愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
NADE春季大会(関東・東海)を観ての雑感
ルール解説の続きを書くことにしていたのですが、NADEの春季大会でジャッジをしてきたこともあり、せっかくなのでその感想を先に書くことにします。

この春はいろいろあって関東大会と東海大会高校の部でジャッジをすることになりました。東海大会では3人ジャッジの主審3試合のうち2つがマイナーだったりして大変だったのですが、おかげさまでいろいろ試合を見ることができ、楽しませていただきました。
例によって議論の詳細を再現するのではなく、一般化できそうな考察という形でいくつかの項目ごとに感想を述べさせていただきます。試合後の講評みたいな感じで読んでいただけると何か得るものがあるかもしれませんが、高校論題はなかなか難しいので――関東支部長は「高校生に身近な論題」と言っていたのですが、高校生はおろか大学教授にとっても「身近」とはいいがたい論題だと思います。入院患者はなおさらのことです――僕の認識が間違っている部分があるかもしれません。そういうわけで、身近でない論題を明快に論じるためにも、皆さんはしっかり裏づけを取った上で議論を造るようにしましょう。

それでは以下、大会を見ての感想です。


最低限の礼儀は守りましょう
議論の内容に至らないこのような話題から書くのは僕としても非常に不本意なのですが、関東大会で非常に残念なことがありましたので、最初にマナーの点について書かせていただきます。
関東大会の表彰式で、優勝した高校の生徒が騒ぎながら登壇しておりました。最低限の礼儀も弁えない行為で、正直言ってとても不快な思いをさせられました。彼らがディベートに打ち込んでいることは評価していますし、優勝したことも素晴らしいこととは思いますが、あのような行為に及ぶことはディベート云々ではなく常識に欠けたものであり、せっかくの彼らの努力全体を損なうような暴挙だったというべきです。個人的には細則Cの2項4号により大会失格にしてもよかったと考えるのですが、運営責任者はスピーチ中のコミュニケーションについてはご執心である一方、表彰式での非礼については寛容でいらっしゃるようで、そのような処分の話は出ていませんでした。本当はこちらの方がずっと重要なことのはずですけど。
さらに、彼らは表彰時のコメントとして「今日は派遣労働者の格好をしてきたのだが、似合わなかったかな?」というようなことも言っていたのですが、これはギャグ(?)として全く面白くないというだけではなく、今回の論題を議論する者の発言として不適切な発言でした。彼らは肯定側の立場で派遣労働者の待遇改善などを議論していたのだと思いますが、その一方で派遣労働者を小馬鹿にしたような発言をするということは、果たして今回の論題を真剣に考えているのかという点で疑問がありますし、(厳しい言い方になってしまいますが)人間としてどうなのかと考えさせられます。

大会での優勝がうれしかったということでついやってしまったということなのでしょうが、そのようなことはディベートに限らず一般にはありえないことです。柔道や剣道といった武道は言うに及ばず、野球やサッカーでも、表彰式で暴れるようなことはありえません。ディベートコミュニティは小さく、ともすれば緊張感を欠いて舞い上がってしまうこともあるかもしれませんが、それが非礼な振る舞いを正当化する理由になりえないことは言うまでもないことであって、当事者の方々は自分たちが恥ずかしいことをしていたということを自覚し、反省していただきたいものです。
もちろん、こう言うことは彼らの努力を否定するものではないし、彼らには今後の大会でより素晴らしい議論を期待しております。ただ、礼儀を欠いた振る舞いは彼ら自身にとって良くない結果しか生まないし、そのような態度のままでは優れた議論は作れないだろうということは、言っておきたいところです。

派遣労働論題を考えるにあたって
今期の高校論題は非常に難しく、どのように議論すればいいのか分からないといった向きもあるでしょう。その原因の一つとして、一口に「派遣労働」といっても、その内容は様々であるということが挙げられます。肯定側は派遣労働の悲惨な実態を挙げる一方で、否定側は派遣労働の恵まれた側面を挙げることが多いのですが、これはおそらく両方とも当たっていて、派遣労働者の中には大変な思いをしている人もいればそうでもない人がいて、全てを一緒にして議論することはできないということです。
そこで、この論題をリサーチするに当たっては、まず大前提として「派遣労働とはどういう仕組みなのか、どうして派遣労働という雇用形態が取られているのか」を、企業側と労働者側の立場から整理して理解する必要がありそうです。その上で、派遣労働はどのような業種で導入されていて、そこではどのような人が働いているのかを考えてみると、派遣労働の光と影が見えてくるのではないでしょうか。さらに、労働者だけでなく企業側の都合なども入れて分析できると、これまで見えてこなかった議論があるはずです。そこまで来ると、肯定側の立場から何を論じるべきか、否定側から何を論じるべきかが自ずと見えてくるでしょうし、意味もなくアンケートの数字をぶつけ合うこともなくなるでしょう。

上記のような観点から議論を整理した後に注意すべき点は、自分たちと相手方が議論している派遣労働者はどのような人か(単純労働に従事する登録型の短期派遣の人なのか、専門性のある職務に従事する常用雇用型派遣の人なのかetc)を意識した上で、それぞれの出している議論・証拠資料がどのような労働者を前提としたなのかということに気をつけるということです。
その上で、光と影の両面がある派遣労働について、そのどちらの側面を重視すべきかということについて、自分たちなりの理由付けをすることが大切です。それは立論の「重要性・深刻性」でこってりと論証すべき部分です。重要性や深刻性というのは、失業者の数や生活困窮の度合いで終わるものではなく、そのような要素が相手方の主張する議論を前提としても重視されるべき理由を述べることが期待されているということは、忘れないようにしてください。

プラン後の派遣労働者処遇を定めるプランの効力に関して
今大会で散見されたプランとして、「派遣労働禁止後、現在の派遣労働者を正社員として雇い入れることを企業に義務付ける」といった、プラン後の派遣労働者の扱いについての規定がありました。正社員とまでいかなくてもパートや契約社員にする義務を課すチームもあったようです。
これらのプランについては、それが本当に実行可能であるのかという疑問(全員正社員化したら企業はつぶれるでしょう)もありますが、そもそもこのようなプランは論題外であり、そこから生じたメリットはカウントされないという問題点があります。すなわち、上記のような正社員化プランを前提として、「プラン後は派遣労働者が全員正社員になるので問題は解決する」と述べたところで、それは派遣労働の禁止によるものではない(派遣労働を禁止しないまま、現行の派遣社員を全員正社員にするという法律ができれば同様の結論となる)ため、肯定側を勝たせる理由にはなりません。

肯定側としては、このようなプランによって解決性をカバーするのではなく、労働者派遣法のできる前の雇用状況や現在の派遣労働者の従事している職務の特質、企業の状況などを分析した上で、派遣労働が禁止されると派遣労働者の処遇はどうなるのかという点についてきちんと議論する必要があります。それはもちろん易しいことではないのですが、避けて通れない道ですから、頑張ってください。
もっとも、派遣労働者の処遇について定めたプランは、デメリットを防ぐための手段としては許されます。例えば、プラン後に派遣先企業が派遣労働者を正当な理由なく解雇することは許さず、原則として同等の待遇による非正規雇用にシフトすることを義務付ける(労働者と直接の契約関係にない派遣先にかかる義務を課すことができるかは法的に疑問もありますが…)といったプランにより、プラン後の派遣労働者失業というデメリットを防ぐということは、プランの実効性が証明される限りで認められます。ただし、このようなプランから別のデメリットが生じる(雇用調整が効かなくなって企業が困るetc)というリスクもあります。

中身のある反論をしよう
論題についての議論はこのくらいにしておいて、技術的な話をさせていただきます。これは今大会に限った話ではありませんが、特にスピーチが上手なチームについて、いろいろ言っているけど反論として中身のある議論は実は少ない…といったところが少なくありませんでした。
(もちろん、充実した反論をしていたチームもありましたが)

具体的には、相手の立証不備を指摘するものの、カウンターで何らかの論証をするでもないというスピーチが多かった気がします。喋っている側は気持ちいいかもしれませんし、ディベートに慣れない方が聞けばすごそうに思えるスピーチですが、ジャッジは議論を評価しながら聞いているわけで、そのような不備の指摘はされなくても分かっていることで、判定にはほとんど影響しません。
立証不備の指摘が全く無意味かといえばそうでもなく、なぜその点を立証すべきかを示した上で丁寧にスピーチすればジャッジの印象として無視できない影響も生じるのですが、単に「数が不明」とか「具体的でない」というだけでは、ジャッジの第一印象と何ら変わらない感想にすぎず、判定上意味のあるスピーチとは認識されません。ましてや、自分たちの立論も同じくらい「具体的でない」のならなおさらです(そういう反論しかしないチームはだいたいそうです)。

反論として充実したスピーチをするためには、相手が出してくる議論を予想した上で、それを覆すようなロジックやデータを用意しなければなりません。立証不備を指摘する場合でも、その後に反証のデータを用意してほしいところですし、どういう点で不備があるのかを具体的に述べるべきです。
例えば「現在パートの平均月収は8万円で、派遣労働だと16万円なので、プラン後は派遣の人がパートに移行するので賃金が半額になる」という議論があったとして、「半額になることで生活がどのくらい困るのか分からない」といった批判でお茶を濁すのではなく(困るに決まってるでしょ!)、「彼らの出したデータは現在のパートと派遣を比べたものであってナンセンスである。現在のパートは主婦などが多く、所得税がかからないようにわざと労働時間を抑えて働いており、時給も低い。派遣労働者は現在のパートより大変な仕事をしているから、プラン後も自給はそれなりに出るし、フルタイムで働くから今のパートよりはるかに多くの給料をもらうはずだ。彼らが証明すべきは『プラン後の』パートになった人の状況であり、その立証は彼らにはない」という指摘をしなければならないということです。


以上、春季大会の感想でした。中学論題は見た数が少ないので割愛しています。
全体として、難しい論題でありながら限られた時間で一生懸命準備してきたあとが見え、観ていていろいろ考えさせられるよい大会でした。これから全国予選までの間、派遣労働という世界について丁寧に考えていくなかで、より深い議論が構築されていくことを願っております。
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