきなのか」という議論にもつなげられる話なので、そもそも地方でライドシェアをやる運転手は出てこないといった話も織り交ぜつつ、補助金などを出しながら個別に対策していくしかない、といった感じでまとめていくべきでしょう。
解決性への指摘はまずまずでしたが、上勝町の例に対する反論が時間切れになっており、伸ばされてしまう状態になったのが残念です。低栄養に2枚読む時間があったらここに時間を割くべきだった、ということです。
総じてスピーチも上手で、良く準備してきているので、良い第一反駁だったとは思います。低栄養への反論も、おそらく東海の議論を研究して準備していたのでしょう。しかし、個人的には、殺るのはそこではない…という感じではありました。

肯定側第一反駁
デメリットへの反論は良好です。発生過程を潰すのであれば価格競争の議論にも挨拶しておくべきで、収入源は不況が原因という話や、今後需要が増えるという話は、価格競争の話にも適用できるはずなので、そういうスピーチがあればより良かったでしょう。
メリットの再反論も、重要な点を満遍なく触れており、これも悪くなかったと思います。ただ、最後の上勝町の例の伸ばしは、第一反駁のせいというわけではないですが、ちょっと乱暴でした。日本では上手くいくと言っていますが、上勝町はボランティアの話であって、プラン後広がるとされるライドシェアの話なのかは疑問です。もう少し丁寧に、ドライバー自体がある程度増えることは海外の例で分かり(すぐやめるというデメリットへの反論との関係でやや微妙なのですが)、それが活用されることは上勝町の例で実証済み、といった感じにまとめれば、これも無理やり感はあるものの、もう少し聞ける感じになったかもしれません。
ただ、レベルの高いスピーチではありました。

否定側第二反駁
これまで出た議論の伸ばしとしては悪くないスピーチでした。ただ、もっと伸ばしてほしかった乗り合いタクシーの議論について、国として対策しているのは別問題だ…という話がなぜメリットへの反論になっているのかよく分かりません。結局、メリットの何が問題なのかという点がよくわからないまま、各論をちょこちょこ伸ばしているだけ、という感じです。上でも少し触れましたが、自発的なライドシェアが上手くいく証明はなく、国がきちんとサポートすることでしか解決しない、そしてそのサポートは既に行われている、といった話でまとめれば、頭に入りやすかったのではないでしょうか。低栄養の話は、そもそも話が小さいのだ、ということで反論の枕にして、メリットが残ったときにデメリットで競り勝つ材料にする、という感じになりそうです。
レベルの高い要求であることを断って述べると、個々の議論をどう投票理由に結びつけるのか、という点にもっと意識が行けば、より効果的で分かりやすいスピーチになるかと思います。この点、今年の論題は明らかに昨年より難しいこともあり、大変なところなのですが、ここまで議論を考えられる選手であればできることだとも思いますので、今後さらなる飛躍を期待したいところです。

肯定側第二反駁
デメリットについて、きちんと勝っているところをまとめています。ちょっともどかしいというか、もう少しポイントを押さえてスピーチすれば時間を圧縮できそうでしたが、それはこれからの課題ということで。欲を言えば、どの議論がカギになるのか、というのが一目でわかるようなスピーチができると、より判定に影響を与えることができるようになります。この試合では、今後は需要が増えるという話が一番キャッチ―だったと思いますので、最初に、資料を再読しつつ、この部分がデメリットの分析から決定的に落ちており、それを踏まえると「今度の」規制緩和では問題は起きない、という話をやった上で、残りの議論を淡々と整理していけば、デメリットは取りたくても取れない、ということになるはずです。
メリットのまとめは、最初に買い物以外の問題もあるという点を伸ばしたのは良好です。ただ、これを伸ばすならセットで重要性も伸ばさないといけないです。また、メリットが少しでも残っていることを強調するため、解決性が多少やられていたり、現状の問題が言うほど大きくなかったとしても、今より良くなる、という話を明確にしておきたかったところです。このあたりは、デメリットにちょっと時間を割きすぎたかな、という感じです。

2.判定について

冒頭でも述べましたが、私なら肯定側に投票するところです。デメリットは肯定側の反論によりほぼゼロとなっており、メリットは、否定側の反論を踏まえても、ある一定の交通困難者がいて、その人にとってプラン導入がプラスになるという話は否定されていないので、大きくないとしても残っている、と考えるからです。否定側が攻撃した、買い物困難の理由は交通の問題だけではないとか、乗り合いタクシーがあるとか、ウーバーが使えるかどうかわからないといった話は、いずれもメリットの筋を完全否定するものではありませんでした。上述のとおり、上手く構成すればストーリーを切る議論にも育てられたと思いますが、実際のスピーチでは、個々の議論が出ているだけとしか取れない、という評価です。

一方、実際の判定は2-3で否定側が勝ちました。否定側に入れたジャッジの判定理由は分かりませんが、デメリットを大きく評価していないということは、おそらく共通だろうと思います。判定が分かれた最大の理由は、メリットを取るかどうかでしょう。低栄養の話は否定側がそれなりに上手く反論しているところや、乗り合いタクシーの話もあることから、そもそも現状の問題がほとんどない、と取ったのではないかと推察されるところで、肯定側も最後に買い物以外の話を伸ばしてはいたものの、重要性に絡めて伸ばしていなかったこともあり、そのような判断も仕方ないでしょう。伸ばしが不十分でもそれなりに評価するジャッジもいれば、そうでもないジャッジもいるわけで、私は割と前者ですが(なので、私がジャッジする試合の多くでは、第二反駁の前に私の中ではだいたい判定が出ており、第二反駁を聞いて判断を変えることは稀です。今大会は高校で1試合ありましたが)、後者のジャッジは結構います。
肯定側が確実に勝つためには、とにかくメリットを残すことが重要です。「このような理由でこの部分は残っている。そして、これは重要だ」ということを明確にスピーチしないと、取ってくれないジャッジが出てきてしまいます。この試合で言えば、交通困難で生活に支障が出ている人がいることは全く否定されておらず、その解決はとても重要だ。今は規制のせいでライドシェアができないが、それが緩和されれば、上勝町のようなところがほかにもできる可能性が高く、それが全部でないにしても、交通弱者が少しでも救われるのであればメリットを評価すべき、ということをきちんとスピーチすべきだった、ということになるでしょう。

3.今後の課題

今季の中学論題は例年に比べて難易度が高かったのですが、選手の皆さんの努力により、全国大会では、かなり優れた分析が出てきており、レベルの高い試合も多かったと思います。しかし、ここまでで何度か示唆した通り、各論に終始している議論が多く、議論の位置づけであるとか、全体としてどう考えるべきか、といったところの説明が欠けている感が否めないところでもありました。

一番重要なことは、出している議論の何が強いのか、その議論が認められると試合でどうなるのか、ということをきちんと考える、ということです。一言で言えば、議論の狙いを考える、ということです。
議論の狙いは、ストーリーを形作る戦略的なものと、そのストーリーの中で個々の議論をどう位置付けるかという戦術的なものの2つがあります。今回の否定側で言えば、主旋律として、そもそもライドシェアが上手くいくか謎であり、今広がりつつある乗り合いタクシーのような対策でないと持たない、という話を一つ考えることができるでしょう。そのためには、ライドシェアが上手くいかないというところにもう少し反論を追加したい感じがします。低栄養に対する反論は、しょせん部分的な反論にしかならないので、削る議論として割り切るということでよく、そうするとかける時間もそれなりになります。あるものを全部出す、ということではなく、何を言いたいのか、そのためにどんな議論が必要か、ということを、立論だけでなく反駁でも考えましょう、ということです(特に否定側第一反駁はそれが比較的容易です)。

あとは、事例や想定場面について具体的に考えて突っ込んでいく、ということについても、もっと意を払ってよいでしょう。肯定側としては、交通困難者の話を取り上げていますが、低栄養の議論で出ている分析対象は、上勝町よりもう少し都会めいたところのような気もします(上勝町がどんなところかよくわかりませんが)。実際のところ、買い物弱者というのは、過疎地だけでなく、車で行けるスーパーはあるけど公共交通機関が弱ってきているニュータウンみたいなところにも多いのではないかと思います。過疎地でライドシェアと言っても誰が運転するのか(ある試合の講評でも言いましたが、ウーバー運転手86歳、とかでいいのか、という話)という疑問もあり、焦点の当て方がそもそもずれていた可能性があります。
しかし、否定側も、そういったずれに具体的に反論することはできていませんでした。ずれを指摘する資料はないでしょうが、そもそも資料を読まないとしても反論できるし、それは、資料付きの反駁より有効なものになったのではないでしょうか。相手の言っていることを自分で具体的にイメージし、おかしいところを探す、ということを意識的にやれると、より鋭い反論を展開できるようになるはずです。

上記のようなポイントは、高校論題にも同様に妥当するので、そこでもまた取り上げます…といったところで今回はここまでにしておきます。

ディベート甲子園全国大会の感想 | 22:57:21 | トラックバック(0) | コメント(0)
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