愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
ディベート甲子園ルール運用例百選(1.試合の成立要件)
本来なら別の内容を書こうと思っていたのですが、どうも関東大会でルールに関係した事件があったようなので、今日はそのことについて書こうかと思っています。
問題になった論点はルール逐条解説で触れたところであり、まさか本当にこんな問題が生じるとは…とびっくりしているところです。

ルールにまつわる問題は起こらないのが一番なわけで、その意味でこの種の記事はあまり書きたくないのですが、とりあえず「入院日記」ということで、判例百選ではありませんが、ルール運用例の評釈というスタイルで書くことにします(よって言葉遣いがおかしくなる)。
というわけで新しいカテゴリーを設けることにしたのですが、今後興味深い試合などがあれば、それを取り上げて実体的議論についても評釈を書ければというところです。

なお、念のため書いておきますが、以下の見解は完全な私見です。個人的にいろいろ思うところはありますが、だからといってどうだということもないです。
(先取りして言っておくと、僕は以下の運用例について反対の立場を採るのですが、だからといって今更その結果を覆せということでもないだろうと思っています。選手関係者の方々は、これに憤っている暇があったらプレパをした方がためになると思います)


1:試合の成立要件
(関東甲信越地区大会平成19年6月17日・第12回全国大会関東甲信越予選)

【事案の概要】
この年の関東甲信越地区夏季大会は大会を2日間の日程に分け、高校については代表校6枠のうち4枠を1日目に決定し、残り2枠を2日目で決定する形式を採用している。
大会1日目、X高校は大会出場選手登録に5名(X1~X5)を登録しており、大会開始時には選手5名により出場確認がなされた。しかし、X高校は参加選手の変更その他の連絡をすることなく、X1~X3の3名が試合に出場し、X4,X5の2名は他の試合を見学していた。これに気づいたY高校の選手が、X高校は登録メンバーが5名であるのに3名しか試合に出場しておらず、細則Aの規定に違反していると主張した。
なお、X高校は大会1日目で順位1位であり、全国出場権を獲得している。

【大会本部の判断】
X高校に対して厳重注意。大会結果につき特別の処置は取らない。
理由は明らかではないが、X高校の行為は細則Aの諸規定に照らして問題があるが、試合の結果を左右するほどのものではないと考えているように思われる。なお、この決定についてはスタッフの少数意見が多く寄せられていたようである。

【評釈・解説】
判旨に反対である。

本事案では、X高校が5名で大会出場登録をしていたにもかかわらず、試合には3名しか出場していなかったことが細則Aの1項ないし4項に違反しているかどうかが問題となっている。本事案において大会本部の判断理由は明らかになっていないが、以下に述べるとおり、本事案におけるX高校の行為は細則Aの規定に明確に違反しており、大会本部としては試合不成立により1日目のX高校の結果を排除するべきであったと考えられる。

本事案においては、細則A-3項所定の手続を行っていないという手続的問題と、それがなされていたとして細則A-3項にいう例外を認めうるかという事実認定上の問題がある。それぞれ順に検討する。

細則A-3項は、4名以上で登録したチームが当日に2名あるいは3名で試合に出場する場合、主催者への事情説明を要求している。この規定の趣旨は、ディベート甲子園におけるチーム編成は1試合4名が基本であり、それに満たない人数で出場することは、どうしてもメンバーが集まらない場合などの例外的事態に限られる、というものである。この要件を満たさないまま2名ないし3名で試合に出場する場合、当該チームは試合出場要件を欠き、当該試合につき勝利することはできない。
ちなみに、このような規制が必要とされる事情としては、ディベートにおいては人数が少ない方がチーム内の意思疎通が容易となり有利に働く側面があること、経験の浅い選手を参加させるよりは経験の豊富な選手がステージを兼任した方が都合が良いということから、選手が揃っているにもかかわらず少人数でチームを編成するという動機がありうるということが挙げられる。ディベート甲子園はチームでの団結も期待されており、またできるだけ多くの選手に試合を経験させたいという意図もあって、試合のメンバーを4名としている。これに反し、チームの都合で4名未満で出場したいという希望は、保護に値しないものであると考えているのである。

これを本事案において見ると、X高校は細則A-1項に定められた大会出場要件について満たしている(5名登録している)が、細則A-3項の手続上必要な事情説明を怠っており、明文に違反している。大会出場要件と試合出場要件は別物であり、試合出場要件は各試合ごとに満たされなければならないのであるから、結局のところX高校は1日目においていずれの試合も勝利する資格がなかったということになる。

参考:細則A-3項
4~6名で登録したチームが,大会当日になって2名あるいは3名で試合出場を希望する場合には,主催者にあらかじめ事情を説明しなければなりません。主催者が事情を認めた場合には,大会への出場が認められます。


なお、以上のような処理に異論はないとしても、細則A-3項はそれに反した際の処置を予定していないという意見がある。しかし、これは法文全体を見渡していない、短絡的な理解に基づくものである。
そもそも、同項を反対解釈すれば「(主催者に事情を説明し)主催者が事情を認めない場合には,大会への出場が認められない」ということになる。もっとも、本事案のように大会受付後の選手数変更があった場合は「大会への出場」についての議論ではないので、同項を類推適用するとともに、細則A-4項にいう「2名以上の選手」が、大会受付のあった選手を指すと解し、5人登録があったにもかかわらず3人しかいないことをもって同項の選手不到着にあたるとし、不戦敗になると解することになる。いずれにせよ、細則に定めた手続を経ずに4人未満で出場した試合については、ルール上勝利することができない。
(ちなみに、5人登録の場合にそのうちの4人で出場しているという場合には、ルール上何の問題もないことはいうまでもない。細則Aの諸規定が2~3名での出場につき例外的な要件を課している趣旨は、前述の通り4名での出場を原則とするところにあり、登録された選手が全て試合に出場しなければならないというものではない)

以上の通り、X高校は細則A-3項ないし4項に違反しているのであるが、大会本部がこの点につき厳重注意で済ませた理由としては、かかる違反が手続上の瑕疵にとどまり、実質的には違法ではないという判断が大きいと考えられる。現に、X高校の引率者はルールを知らなかったがゆえの不注意であると弁解しているという。
ルールの不知が違法を看過する理由とならないことはいうまでもないが、本事案の具体的事情によれば、X高校が単なる不注意によって細則Aの規定に違反したかどうかは極めて疑わしいように思われる。以下では、この点について見ていく。

本事案の特殊な点としては、(1)X高校は大会登録及び受付の時点で5人での試合登録を行っていること、(2)登録された5人の選手X1~X5はいずれも大会会場に来ていること、(3)試合に出場しなかったX4,X5は別の試合を観戦していること、の3点が挙げられる。

(1)の事情について、これは大会出場要件と試合出場要件がともに要求されていることを知らず、前者を満たせば後者も当然に満たしているものと誤解していたためのことであると考えることもできる。しかしながら、常識的に考えれば、4人未満のチームの大会参加につき事情の説明を要求していることから、試合においても4人未満で出場する場合に同様の手続が必要であることは明らかであり、この点についてX高校の指導者には重過失があるといえる。
また、(2)の事情をも考え合わせれば、X高校は少なくとも大会当日の時点では試合に登録人数未満の選手数で出場する意図を有していたことがうかがえるところ、これを受付の時点で申告しないことは、細則A-3項の規制を潜脱する意図があったと疑われても仕方ないことになる。
さらに、(3)の事情から、X4やX5は試合に参加しようと思えば参加できたのであり、病気その他の理由でやむをえず試合に出席しないという事情は存在しないことが明らかである。X高校は「X4やX5は準備不足であるので試合に出場させない」と主張しているようであるが、そのような理由はまさに上で述べたルールの趣旨に反するところであり、チームの勝利に資するために出場選手数を法定の人数以下にすることを禁ずるのが細則Aの1項ないし3項であるということからすれば、むしろ悪質な動機に基づくものであると評価できる。準備不足であるならきちんと準備させるべきであり、それが無理であったとしても、沈黙することを覚悟でその選手を演壇に立たせなければならないというのが、ルールの要求する結論である。

従って、X高校は実質的にも細則Aの要件を満たしておらず、たとえ細則A-3項の手続を経たとしても、3人での出場は認められなかったと考えられる(不当にも認められた場合にX高校の実質的瑕疵が治癒されるかは別の問題であるが、一旦認められてしまった場合はX高校としてもその決定を信用するであろうから、瑕疵の治癒を認めざるをえないだろう)。

以上から、X高校は手続的にも実質的にも試合出場資格を欠く状態で大会1日目を終えたことになる。これに反してX高校のルール違反を厳重注意にとどめた大会本部の処置は不当であったというべきであるが、かかる処置を覆し、X高校の大会1日目の結果を事後的に覆すことが可能であるかは別途の問題である。
大会終了前にX高校の違法に気づき、それまで行われた試合についてX不戦敗の決定を下すことは当然可能である(本事案のような大会形式であれば、勝敗や点数を変更するだけで足りる。トーナメント形式の場合試合のやり直しなど面倒な点があるが、X高校の全国出場資格はく奪など、結果の書き換えなどは可能である)。しかし、大会が終了し、X高校に対して厳重注意の裁定が下された後に、さらに処分を追加することが必ずしも適切であるとはいえない。一旦大会本部が裁定を下した以上、この事案については解決がなされたと見るべきであり、同一事情に基づき同一機関が二重に処分をすることは、手続上の公正を欠く。
従って、本事案における大会本部の判断は不当であるが、一旦決定されてしまった以上、X高校の全国出場資格は保持されるということになろう。

なお、X高校がルールに違反していることをもって、X高校の関東甲信越地区予選の順位を落とすべきであるとの主張もあるようだが、細則A-3項ないし4項はその違反について大会の不戦敗を定めるのみであって、大会結果につき別途の変更を可能とするものではないから、そのような処置は不可能というべきである。可能な処分としては、X高校のした全試合を不戦敗とした上で結果を出し、5位のチームを繰り上げで全国出場校とした上で、X高校については大会2日目で改めて全国出場資格を争ってもらうということになるだろう。
本事案の場合、X高校は2日目において登録された5人のうち4人を試合に出場させるか、2日目までに大会登録人数を3人にする(X4,X5の登録抹消を申し出る。細則A-2項)ことが必要である。しかし、後者の処置については、X4,X5を登録抹消し、登録人数を4人以下に変更する理由が必要であるところ、上述の通り「X4,X5が準備不足である」という理由は3名以下で出場する理由とならないため、別途の理由がない限り、登録抹消請求は認められないことになる。

本事案で問題となった主要な点については、以上の通りである。その他本事案に関係する論点としては、ルール違反の主張適格(試合当事者でない第三者たるY高校の選手がX高校の手続違反を指摘できるか)や理由付記を欠く裁定の効力(大会本部の処分理由が不明確であることの問題点)などが考えられるが、この点については別論に譲る。

最後に、本事案ではX高校の行為が違法であることは明らかであるが、これらの問題はX高校の選手に帰責されるべきものではない。確かに、X高校の選手について、出場選手を絞ることで試合を優位に進めようという意図はあったと考えられるし、そのことはディベート甲子園のルール上望ましくないことであるが、そのような問題が彼らの勝ち取った大会1日目の結果や、議論の内容を否定し去るものではないことはいうまでもない。その点で、選手を非難することは筋違いであるし、本評釈もそのような意図で書かれているものではない。
本事案のような問題が発生したことは、X高校指導者の不注意や、大会運営の中で試合出場要件の確認体制が十分整っていなかったことに原因がある。特に後者については、大会出場登録者の名簿を司会に所持させ、試合出場者が全員登録された者であるか、3名以下のチームの場合、主催者からの許可を得ているかどうかを試合前に確認するという運用が望まれるところである。また、関東甲信越支部においては、試合の司会及びタイムキーパーを対戦チームの引率者に行わせるという慣行があり、本事案のような問題を見過ごす理由となっているようにも思われる。試合を管理するスタッフとしての司会者について大会本部が準備し、公正な試合運営を実現しなければならない(引率者が司会を行うという慣行にはその他多くの問題があり、一刻も早く廃止されるべきであるというのが評者の見解である)。

<参考文献>
評者のものとして
「ディベート甲子園ルール逐条解説(1.大会出場要件)」(2007年5月1日『愚留米の入院日記』)
「ディベート甲子園ルール逐条解説(2.試合の成立)」(2007年5月2日『愚留米の入院日記』)
がある。
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