愚留米の入院日記
日当たり良好の某法科大学院既習病棟を退院した法務博士の日記。しかし内容はほとんど趣味のディベートの話
第13回ディベート甲子園中学の部論題付帯事項改正についての雑感
今年の新司法試験も終了したようです。問題は見ていませんが、4日もあるということでさぞ大変だったことだと思います。あと一年で僕も試験を受けることになる予定ですから他人事ではないのですが、とりあえず今のところは前回挙げた目標をこなせています。行政法は意外と条文を覚えるべき問題が多いようで、結局記憶力勝負なのだなぁという感じです。

さて、今日はディベート関連の記事ということで、先日全国教室ディベート連盟(NADE)のサイトで発表された中学論題の付帯事項改正について簡単に私見を述べておくことにします。
以下の内容のうち意見にわたる部分は筆者の私見であり、何らかの公定解釈を述べるものではないことを最初にお断りしておきます(当たり前ですが)。

さて、付帯文の改正は以下のようになっております。

論題「日本は中学生以下の携帯電話の使用を禁止すべきである。是か非か」
【改正前】
*携帯電話・PHSを所有することと、継続的に借用することを禁止する。
*身体に障害のある人については使用を認める。
【改正後】
*携帯電話・PHS(通話機能のないインターネット端末を含む)を所有することと、継続的に借用することを禁止する。
*身体に障害のある人については使用を認める。


改正内容は、携帯電話・PHSの定義について括弧書きにて修正を加えているというものです。今回の改正についてNADE事務局長の藤川先生が「中学の部論題の付帯事項修正のお知らせ」(以下単に「解説」と呼ぶ)という解説を書いており、ここに改正の趣旨が載せられています。

以下では、今回の付帯事項改正について、解説の内容との関係で思ったことを書かせていただきます。内容としては、解説の内容の妥当性に関するものと、解説が試合に与える影響に関するものの点を取り上げます。

解説内容の妥当性
解説によれば、今回の付帯条項改正は、規制の対象である携帯電話の対象について明確にすることを目的としているようです。そこでは、「今回のディベート甲子園の論題でも、携帯電話の回線を使っているものについては、たとえ通話機能がなくてもインターネットに接続して電子メールやインターネット・サイトの利用ができるものについては「携帯電話」に含めて考える必要があります。このことを明確にするため、今回、付帯事項の表記を修正させていただきました。」とあります。
要するに、携帯電話の回線を使っていれば、電話ができなくても携帯電話に該当しうるということです。この点につき、解説では無線設備規則の規定を理由として挙げていますが、ここでは実際の条文を見ながら確認してみることにします。

まず、無線設備規則の該当条文を見ると、以下のようになっています。

無線設備規則
第三条  この規則の規定の解釈に関しては、次の定義に従うものとする。
一  「携帯無線通信」とは、電気通信業務を行うことを目的として、携帯して使用するために開設され、又は自動車その他の陸上を移動するものに開設された陸上移動局と通信を行うために開設された基地局と当該陸上移動局との間で行われる無線通信(第七号に規定する空港無線電話通信及び第八号に規定するデジタル空港無線通信を除く。)をいう。


これによれば、携帯無線通信(携帯電話と同視できるかはとりあえず置いておきます)とされるには、電気通信業務を行うことを目的に、携帯されたり自動車などに置かれる陸上移動局(端末のことです)と基地局(固定されたアンテナのこと)の間で行われる無線通信でなければならないようです。ややこしく書かれていますが、法律はだいたいこんなものです。
さて、ここで問題となるのは、目的とされる「電気通信業務」とは何か、ということです。この点については、無線設備規則ではなく電気通信事業法に定義規定があります。

電気通信事業法
第二条  この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一  電気通信 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。
二  電気通信設備 電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備をいう。
三  電気通信役務 電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他電気通信設備を他人の通信の用に供することをいう。
四  電気通信事業 電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する事業 (放送法 (昭和二十五年法律第百三十二号)第五十二条の十第一項 に規定する受託放送役務、有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律 (昭和二十六年法律第百三十五号)第二条 に規定する有線ラジオ放送、有線放送電話に関する法律 (昭和三十二年法律第百五十二号)第二条第一項 に規定する有線放送電話役務、有線テレビジョン放送法 (昭和四十七年法律第百十四号)第二条第一項 に規定する有線テレビジョン放送及び同法第九条 の規定による有線テレビジョン放送施設の使用の承諾に係る事業を除く。)をいう。


とりあえず括弧書きの除外部分は無視してよいと思われますので、電気通信事業とは電気通信役務を他人のために提供することであるということになります。電気通信役務とは、三号にあるとおり、他人の通信を媒介したり、他人の通信のために電気通信設備を使わせてあげることです。

まとめると、携帯無線通信とは、「通信の媒介や通信のために設備を提供することを目的として、陸上移動局と基地局との間で行われる無線通信」ということになります。
ここから分かることは二つあります。第一に、「陸上移動局と基地局との間で行われる無線通信」でなければならないということです。第二に、通信の媒介や通信のために設備を提供することを目的とする必要があるということです。後者の意味は、端末の使用方法が電話であろうがメールであろうがインターネットであろうが、これらは通信の媒介である以上、携帯無線通信に当たるということです。
この二点については、解説の最後に「携帯電話の回線が使われているかどうかということと、通話、電子メール、インターネット・サイトの閲覧ができるかどうかということが、「携帯電話」かどうかの判断基準となります。」として示されています。

では、この二つの基準が無線設備規則や電気通信事業法の解釈として本当に正しいのか、ということについて、法文を眺めた素人的感想としていくつか指摘することにします。ただし、解説を書かれた藤川先生はメディアリテラシーの専門家であり、そっちのほうがずっと信憑性が高いだろうということはお断りしておきます。藤川先生は論題研究会で講師も担当されていたそうなので、講座に出ていてそこでの内容をご存知の方がおられましたらご教示いただけましたら幸いです。

第一の基準、「携帯電話の回線が使われているかどうか」というものについては、携帯電話の基準をいうのに「携帯電話の回線」なる概念を持ち出すのはトートロジーであり、定義になっていないのではないかという素朴な疑問があります。
この点、ここまで見てきた内容だと「陸上移動局と基地局との間で行われる無線通信」がそれに当たるようなのですが、この定義によれば、解説の中で携帯電話該当性を否定されている「最近のゲーム機や音楽プレイヤーに見られる、無線LANを使ってインターネットを利用可能なもの」については、無線LAN基地局というものを考えることができる以上、携帯無線通信に当たるのではないかというように思われます。この基準で排除されるのは、パソコンなど固定された端末により行う通信や、電話などの有線通信に限られるのではないでしょうか。

第二の基準、「通話、電子メール、インターネット・サイトの閲覧ができるかどうか」という点については、目的である電気通信事業がこれだけに限られるのかという点が気になります。解説では「かつてのポケットベルは、通話も電子メールもインターネット・サイト接続もできないので、「携帯電話」には含まれない」とあり、単純な通報機能だけでは電気通信事業に当たらないと考えているようなのですが、通信の中には一方通行のものも含まれると考えると、単純な通報であっても「通信の媒介」であって、携帯無線通信に該当する余地がありそうな気がします。

というわけで、解説に挙げられた二要件が携帯電話の定義を画するものとして妥当かと考えると、法文を見るうえではそのように断定できるわけではなさそうな気がします。
ここで、そもそも無線設備規則の「携帯無線通信」を携帯電話と同視してしまってよいのか、ということが問題となります。そもそも、携帯電話が生まれた最初には「インターネットやメールができる端末」などということは考えられなかったわけで、我々が現在「携帯電話」と呼んでいる端末は、実際に使用されている端末の機能からイメージされるところのもので、確固たる定義などないというのが自然な考え方ではないでしょうか。
それでも敢えて「携帯電話」という言葉の定義をするならば、そこには「色々できて便利な『電話』」という感じになるのでしょうが、そこでは解説にある「たとえ通話機能がなくてもインターネットに接続して電子メールやインターネット・サイトの利用ができるものについては「携帯電話」に含めて考える必要があります」という考え方は、社会通念に反したものであるといえなくもありません。

では、解説で言われている考え方というのは理由のない、おかしな定義なのでしょうか。結論から言うと、今回の論題における定義としては真っ当であると思います。というのは、ディベートで論題を定義する際には、想定される(推奨される)議論の内容を円滑に実現するという目的が加味されるべきであり、その見地からすれば「現在使用されている携帯電話の回線を使用するもの」かつ「電話・ネット・メールのいずれかが使用可能なもの」に規制対象を絞ることは自然であるからです。
法文上「携帯電話」の定義がない以上、携帯電話の使用を規制しようと考えるときには、規制目的との関係で規制すべき対象が含まれるような形で定義をしなければなりませんし、規制目的と関係ないものを規制することは避けることが望ましいでしょう。例えば、携帯電話を使いながらの運転が危ないということでながら運転を規制しようと道路交通法を改正した際には、以下のような条文が作られました。

道路交通法
第七十一条  車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
五の五  自動車又は原動機付自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置(その全部又は一部を手で保持しなければ送信及び受信のいずれをも行うことができないものに限る。第百二十条第一項第十一号において「無線通話装置」という。)を通話(傷病者の救護又は公共の安全の維持のため当該自動車等の走行中に緊急やむを得ずに行うものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置(道路運送車両法第四十一条第十六号 若しくは第十七号 又は第四十四条第十一号 に規定する装置であるものを除く。第百二十条第一項第十一号において同じ。)に表示された画像を注視しないこと。


ここで挙げられている「携帯電話用装置」そのものの定義として、手で保持しないと送受信のいずれも行えないものであるという限定が付されていることに注目しましょう。規制目的からすれば、手を使わなくてもいい通信についてはそれほど危なくないので、それは携帯電話から外してもいいと考えるわけです。また、使用方法も「通話」に限られています(メールなども危ないのでダメですよ)。
さらに、携帯電話の販売方法について規制した法律では、以下のような形で規制対象の定義がされています。

携帯音声通信事業者による契約者等の本人確認等及び携帯音声通信役務の不正な利用の防止に関する法律
第二条 この法律において「携帯音声通信」とは、携帯して使用するために開設する無線局(第四項において「無線局」という。)と、当該無線局と通信を行うために陸上に開設する移動しない無線局との間で行われる無線通信のうち音声その他の音響を送り、伝え、又は受けるものをいう
4 この法律において「携帯音声通信端末設備」とは、電気通信事業法第二条第二号に規定する電気通信設備のうち携帯音声通信を行うための無線局の無線設備をいう。


ここでも「携帯電話とは何か」という定義はされていませんが、規制対象として、音声その他の音響を伝えるための端末を想定していることは明らかです。

このように考えれば、今回の論題が採択された背景として犯罪増加やネットいじめなどが挙げられている(中学論題解説参照)ことからして、それらを論じてもらうために携帯電話の定義を解説のように定めることは自然であるというように考えられます。

しかしながら、後で述べますが、解説の内容がそのまま付帯事項の解釈となりうるかは争いがあるところ、「通話機能のないインターネット端末を含む」という改正部分が解説で意図されている定義基準を十分反映しているとはいいがたいのではないでしょうか。また、既に見てきたとおり、携帯電話の定義が必然的に解説での二要件を導くというかというとそうでもなさそうであり、そうだとすれば「携帯電話とはこういうものだ」という書き方ではなく、「今回はこういう議論をしてほしいので、こういう定義で試合をしてほしい」という形で知らせた方がよかったのではないかとも思います。
*もちろん、そのように書くことが議論を限定してしまうという恐れはありますが、今回の改正の実質的趣旨は、マニアックな端末についても「禁止」といえてしまうことによって不自然な議論が生じていることを是正するというものだと推測されます。だとすれば、それを正面から言ってしまっても別にいいんじゃないかと個人的には思います

結論としては、付帯条項としては冗長かもしれませんが「ここでいう『携帯電話』には、現在携帯電話事業者が使用している回線を用いたもので、通話・電子メール・インターネットサイト閲覧のいずれかが可能な端末を含む」とでもすればよかったのではないかと思うわけです。

解説内容が判定に及ぼす影響
以上はさておくとして、実際に今回の改正に従って試合を行ったとしても、改正された付帯事項の内容だけでは解説の意図した定義を貫徹できないということは容易に想像できます。例えば、インターネットが可能な携帯ゲーム機は、「通話機能のないインターネット端末」と呼べます(解説では携帯電話回線の使用がないという理由で排除しているが…)から、試合中に否定側から「論題を採択するとPSPも規制されてしまう」ということを言われたときどうするのか、ということが問題となります。

そうなると、今回の付帯事項を解釈するに当たっては、解説の内容を踏まえ、いわゆる二要件の有無によって規制対象となるか否かを判断すべきであるということになります。しかし、今回発表された解説がそのような拘束力をジャッジ及び選手に対して有するかについては、議論の余地があります。
NADEのサイトでは付帯事項改正のお知らせがなされ、それに付随する形で解説が掲載されていますが、付帯事項を含む論題のどこを見ても「その解釈を解説に委ねる」といった内容はありません。もちろん、改正担当者の改正趣旨が当該条項の解釈に大きな意味を持つというのはそのとおりですが、そう考えるとしても、選手が一切議論していないのにジャッジが勝手に解説の内容に依拠した判定ができるかというと、かなり怪しいように思います。というのも、改正担当者の改正趣旨は定義をどう解釈するかという論点についての一証拠資料にすぎないところ、選手が提出しないのにかかる証拠を採用することは弁論主義違反に当たるからです。
また、試合中に解説の内容が引用されたとしても、ジャッジはこれを採用しない自由があると考えられます。実際の訴訟でも、法律の解釈を争う中で立法趣旨が援用されたにもかかわらず、それを取らずに法文の文言など別の要素を重視して立法趣旨と合わない解釈を採用した裁判例はいくつもあります。

問題は今回の解説をどのように位置づけるのかという点にあるのですが、解説という形で試合に影響を及ぼそうとすることについては限界があるというのが正直なところであり、可能であれば付帯条項の再修正によって解説で意図された内容が全て含まれるような定義規定をすべきであるというのが、筆者の考えです。


以上、中学論題の付帯事項改正に関するコメントでした。相変わらず長くていけませんね。
ちなみに、高校論題についても解説が2つほど出ています。そのうち個人名が出ていないほうの内容については、僭越ながら僕が担当して書いております。というわけで言いたいことはそこに尽きているのですが、関連して議論できることも若干あるにはあります。しかし、ここまでで相当な長文なので今回は自重し、実際に問題が生じたということを聞いたらもしかして書くかもしれない、ということにしておきます。
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