愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
第14回JDA春季大会の感想
今日は3月8日に開催された第14回JDA春季大会の感想を書くことにします。論題は前期推薦論題の「日本はカジノを合法化すべきである」です。
僕は当日運営スタッフとして参加しており、試合はジャッジとして入った第三試合と決勝戦しか見ていない&決勝戦はタイムキーパーをしていたので概要しか分からないのですが、細かい議論の内容を書くより一般化できそうなことを書くほうがよいと思うので、印象に残った決勝戦のことを中心に書いてみることにします。

その前にJDA大会について簡単に紹介しておくことにします。ディベーターの中にもJDAのことをよく知らない人がいると思うので…。
JDAというのは日本ディベート協会(日本の競技ディベート界で最も権威のある団体。大学以降の日本語・英語ディベートで使用される推薦論題を策定したりする)の略称です。そのJDAが春と秋に大会を開催しており、参加資格に制限のない日本語ディベートの大会では一番大きなものとなっています。秋のほうが規模が大きく、論題発表後から時間が合ってプレパ期間に余裕があることや春の大会で運営をしている名物ディベーターの安藤さんが出てくることもあって盛り上がるのですが、春のJDAもシーズン最初で様子見ということもあってか英語ディベーターが多めに出てくる傾向にあり、面白い試合を見ることができます。

JDA大会の特徴は、全体的にジャッジの質が高い(僕のような例外もありますが…)ことと、社会人やESSディベーターなど様々なバックグラウンドを持ったチームが参戦していることがあります。特に日本語ディベーターにとって英語ディベーターと試合をする機会はなかなかなく、刺激になります。英語ディベーターは日本語であっても全体的にスピーチが上手く、リサーチも平均的日本語ディベーターより充実している印象があります。議論にも特徴があり、中にはおよそ取りえない議論も散見されますが(日本語でもありますけど)、違った角度から面白い議論を出してくるチームもあり、学ぶべきところやそうでないところを考えながら聞いていると非常に勉強になります(*)。
また、ディベート甲子園に取り組まれている方にとっては、いわゆる大御所も含めて日ごろジャッジをしている人間が出場することもあり、そういう人の試合を見ることは良い刺激になると思います。僕も昨秋に出場しましたが、あれも「何じゃこのネタチームは」ということで変な刺激にはなっていたと思います。
そういうわけで、関東にお住まいのディベーターはJDA大会を観戦されることをオススメします。冬には九州大会もあり、関東のそれより規模が小さくはありますが、九州の方はこちらでも勉強になる試合を見られると思います。

(*)この点、実は日本語ディベートと英語ディベートには交流がなく、それどころか日本語側では英語ディベートで出ている変な議論(実益のないTopicalityなど)を馬鹿にする傾向があり、英語側では日本語ディベートの規模の小ささや平均的レベルの低さを馬鹿にする傾向があるように見受けられ、相互理解が進んでいない現状があります。
両者の批判にはそれぞれ正当なものがあり、(僕は日本語ディベートの人間なのでバイアスはあるでしょうが)伝え聞いたところで英語ディベートで回っている議論の中には無益なものや論理破綻したものがあると感じますし、一方で日本語ディベートのレベルが平均的に低い――特にリサーチが少ない――ことも事実だと思います。しかしながら、JDAに出てくる英語ディベーターを見ていると、かなりレベルの高い選手がいることは分かるし、優れた議論を展開するチームもたくさんあるということを聞いています。日本語ディベートでも、僕はともかくとして高いレベルの選手は少なからずいるわけで、いわゆるセオリーの理解についても勉強しているディベーターであれば十分追いついているはずです。
本来、使用している言語が違うだけで、日本語ディベートも英語ディベートも同じ競技ディベートを行っているという共通地盤があります。競技ディベート全体が縮小傾向にある今、よりよいディベートをしていくためにはもっと両方が歩み寄り、学びあっていける環境を作っていかなければならないはずです。日本語ディベーターが英語に挑戦するのが難しいという事情があってなかなか英語ディベートの試合を見る機会はないのですが、僕も英語ディベートでよく回っているという理論的問題については聞きかじりの範囲ではあるもののいろいろ考えているところです(今のところ批判的な議論が多くなってしまっていますが…)。
その他、ここでは詳述しませんがディベート界には大御所と現役ディベーターの確執(?)などよくわからない対立関係があったりもするのですが、そういう不毛な状況が解決されて実りあるディベートに近づくことを期待してやまないところです。



さて、それでは試合の感想を。第三試合はESSのチーム同士の試合をジャッジしてきました。議論はAffがヤミカジノの適正化っぽいADを出し、Negが依存症増加のDAと雇用環境悪化のDAの2本立てで勝負し、依存症が増えるか減るかというのが主要な争点となった試合でした。
細かな議論は省いてこの試合で気になったことは、証拠資料の内容と主張(Claim)の内容が合っていないものが多かったということです。証拠資料の扱いについては注意すべき点がいろいろあるのですが、その中でも証拠資料の内容とそれが裏付ける内容が乖離しないことというのは基本的な要求です。よくあるのは主張が言いすぎている(Over claim)ことですが、この試合では証拠資料の内容とおよそ無関係な主張がついていたりして、せっかくの資料が死んでいるというもったいないこともありました。証拠資料を使う際には、内容に照らして考えるようにしましょう。

決勝戦はAffが早稲田ESSのチームでNegが創価D-netでディベート甲子園ベストディベーターこと時光先生(貫禄があるので以下「先生」と呼称する)のチーム。先生は日本語ディベートをやってる大学生の中で一番スピーチが上手いと思います。当然僕よりも上手です。見た目に反して高い声で聴衆を意識したねっとりとしたスピーチを聴かせてくれます。
結果はというとNegが6-1で勝利でした。議論の中身は後で触れますが、実はこの試合、Negが2NCで6分あるところ選手がタイマー設定を誤って4分にしていたらしく、2分少なくスピーチをしていました。僕はタイムキーパーなので気づいていたのですが、終わった感を出して降壇していたこともあり、ルールの関係上スピーチ終了の宣言があるとステージを終えることになっているので、そのまま終わりにしてしまいました。今思えば注意してあげてもよかったなぁと少し反省しています。
そんなエピソードもありましたが、Affも決勝に残るだけあってスピーチが上手で、全体的に良い試合でした。両チームとも秋のばるさみこすよりいい仕事をしていたように思われます。

さて、今回は決勝戦の中で先生がした1NRが非常に評判がよく、JDA会長の矢野先生が思わず拍手したという印象的なものでした。というわけで以下ではこれを振り返りつつ、学ぶべき点とより突っ込んで検討すべき点を簡単に記しておくことにします。

試合全体の流れとして重要なものを紹介しておくと、Affが違法カジノ減少で合法カジノになることで管理が可能になって依存症が減るといったケースで、Negは新たにカジノに行く人やカジノ従業員が依存症になるというDAを出していました。
ADは無難な感じだったのですが、全体として話が整理されきっていない感がありました。これは第三試合で見たケースもそうだったのですが、違法カジノが合法カジノに置き換わることで何がよくなるのかということをきちんと分けて明示し、内因性(+重要性)と解決性のセットで意識して説明していけば、DAとかぶらない議論を伸ばすのも容易になるしジャッジへの訴求力も増します。例えば、①違法カジノと違い合法カジノは管理ができるので依存症対策が可能になる、②違法カジノはぼったくりなどで客が苦しむが合法カジノは消費者保護が可能、③違法カジノは収益が犯罪につながるが合法カジノは収益が税収になり国民に還元される、など。利益を享受する主体で分けて整理するとかして利益の多様性を強調することもできます。
DAはPlan固有の話だという説明が上手かったのですが、そのあたりをもっと強調してスピーチしていってもよかったかもしれません。「違法カジノは既に規制が強化されている」として内因性への反論をしていたので、それとの対比でDAを伸ばしてもよかったんじゃないかと。すなわち、「Planは問題解決にとって必要不可欠でない一方、Planを取ることで新しい問題が出るから、ケースで言われている問題解決のためにはPlanを取るべきではなく現状のまま(あるいはCounterplan)で進むべき」ということです。議論構造の基本として、内因性と固有性は対を成すものであるということを理解していると議論展開が説得的になりますから意識してみるとよいでしょう。

ここで、問題の1NRに話題を移します。Affはなぜか(全体のストーリーとは関係なく)ケースの中で雇用が増えるという話をしていたのですが、これに対してNegは2NCで「カジノで増える雇用は低賃金のもの(飲食店やホテルなど)が多い」というエビデンスを読み、雇用対策としてはあまり有益でないという趣旨の反論をしていました。また、DAの深刻性では「アメリカのカジノでは10セントのスロット台が主力で、低所得者を取り込んでいる」といったエビデンスから低所得者が搾取されるという議論をしていました(これ自体強いかどうかはやや微妙ですが…)。
これを踏まえ、1NRでは次のようなまとめをしていました。「カジノは低賃金の雇用を生み出すとともに低所得者を食い物にするギャンブルであり、構造的に低所得者を搾取する良くないものであるから、推進すべきでない」と。第二反駁でなく第一反駁でケースサイドとDAを絡めてストーリーのあるまとめを提出したという点では非常に秀逸というべきで、事実このまとめがNegの勝利に大きく貢献したようでした。

ここから学ぶべき点は、自分たちの出す議論に一貫したストーリーを用意すること、そのために立論と反論を有機的に連携させるような議論を作っていくことの重要性です。なかなか難しいのですが、これができると議論としても強いし、何より聞いていて格好いいです。
一方、上記の議論には深く突っ込んでいくとおかしな部分もあります。ディベーターの皆さんは、この「おかしな点」に気づき、その上で議論を改善できるようにならなければなりません(後で試合を批評する立場だからこんな偉そうなことを書けているということは言うまでもありませんが)。というわけで、以下ではそのあたりを見ていきましょう。

Negの言い分は、「カジノは低所得者を食い物にするギャンブルである。それだけでなく、低所得の雇用しか生み出さない」というものです。この中で問題とすべきは、後段の雇用についてです。Planによってカジノができると新しい雇用が生じるわけですが、Negはこれが低賃金であるから無意味だといって反論しているわけです。しかし、このような反論が成立するとすれば、低賃金の雇用は無意味であるどころか低所得者を作るという意味で悪い、ということになってしまうところ、このような言説は低賃金の職業についている人を侮辱する発言ともとれてしまいます。ホテルの清掃員やレストランの従業員に失礼ですよね。
何が問題かというと、何にせよ新しく仕事が増えるということは何も仕事がないよりはましであるという当然のことを無視した上で、「そんな仕事ならないほうがいい」ということを実質的に言ってしまっていることです。もちろん、低賃金な職業なのでそれほど救済効果はないという趣旨で反論するのであれば意義はありますが、今回のように「構造上よくない」とまとめてしまうと、行き過ぎた反論になってしまいかえって突っ込まれてしまうということです。Affはこの点を指摘して「それでも仕事がないよりいいじゃないか。低所得者がカジノにのめりこむとしても、それは自分の選択であり、仕事がなくて困窮しているよりはよいのではないか。Negは低所得者がかわいそうといいつつ、実は低賃金労働者が悲惨という固定概念から彼らを馬鹿にしているだけではないか」という議論を展開できたはずです。事実、僕もそう感じましたし、Affに入れたマイナージャッジの方も同様なことを考えて投票したそうです(ちなみに僕は1NRのまとめは上述の理由で否定するものの依存症の議論でDAが上回りNegかなぁと思った)。

1NRのストーリーで議論を展開するためには、雇用への反論を少しひねる必要があります。例えば、カジノによってその地域の他の店がつぶれてしまい、そこで働いていた人がより低賃金のカジノ産業に吸い込まれてしまうので労働環境が悪くなるといった議論がありえます。地方にレジャーセンターのような形でカジノができれば、地元の飲食業や小売店に打撃があるということは十分言えるでしょう。そうなれば、単に雇用が創出されるのではなくこれまであった雇用が別のものに置き換わるだけという話ができ、それ単独で「労働者の搾取」という話にできますから、1NRの議論に見事にマッチします。

そんなわけで、一見すごそうなまとめも、分解してみるとおかしな議論が含まれていることがあります。まとめてしまったがゆえに無理が生じてしまうことがあるという意味でも、常に個々の議論を吟味し、それが提示された文脈の中でどういう意味合いをもつのかを意識して検討できるようになれば、さらに議論は深まっていきます。
以上の指摘にもかかわらず、今回先生が見せた1NRが良いスピーチであったということに変わりはないのですが、ディベーターとしてはそれに満足せずに検討しなければなりません。自分が選手だとへこんでしまうのですが、厳しすぎるくらいで議論を見ないと得るところは少ないというのが、ディベートの真理だということです。

もちろん、僕の書いていることについても同じことが妥当するわけで、上述の指摘がどこまで正鵠を得ているかはこれを読んだ方が各自検討すべきことです。およそディベートに限らず、議論というのはそういうものであるわけですが。

次回はルール解説の6章を終えて一区切りをつけ、4月からはディベートネタでない入院生活のはなしでも書いていこうかなぁと思ったり思わなかったりしています。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
copyright © 2005 愚留米の入院日記 all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。