2022-04-15 Fri
どうも皆様ご無沙汰しております。春のJDAも終わってしまい、ディベート甲子園の論題発表からも期間が立っており、書くことは色々とあるのですが、まずは負債を終えよう(終わるとは言っていない)、ということでジャッジ入門講座の続きです。講義のPPTの10~11枚目(/12)で、いよいよ大詰めのパートです。
講評は入門講座では不要であるように思いますが、ジャッジを語る上で触れないのもどうかと思うので解説を行っています。昨年のディベート甲子園で全くパッとしない講評を動画に残してしまったので、そんな人が書いてもどうかというブルーな気持ちではあるのですが、そこは反面教師ということでスルーしてください。以下ではその辺の反省も反映しています。
ジャッジ入門講座 第8回
スピーチを踏まえた判定の出し方
ここから、試合後の協議について説明していきます。協議の前提として、各ジャッジは独立して判定を出す必要があります。どちらが勝ったのか、それは何故か、ということです。一般的な判定の出し方は第3回と第4回で取り上げたので繰り返しませんが、ここでは、実際にスピーチを聞いて判定を出すうえで考えるべきことを若干お話しします。
ジャッジの中でたまに問題になるのが、第二反駁で触れられなかったけど残っている議論をどう評価するかということです。第二反駁で触れなかったとしてもジャッジの心証通り取る立場から、第二反駁で触れなかった場合には判定の材料にしないという立場まで、色々な考え方があります。このあたりはジャッジによって異なるところですが、第二反駁で触れないと取らないという立場は、それまでの議論で十分主張立証されているのに第二反駁で落としただけで無視することに合理性があるのかという疑問があります。第二反駁者には議論を放棄する意図はないでしょう。それでもなお形式的に触れる必要があるのだとすれば、第二反駁で「これまでの議論を全部伸ばしてください」とでも言えばそれで足りるのでしょうか。それでよいのだとすればそのような儀式に時間を割かせる意味はないし、それでは足りないのだという場合、全論点を説明し直す必要が生じ、真に重要な争点のスピーチが手薄になってしまいます。
私自身は、第二反駁で触れなかった議論も自由に判定で考慮するが、第二反駁で説明した内容を最終の主張とするので、それと矛盾する議論は低く評価したり無視することにするし、第二反駁の内容からしてチームとしてはあまり重視していないと感じられた場合には判定上の重みづけ上を低くする、といった処理をしています。第二反駁で触れることを要件とすることは行き過ぎではあるものの、総括のスピーチではそのチームの最終的な立場が示されることになるので、その内容を踏まえてこれまでの議論を見た結果、軽視ないし矛盾する議論は必然的に低く評価される、という考えによります。ただ、選手にとっては、第二反駁で言っていようがいまいが出した議論として認識されているので、理由を説明する際にはそれを取り上げなかったり軽視した理由を説明できるようにしておく必要はあります。
どっちの判定もあり得そうだというときにどうするか、というのも実践的な悩みです。レベルの高い拮抗した試合ではよくある悩みですし、レベルが高くない試合でも、どっちもどっちという形で悩ましいことは多々あります。推定で否定側に入れる、というのはなるべく避けたいということは以前お話ししましたが、そもそも「こう取ればメリットが大きく、こう取ればデメリットが大きい」という、推定ではないところで悩むパターンの場合、何となく否定側、という逃げ方もできません。しかし、悩んでいるということは、どちらもあり得るということであり、どちらの結果でも間違いではありません。ということで、両方あり得るという前提で、清水の舞台から飛び降りましょう。
大事なことは、どこで何故悩んでいたのか、ということを明らかにすることです。その上で、「私はこちらを選びました」と説明すれば、それで判定として成り立っています。もちろん、選んだ理由が具体化できれば一番よいですし、それを目指したいのですが、突き詰めると好みの問題でしかない、ということもあるわけで、詰め切ったところで「どっちもどっち」というのは仕方のないことです。ただ、どこで悩んだのか、なぜ悩んだのか、ということはギリギリまでは詰め切ってください。それができていれば、判定理由として「ここはジャッジ任せになった」と説明できるし、選手の側も、そうならないようほかの部分で改善する必要があったことが分かります。理由がつけられないことの理由を明らかにできれば、理由がつけられないということも判断の理由として成り立ち得るということです。このように考えると、悩みが少し楽になる場面もあると思います。
協議の方法
一人でジャッジをする場合にはそのまま判定講評を述べることになりますが、複数人でジャッジする場合、それに先立ち協議をする必要があります。もっとも、ここでいう協議は、判定理由をみんなで考えるとか、判断を合わせるということではなく、各ジャッジの判定理由を確認するという作業を指します。副審の立場として参加する際には、主審に自分の判定を分かってもらうことが協議の一番の目的であり、ついでに講評で伝えてほしいことを述べることができれば完璧、ということになります。
副審として判定理由を述べる際には、しゃべりすぎを避けるよう気を付けましょう。協議時間は限られているので、投票理由の要点を簡潔に伝える必要があります。メリット・デメリットの3要件をざっと説明するイメージですが、実際の話し方としては、メリット・デメリットを大きめに評価した場合にはその理由、小さく、あるいはゼロと評価した場合にはその理由を挙げて、関連する主張立証の評価を簡単に述べる、といった感じになるでしょう。例えば、「メリットをほとんどとらなかったので否定側に入れました。解決性のところで~~~という話がありましたが、そもそも立証が弱いのと、否定側から~~~という有効な反論があったので、ここで切っています。デメリットは、発生過程がやや微妙で、~~~という反論も当たってはいると思いますが、~~~という限度では残っていると思いますので、デメリットが上回っているといえます」といった話し方が考えられます。説明が足りない場合には主審が質問してくれるはずです。もっとも、実際には、話していると色々喋りたくなってしまうもので、私自身もそうなので、偉そうなことは言えませんが。
改善点についても簡単に触れられるとよいでしょう。主審から何かコメントがないかと質問されることもあります。コミュニケーション面の改善点でも、議論面での改善点でも結構です。具体的なスピーチの内容も指摘した上でコメントできると、講評で使いやすいので主審に喜ばれるでしょう。
入門講座の内容からは離れますが、主審を担当する場合の協議の進め方についても少し触れておきます。
最初に投票結果を聞くわけですが、その後で、誰から判定理由を述べてもらうかということを考える必要があります。時間に余裕がなく、判定が割れていない場合、自分の判定理由をざっと述べて、違うところを副審に指摘してもらう、というスタイルが考えられます。ただ、これは副審の意見を十分吸い出しにくいのと、副審にとっての勉強機会を奪うので、副審経験の浅いジャッジが入っている場合にはできるだけ避けたいところです。最初に話す人が一番喋りやすいので、経験の浅い人から話してもらう、というのが理想的なのですが、経験が浅いと説明に慣れていないので時間を取られがちではあるので、スケジュールが許すかどうかを考えながら進めるようにします。
他方で、判定が割れている場合には、先に少数意見を聞くか、多数意見を聞くかというところで悩みが生じます。基本的には少数意見を先に聞くのがよいかなと思いますが、自分が少数意見の場合や、少数意見のジャッジがいかつい場合、多数意見から話を聞くということもあるでしょう。逆の判定理由を聞いてから判定を話すというのは難しい面もあるので、経験の浅いジャッジが少数意見の場合、気を遣ってあげるのがよいでしょう。
説明を聞いている中で、判断が分かれておりより詳細な理由を知りたいところ、講評の中で説明した方が良いと思われるが副審が説明を割愛しているところ等があった場合、適宜質問するようにしましょう。せっかく協議しているので、副審の判定理由も積極的に吸い上げて、なるほどと思ったところは講評に取り込んでいくことで、より充実した講評をすることができるようになります。
講評と判定
これも入門講座の内容とは離れますが、講評判定スピーチについても説明しておきます。色々なやり方があるので、どれが正解ということはなく、いろんな講評を聞いて自分なりに考えていってほしいのですが、その参考になれば幸いです。
最初に、判定結果を最初に言うか、後で言うか、ということです。アカデミック(調査型)ディベートの世界だと、英語系の人は最初に言うことが比較的多く、日本語系の人は後で言うことが多い、という感じがします。英語アカデミックでは昔は口頭での講評をやらなかったようで、その関係もあるのかもしれません。パーラメンタリー(調査型)ディベート、これは英語がもとより圧倒的多数派ですが、こちらでは最初に言う人が多いというか、最初に言わないと不機嫌になる人が結構いるような印象です。4チームで試合をするBritish Parliamentary Styleだと、そもそも最初に判定を言わないと理由を説明できない、という事情もあるのではないかと思いますが、私は詳しく語る能力を持ち合わせていません。
最初に言う派の理由は、判定が気になるから、という聞き手側の立場からの意見が主であるように思います。これは好評のスタイルにも関係するところですが、判定を言ってから理由を説明するほうがやりやすいという人もいるでしょう。後に言う派の理由は、最初に判定を言うとそれに気を取られて講評を聞かなくなるということがメインです。ディベート甲子園ではこのような理由で後に言うことが推奨されているとの認識です。確かに、判定を聞いて喜びの雄たけびをあげたり、負けて泣いてしまう選手は結構いるので、個人的には、少なくともディベート甲子園では後で言うのがよいと思っています。多分選手もいきなり判定を言うとびっくりするでしょう。ただ、どちらが正解ということはなく、個人の好みや場面によって異なってよいものだとは思います。私も、練習試合では最初に判定を述べてから理由を述べることが良くあります。判定への影響度などをクリアに説明する上では、オチが分かっている方がやりやすいということはあります。最後に判定を述べる前提で、結果が見えないように話そうとすると、どうしても言葉が濁ってしまうところがあります。まぁ、途中でバレてしまう場合がほとんどなのですが。
次に、講評判定スピーチで話すべき内容です。講評判定スピーチには、大きく分けて3つの目的があります。1つ目は、当たり前のことですが、判定理由を正確に伝えること。2つ目は、より良い議論につながるよう、今後の改善点を伝えること。3つ目は、発展的なところですが、ディベートを楽しいと思ってもらうこと。これら3つの目的は、相互につながっています。判定理由をきちんと伝えること自体教育的ですし、深いところまで戦いの経過を伝えることは、ディベートの面白さにつながっていきます。
また、これらの目的は、試合をした選手にとってどうか、それ以外の観戦者にとってどうか、という2つの方向に向けられる必要があります。選手に対して納得感の高い詳細な説明と、ディベートをよく知らない保護者にとって分かりやすい説明は、重なるところも多いですが、違いのある部分もあります。ここをこう変えると良い、という対戦者向けのアドバイスだけでなく、この議論はよかったので真似してほしい、という観戦者向けのアドバイスも大切です。選手を励まし、健闘を称えることに加えて、試合の面白かったところを聞き手に伝え、負けたチームにも聴衆にもいい試合だったと思ってもらうこと。色々と考えることはありますが、全部を実現することは難しいです。私もどこまでできているか怪しいものですが、意識して取り組むことで、少しでも広がりのある講評ができるようになるといいなと思っています。
3つの目的を果たすために、講評の構成はどうしたらよいか。ひところよく言われたのが、P(Pathos/Passion)の要素とL(Logos/Logic)の要素のバランス、ということです。当初は、なんかよさげなことを言ってるだけ、すなわち、P一辺倒で中身のない講評を揶揄する方向で言われていたのですが、今はそういう講評はほとんど見られなくなりました。実際にはPとLのバランス、選手に訴求する要素と、議論の評価をきちんと伝える要素を兼ね備えた講評が理想です。特に、中高生の青春がかかった大会やトーナメントの上の方の試合、多くの観客がいる試合では、Pの要素が重要になってきます。もっとも、選手でならしてきた多くのジャッジは、どうしてもL寄りになりがちで、Pの要素を入れようとするとわざとらしくなってしまいます。私もよくそう言われます。事実わざとやっている場合も少なくないので仕方ないのですが、自分が何を言いたいかではなく選手に何を伝えたいのか、ということを考えると、自然とPとLのバランスが取れるようになると思います。
具体的な講評の構成としては、改善点を伝えるパート、判定理由を伝えるパート、試合をやや離れてディベートの意義などを語るパート、に大きく分けることができますが、これらは重なり得るものです。判定理由を述べる中で改善点に言及することもあるし、ディベートの意義を話しつつ、それに絡めて試合の良かったところ悪かったところを述べる、といったこともあります。そのような重なりや応用はあり得るものとして、この3つのパートがあるということを意識し、どこで何を話すか、今自分はどれを話しているのか、といったことを考えると、スピーチの構成を考えやすいです。
ということで、私がよくやる講評判定スピーチの構成は、以下のような流れです。これが正解ということではないですが、オーソドックスなほうだとは思います。フルで喋るとかなり時間がかかるので、時間がない場合はかなり自制して省く必要があるのですが、その方法を上手く教えることは私にはできないので、皆さん気を付けてください、とだけ申し上げておきます。
① 論題の趣旨、試合の特徴的議論を参照しつつディベートの意義などを語る(P要素。練習試合や予選など多くの場合は省く)
② 試合の良かったところ、改善すべきところを話す(L要素)
③ 判定理由を述べる(L要素)
④ 前向きなコメントを語る(P要素。これも多くの試合では省略ないし大幅に割愛する)
※判定は④の前か後に述べます
P要素の解説は私の専門ではないので省きますが、L要素とされる、改善点の指摘や判定理由の述べ方について簡単に触れておくことにします。
改善点の指摘は、できるだけ具体的にしてあげると良いです。改善後の姿をどこまで説明するかというのは賛否あるところで、議論の内容にわたるところで決めつけ的にコメントするのは介入しすぎでよくないようにも思われますが、コミュニケーションの指摘であれば、どうすればよいのかを具体的に説明しないと分からないでしょうし、議論の中身でも、こういうアイディアはあり得る、とか、こういう観点でリサーチしてみてもよいのではないか、といった程度はよいでしょう。この部分で出していた議論をここにも当てはめることができるとか、相手方のこの議論をこう逆用できる、といったテクニカルなコメントも、議論の押し付けになるわけではないので、許容されるのではないかと個人的には思っています。また、改善点の指摘はなるべく両方のチームにしてあげることや、余裕があればよかった点の指摘も両方のチームについてしてあげると、聴衆への参考にもなるし、選手の満足度も高まります。なお、褒める場合は最初に褒めてから改善点を言うほうが選手に与える印象が良くなると思います。
あと、私にはちょっとできない芸当ですが、ジャッジの中には、選手の名前を全部記録した上で、一人一人にコメントをしてあげる、という方もいます。時間の関係で、議論の中身についての説明はどうしても薄くなってしまいますが、このような講評ができると非常に教育的だろうとは思います。
判定理由の述べ方についても、色々な方法があります。私は、普通にメリット、デメリットを頭からさらっていくスタイルですが、山脈と呼ばれる某有名ディベーターが、第26回ディベート甲子園の決勝講評で取った、分かれがなく結論が見えやすい争点と判断が分かれる争点に分けた上で、前者については結論をさらりと述べ、後者は丁寧に説明していくというスタイルが大変参考になります。分かりやすい講評のスタイルには色々とあると思いますので、この動画も参考にしつつ、考えていきましょう。
複数人ジャッジで判断した試合で判定理由を述べる上では、判断が分かれたところについて、なぜ割れたのか、ということを説明することが重要です。どこを詰めれば割れないようにできたのか、ということも伝わるような説明ができるとベストです。もっとも、判断が分かれたところの説明に気を取られすぎると、争点の説明を漏らすという禁忌につながるリスクがあります。私も、副審のやや変わった判定理由を説明することに時間を割きすぎたため、判定には影響はないものの争点になっていた部分の説明を落としてしまいました。選手目線では不信につながる事態ですので、メリハリはつけるとしても、なるべく争点を漏らさないように説明していくことが大事です。
自分は何を伝えたいか、どう伝えれば選手や聴衆が満足するか、ということを考えつつ、実際にいろんな人の講評を聞いて、よいなと思った人の喋り方をパクるとかしつつ、自分なりのやり方を作っていってください。
最後に一つだけ、心構えとして述べると、ジャッジだからといって、上から目線でコメントをする、ということだけはしないように気を付けてください。ジャッジの中には、ごく少数ですが、自分が気持ちよくなりたいからジャッジをする、選手へのリスペクトを欠いたジャッジをする、という人がいることも否定できません。それはジャッジとして失格ですし、そのような気持ちで講評をすれば、選手や聴衆の心がディベートから離れてしまいます。自分の話を聞いてほしいというだけであれば、そういう店に行ってお金を払ってやってください。選手のために伝えたい、という気持ちがあってこそ、講評判定という営みに意義が生じます。判断者としての立場から人の議論を批評するという、気持ちが大きくなりがちな仕事であるからこそ、自分を律して務めるようにしてください。もっとも、このような注意は多くの心あるディベーターにとっては不要であり、他方で、聞いてほしい人のところには届かないわけですが…。